前回に引き続き、ゴールからの逆算について書いてみます。
今日、経営に関する研修を一つ行ったので、それを題材にします。
その研修は、ある県の職員を対象として、経営評価をする上での基本を伝えるためのものでした。
2時間ほどのセッションを3日に分けて行う研修です。
今日はその第1日目でした。
これをどのように準備したのかということを紹介します。
まずは全体の目標を設定する
まずは目標を設定しました。
3回の研修があるので、全体として何をゴールにするかということを決めます。
依頼者からのオーダーがあるので、そのオーダーに沿って設定しました。
具体的には、その研修を経たら「担当する経営体に対する経営の基本的なアドバイスができるようになる」ということを目標として設定しました。
このような目標を設定した上で、それを達成するためにはどのような条件が必要かと考えます。
経営のアドバイスができるようになるためには、経営評価の手法を理解することが必要です。
手法を理解しただけではうまく使いこなせない可能性があるので、その手法を具体的にどのように使うのかということも体得しなければなりません。
そこで、基本的な方針として、まずは理論的な部分を大まかに説明し、続いて実践形式の演習を行うという設計にしました。
考えた手順としては、以下のような感じです。
ステップごとの目標を設定する
まず、第3回が終わった時点で、経営のアドバイスが多少なりともできるようになっている必要があります。
そのためには実際にアドバイスを考えることが大事なので、第3回は担当している相手へのアドバイスを考えるという、極めて実践的な時間にします。
そうした実践的な演習ができるようになるには、少なくとも何をどのような手順で行えばいいかを理解しておくことが必要です。
そこで、第2回では難易度が低い事例で一連のプロセスを経験する、という設計にしました。
この事例演習をするうえでも、たとえば「流動資産を流動負債で割って流動比率を計算してください」とだけ言われて取り組んだだけでは、ただ計算をしているだけで、その意味を理解しているとは言えず、適切なアドバイスや説明ができるようにはならないでしょう。
こうした事態を防ぐには、多少なりとも財務指標などの背景知識をもっておくことが大事です。
そこで、第1回では基本的な手法や理論面を説明することにしました。
逆算のキーワードは「状態」
このように、ゴールを設定したら、その一歩手前でどのような「状態」になっているべきか。
その一歩手前の状態を実現するためには二歩手前でどのような状態になっているべきか。
……といったように、「状態」をキーワードとして、一歩ずつゴールから手前へと戻るように考えると、余計な道にそれる心配が少なくなります。
ちょうど、数学の証明のようなものです。
中学校でよくやるものとして、たとえば「△ABCと△DEFが合同であることを証明する」という問題なら、合同であるためにはたとえば「2辺とその間の角がそれぞれ等し」ければいい、と一歩手前を考えるのと同じです。
この意味で、論理学を学ぶことには意味があります。
もう少し、事例での紹介をつづけます。
各回の目標状態が定まったとして、第1回目の理論の説明はどのようにしていけばよいでしょうか。
いろいろな整理の仕方があると思いますが、今回は以下のように考えました。
- 経営評価の基本的な方法が理解できているということは、経営の問題を指摘でき、かつ、アドバイスができるということ。
- 経営の問題を指摘できるようになるためには、財務指標を理解することが必要。
- 経営のアドバイスができるようになるためには、どのような取り組みをすればどのように財務指標が変化するかという関係を理解することが大事。
そこで、内容としては、
- 重要な財務指標を説明する。
- 基本的な改善の取り組みを紹介する。
- それらの取り組みと財務指標の間にどのような関係があるかを説明する。
といった構成が考えられます(少し特殊な事情があったので実際に行った研修の内容は上記とは異なりますが、考えるステップとしては同じです)。
実際には、もっと細かく研修の内容を考えていきました。
例えば財務指標の説明を考える上では、「自信をもって経営へのアドバイスができる」という目標を設定して、この目標を達成するには
- 利益に与える影響が大きい指標を知っている
- 指標の意義や計算方法を理解している
といったことが必要だ、と考えて内容をつくっていきました。
このように、目標を設定し、その目標が達成された状態はどのような状態か、さらにその状態を実現するために必要な条件は何か、…と、「実現したい状態」という観点から問いを深めていくと、進むべき道筋が見えてきます。
どこからどのように手をつけたらよいのかわからないという場面に出くわしたら、このように、一歩ずつゴールから手前に戻ってくるようなつもりで考えてみてください。