経営改善って何をすること? そう思った農業経営者のための、自己診断チェックリスト
私は毎年たくさんの農業経営者と出会います。
一対一の経営相談でしたらこちらからいろいろと質問ができるので、経営の概要を時間をかけて理解することができるのですが、セミナーなどの機会ではそうはいきません。
そういう場面では、「経営チェックリスト」というものをお渡しすることがあります。
今回紹介するのは「農業参入」のチェックリスト。
「農業をやってみたい」という個人のかたは多いですし、最近は「新規事業として農業をしてみたい」とお考えの企業も増えてきました。
そういったかたがたに向けて、農業をはじめるにあたって絶対にチェックしておくべきことに絞った、10項目のチェックリストをお届けします。
すでに農業をしているかたに向けた「農業経営診断」のチェックリストはこちらです。

チェックリストの使いかた
農業をはじめるということは、一昔前までは「農業生産者になる」ということでした。
市場や農協が主要な販路なので、生産したものが売れないということは基本的にはなく、生産することに専念することが重要でした。
しかし、それではうまくいかないということが、多くの就農者・農業者の目に明らかになってきました。
独立就農するということは、経営者になるということです。
世の中にある課題やニーズに応えていくのが経営者の仕事で、ひたすらものを生産していればいいというわけではありません。
農業界でも経営感覚をもっている経営者のもとには人と資金が集まり、そうでない農業者は苦戦するという構図があります。
規模を大きくしないとしても――あるいは、規模を大きくしないからこそ――小さな面積で効率よく売上を立てていくためには経営の発想が重要です。
以下のチェックリストには、財務面はもちろん、その他の視点についても、うまくいかなかった新規就農者や農業外からの参入企業が典型的に「実施していなかったこと」からピックアップした課題を載せています。
ぜひ、一つひとつチェックしたうえで、後半の解説も参考にしながら、ご自身の就農計画・農業参入計画をより実現性の高いものにするためのヒントとしてお使いください。
農業参入チェックリスト
1.利益(もしくは所得)の目標値がある
もし利益や所得の目標値がなければ、たとえ計画通りに生産・販売ができても、利益を生む経営にならないかもしれません。
就農の計画を立てるうえでも、まずは利益の目標を明確にし、それを実現できるような計画を立てましょう。
「いくらの利益(もしくは所得)が必要か」を考えたうえで、その確保に必要な経営規模(面積・投資規模)を決める、という順番が鉄則です。
2.「5年以上の収支計画」がある
ある程度の投資をしなければ、利益が残る農業は実現困難です。
投資回収ができるのか、借入をしっかり返せるのかなど、中長期的な収支計画を作成しましょう。
農業はうまく土台をつくれれば安定的に利益を生み続けるものの、設備投資が重たいため、投資回収は一般的には10年近くかかるものです。
自己資金だけで取り組もうとすると効率を上げられずうまくいかないので、よほどのことがない限り借入は必須。
そのため、現金・預金がどのように推移するのかを最低でも5年分は見通しましょう。
3.「1年以上の月次の資金繰り管理表」がある
農業は生産開始から売上の入金までの期間がとても長い事業。
年間のキャッシュフローがプラスとなる見込みでも、期の途中でキャッシュが足りなくなるリスクがあります。
参入のためには、少なくとも1年分は月次の資金繰り管理表を作成しておきましょう。
4.月次の労働時間の計画がある
農業経営が赤字となる場合の原因としてとても多いのが、人員に対して売上が小さすぎること。
毎月必要な労働力を見積もって、最小限の人員で運営する体制を整えましょう。
主要な品目であれば、作業ごと・月ごとの所要労働時間の指標が、都道府県のウェブサイトや書籍中に見つかるはずです。
そうした資料を参考に、どの時期にどのくらいの労働時間が発生するのか、予測しておきます。
もし月による波が大きければ、繁忙期が異なる品目の組み合わせや、スポット人材サービスの活用を検討してみましょう。
5.販路となる取引先の候補が3つ以上ある
技術面で不利な参入者は、せめて販売面では有利な条件を確保したいものです。
参入前から取引先候補との商談を開始し、販売の見込みを極力高めたうえで事業を開始できることが理想です。
近隣の直売所やスーパーマーケットなどを日ごろからよく観察し、どの産地のどのような商品がどのくらいの価格でどのくらいの数量並んでいるのか確認し、自信が生産する品目を決めるヒントにしてください。
また、飲食店や加工業者なども販路の選択肢としてありえるので、条件が合いそうな事業者が近隣にないか探してみるとよいです。
6.認定新規就農者の要件を自治体に問い合わせた
公的支援や低金利・無金利の融資を受けて営農を開始したいのであれば、認定新規就農者となることが大事です。
要件が自治体(市町村)により異なるため、まずは相談に行きましょう。
それ以外にも、地区ごとの農業の特徴や自治体の農業政策など、参考になる情報をいろいろともらえると思います。
7.参入候補地があり、地域の農家と面識がある
農地の確保は農業をするために必須。
耕作放棄地が増えているとはいえ、農地の賃借・購入のためには地域の農家・地権者からの信用獲得は欠かせません。
積極的に交流し、相互の理解を深めましょう。
企業参入の場合、農地所有適格法人の要件も要確認。
8.生産技術習得のめどが立っている
農業は生産活動だけで成り立つわけではありませんが、生産ができなければ農業はできません。
技術習得のための研修や視察を計画しておきましょう。
農業大学校などで学ぶという手もありますし、自治体等から研修生を受け入れている農家さんを紹介してもらうという手もあります。
9.参入に必要な設備とその金額を把握している
最初の設備投資の内容によって、その後の事業の成否が大きく左右されます。
見積は複数の事業者から取得するべきです。
農機を持て余している農家さんも多いので、使わない時期に有償で使わせてもらうことや、不要になったものを購入させてもらうことを検討してみるとよいです。
また、中古品のオークションも定期的にチェックしておくと、条件のよいものが見つかるかもしれません。
10.農業経営について月に10時間以上学んでいる
農業の収支構造や経営管理、マーケティング、組織運営など、生産以外にも学ぶべきことはたくさんあります。
参入前はもちろん、参入後も情報収集と学習を継続することを勧めます。
どこから手をつけるか?
チェックリストを見て「こんなにたくさんの準備が必要なのか」と途方に暮れたかたもいらっしゃるかもしれません。
しかし、一つひとつの項目を着実にこなしていけば、就農の成功が確実に近づきます。
それに、就農前に実施していないと、「あのときやっておけばよかった」と後悔するかもしれません。
このチェックリストの内容は、私が多くの新規就農者の経営相談に載ってきた中で見えてきた、就農者が典型的に抱える課題をもとにしたものです。
どこでどのように失敗するかは、はじめる前には分からないもの。
転ばぬ先の杖として、ぜひ実践してください。
目安として、何から優先的に取り組むべきかを案内します。
「農業を仕事にしたい」と思い立ったら
いきなり自治体に相談に行ったり、事業計画をつくったりすることは、ハードルが高いと思います。
まずは農業を仕事にするというのがどういうことなのか、本を読んだり、農家さんに話を聴くなりして、理解を深めていきましょう。
まずは10の「農業経営について学ぶこと」からはじめてください。
情報はたくさん見つかるはずですが、どれを信用すればよいのか、最初は判断がつかないと思います。
さまざまな人の、それぞれに異なる見解を聴いていくことをお勧めします。
本ウェブサイトの情報や無料相談も活用していただければ幸いですが、ぜひ、それと相反するような意見にも耳を傾けて、ご自身としての判断を形づくってください。
新規就農に関する私の意見の概要は以下の電子書籍に書いているので、もしよければお読みください(Kindle Unlimitedを利用しているかたは無料で読めます)。
『農業で生きていくための経営入門』
https://amzn.asia/d/0bRKvfL3
さらに一歩踏み出してみようと思ったら
農業について学び、本格的に検討しようと思ったら、必ず5の自治体への問い合わせを行ってください。
最近は新規就農・農業参入担当の職員を配置している自治体も増えてきており、丁寧に説明してもらうとともに、産地の特徴や自治体独自の就農支援事業など、その地域ならではの情報を獲得できると思います。

これと同時に、6の参入候補地検討も始めるとよいでしょう。
いきなり農家さんとコミュニケーションをとるのは難しいと思いますが、避けては通れない道です。
研修生を受け入れている農家さんを紹介してもらうという手がありますし、アルバイトを募集している農家さんのところで試しに働いてみてもいいかもしれません。
最近はタイミーなどのスポットアルバイトのサービスを利用している農家・農業法人も多いので、こうしたサービスでいくつかの農家さんでの仕事を経験してみると、農家さんとの繋がりができますし、どのような農業が自分に向いているのか考えるきっかけにもなるでしょう。
もし引っ越し・移住前提の就農なら、自治体の移住支援の職員さんにも話を聴いて、空き家や移住支援施策について確認しておきます。
農業で生きていけるか不安
技術や農地といった最低限のことについてはめどが立ったとしても、はたしてそれで生きていけるのかというと、不安はつきまとうものです。
こうした不安を多少なりとも軽減するとともに、失敗を防ぐために、事業計画は早い段階、できれば技術面の研修を受け始めるより前に作成しておくことをお勧めします。
事業計画があると、学校で学ぶにしても農家さんから学ぶにしても、視点が変わってきます。
数字をもっていないと漫然と作業をこなすだけになってしまうかもしれませんが、数字をつくってみると、その中でも不安なところや自信がないところなどが見えてくるので、研修で学ぶことの質が高まります。
たとえば、肥料を撒くにしても、「自分の計画では肥料費は反あたり20,000円だけど、この肥料は1袋いくらなんだろう? あとで農家さんに訊いてみよう」など、より実践的かつ自身にとって必要な知識を獲得しやすくなっていきます。
事業計画をつくるうえでは、まず1の目標設定から。
目標を立てたら、長期的な収支計画(2)を立てます。
これと並行して労働時間の計画(4)も作成してみると、労働時間が過剰になりすぎないか、雇用は必要ではないかなどが分かり、収支計画の精度が高まります。
資金繰り管理表の作成(4)は少し先でもよいですが、借入の検討をはじめる段階では必ず作成してください。

5の販路確保が必要かどうかは、どのような農業をするのかによって変わってきます。
ただし、独自の販路が必要ではないとしても、独自の販路をもっていることが経営上有利になることは間違いないことです。
とくに観光農園など、自身の力で集客することが必須の農業に関しては、目標設定(1)をするのと同時に、その目標を実現するための集客のハードルがどのくらい高いのか、必要に応じて第三者にも意見を求めてみるとよいです。