1シート管理のすすめ――損益計算書・キャッシュフロー計算書・貸借対照表をまとめて計画・管理する

事業の計画や推進には、様々な数字を取り扱う必要があります。
とくに中小企業の経営者にとって、計画と管理を一元化することは大変重要です。
しかし、多くの企業では数字の管理が分散しているため、計画が煩雑になり、効率的な管理ができていないケースが見受けられます。

今回は、こうした財務上の数字の管理を効果的に行うための1シート管理を紹介します。

なお、この記事はExcelやグーグルスプレッドシートのような表計算ソフトを使用する想定で書いています。
マネーフォワードなどの会計ソフトを使用している経営者がほとんどでしょうし(当社もマネーフォワードを使用しています)、規模によってはERPを導入しているでしょうが、計画作成や予実管理をすべてこうしたソフトやシステムで行おうとしても難しい場面は多々あります。
表計算ソフトを使用することはほとんど避けられないと思います。

数字管理の問題点

中小企業における数字管理の主要な問題は大きく二つあります。

  1. そもそも数字による計画や管理が行われていない。
  2. 計画が分散していて、管理が煩雑になっている。

これらの問題を解決するためには、シンプルな形で管理を行うことが肝心です。

計画の一元化の重要性

扱う数字の種類が多いと、計画を立てるだけでも大変です。
情報が分散していると、それらの数字同士の整合性を取ることが困難になり、1つの数字を修正したら別のファイルの数字も修正する必要が出てきます。
これでは効率的な管理は望めません。

そこで、基本的な経営に関する数字はすべて一つのファイル、できれば1つのシートで管理することをお勧めします。
複数の事業を行っている場合は事業ごとにシートを分けることが必要ですが、1つの事業については1枚のシートで管理することが望ましいでしょう。

1シート管理の方法

損益計画書

1枚のシートにどのような情報を載せるのかが重要です。
最低限の内容としては、損益計画となるでしょう。

損益計画とは、毎年あるいは毎月いくらの利益が生じるのかを示すものです。
損益計算書と同じように、上のほうに売上高があって、売上原価、販売費及び一般管理費、営業外収益、営業外費用、特別利益、特別損失、法人税等が足したり引いたりされ、税引き後利益が求められる、というものです(営業利益もしくは経常利益までの計画としているかたも多いですが)。

キャッシュフロー計算書

損益は事業の成績を評価するうえで非常に重要なものですし、利益がいくら出るのかというのは大変分かりやすい評価軸ではありますが、これだけでは経営管理をするうえで不安です。
というのも、損益計画だけでは「手元にお金はあるのか」がよく分からないからです。
大きな利益が出る計画を立てていても、それを上回る設備投資をするのなら、現金預金はどんどん減っていきます。

会社が倒産するのは利益が出なくなったときではなく、現預金がなくなるときです。
これを防ぐには、お金がどのように増減するのかという収支計画を立て、資金繰りを管理することが求められます。

損益計画(損益計算書)と収支計画(キャッシュフロー計算書)の統合

多くの経営者はこれらを別々に行っていますが、損益の動きと現金預金の動きは関連性があるため、同じシートで管理すると便利です。
損益と収支を別々に管理していると、たとえば7月の売上がもっと伸びると分かって損益計画を上方修正したら、次に収支計画を開いて、入金のある8月の数字を変更する…といったように、2つのシートあるいはファイルに手を加えなければなりません。
これはなかなか面倒です。

そこで、損益計算書とキャッシュフロー計算書を1つのシートにまとめておき、上記の例なら、「売上に対する入金は翌月にあるものとして損益計画だけ修正すればそれに応じて収支計画も変化する」といった仕掛けにしておくと、全体の数字の整合性が取りやすくなりますし手間も減ります。

貸借対照表

ここまでは、私が支援してきた経営者にももともと実践していたというかたが多くいらっしゃいました。
しかし、欲を言えばもう一つの要素を足したいところです。
それは、財務三表の残りの一つ、貸借対照表です。
貸借対照表まで計画を立てているという経営者にはあまり出会ったことがありませんが、貸借対照表は、決算書の一番最初に置かれていることからもわかるように、企業が積み重ねてきた資産や負債を示す極めて大事なものです。
資産や負債を今後どのように推移させるのかということをコントロールできると、財務管理の質がぐっと高まります。

1シート管理のステップ

損益計算書・キャッシュフロー計算書・貸借対照表をまとめた計画は、以下のようなステップで作成します(より具体的なことは別に記事を書きます)。

1.損益計画をつくる

このとき、使用している会計ソフトで使用しているのと同じ名前の勘定科目を用いると、会計ソフトからダウンロードした表をもとに予実管理ができるので便利です。

2.損益計画の下に収支計画部分を加える

収支計画はキャッシュフロー計算書と同様に営業・投資・財務の各キャッシュフローに分けて考えるとよいです。
この中では営業キャッシュフローが一番ややこしいかと思います。
損益計画で設定した収益や費用は、その月に入金されたり支払ったりするわけではないからです。

そこで簡易的には、科目ごとに入出金を当月・翌月・翌々月…などと決めておいて、たとえば消耗品費や雑費はクレジットカードを使うから損益計画に入れた翌月に支払う、仕入の支払いは2か月後だから翌々月に支払う…といったように、科目ごとに損益計画と収支計画を対応させるよう関数を入れていきます。

3.収支計画の下に貸借対照表の計画を加える

貸借対照表の計画を立てるには、科目ごとに関連する損益計算書ないしキャッシュフロー計算書の科目と関連させる関数を使用する必要があります。

たとえば固定資産は減価償却費の金額分ずつ目減りさせることになりますし、利益剰余金は前月末の数字にその月の税引き後利益の数字を足して計算することになりますし、現金及び預金は前月末の数字にその月のキャッシュフローの合計額を足して計算することになります。
こうした操作はやや手間ではありますが、一度フォーマットをつくってしまえばその後は手間がなくなります。

経営指標をもとにした計画づくりが可能に

このように貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書という会計における基本的な情報を網羅した1シート管理の体制をつくれば、さまざまなメリットが生じます。

たとえば、利益率のような損益計算書上の指標だけでなく、ROEや債務償還年数といった複数の資料にまたがる指標が容易に計算できるようになります。
貸借対照表は「結果的にこうなった」といった程度でしか見られていない経営者も多いですが、見る人が見れば経営のよしあしを極めて端的に示す重要な資料です。

ぜひ、貸借対照表のよしあしを意識して計画を作成するとともに、それによって貸借対照表を評価する力を養っていただければと思います。

事業の計画や推進において、数字管理を一元化することは大変重要です。
1シートでの管理を実践することで、効率的かつ持続的な管理が可能になります。
最初にフォーマットを作成するのは手間がかかりますが、一度つくってしまえば、その後の管理は格段に楽になります。

数字による管理ができる経営体質を実現するために、一度試してみてはいかがでしょうか。

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