ブランドはどうやってつくるのか? カテゴリーエントリーポイント(CEP)から考える商品開発とプロモーション

はじめに

    自治体が年度末なので、最近いろいろなところで自治体の事業での経営計画発表会にてコメンテーターをすることがあります。
    そうした中で頻繁に「ブランド化」というタームが出てくるのですが、ブランド化という言葉で何をしようとしているのかいまいち分からないことがほとんどです。
    今回は、そうしたイベントではコメントできなかったことについて書いてみます。

    多くの中小企業が「ブランドを強化しなければ」と考え、ロゴやキャッチコピーの作成、SNS運用などに注力します。
    しかし、やみくもにブランドづくりを進めても、ターゲットに響かなければ売上につながりません。

    そこで重要になるのが、カテゴリーエントリーポイント(CEP:Category Entry Point) という概念です。
    CEPとは、消費者が商品やサービスを知り、購入を検討するきっかけとなる場面のことです。
    CEPを意識した施策がブランドづくりの第一歩です。

    カテゴリーエントリーポイント(CEP)とは?

      カテゴリーエントリーポイント(CEP)とは、消費者が特定のカテゴリーの商品を探し始める際に、どのような状況やニーズでブランドや商品を思い出すのかを示すものです。
      たとえば、以下のような場面がCEPに該当します。

      • 「朝の通勤中にエネルギー補給をしたい」 → コンビニで栄養ドリンクを購入
      • 「家族で週末に外食をしたい」 → ファミリー向けレストランを検索
      • 「冬の乾燥対策をしたい」 → 保湿クリームを探す

      購買行動が起こる順番を考えると、CEPの意義がわかります。
      たとえば「リポビタンDというブランド」を思い出してから「エネルギーを補給したい」というニーズが生まれる、ということはあまり起こらないと思います。
      ふつうは、「エネルギーを補給したい」というニーズ=CEPがあって、それによって「リポビタンDというブランド」が想起されて、コンビニに買いに行こう、となります。

      何もないところから突然ブランドが思い出されることはありません。
      ブランドは、特定のニーズや環境といったCEPから想起されるものです。
      強いブランドとは、あるCEPにおいて真っ先に想起されたり、さまざまなCEPと結びついていたりするブランドのことです。

      CEPを活用するポイント

        それでは、どうやってCEPとブランドの結びつきを強くするのでしょうか。
        これには二つの側面があると思います。

        まず、商品がそのCEPにふさわしいものであることが必要です。
        「エネルギーを補給したい」というCEPにおいては、栄養ドリンクや糖質の多い食事は選択肢になるでしょうが、たとえばコーヒーはあまり想起されないでしょう。
        コーヒーのようなカフェインを多く含む飲料がエネルギー補給にふさわしくないわけではありませんが、それでも想起の順位は高くないはずです。

        また、同じ栄養ドリンクというカテゴリーでも、リポビタンDやチオビタやモンスターやレッドブルなど、いろいろな商品があります。
        この中で顧客から実際に選ばれるには、成分や味や効果といった品質面で優れていなければなりません。

        ブランドづくりに取り組みたいという事業者から話を聞くと、この品質の側面が真っ先に語られることが多いように思います。
        とくにものづくりの企業は、当然ですが品質にこだわるものです。

        たしかに、品質は重要です。
        しかし、より大事な側面として、認知の側面があります。
        どんなに品質がすぐれていても、知られていなければ選ばれません。
        「いかに顧客に知ってもらうか」という宣伝や広告は、顧客に選ばれるために必須の要素です。

        品質と認知、この両面にしっかり取り組まなければなりません。
        そして、この両面とも、CEPをもとに考えていくことが有用です。

        たとえば、「お米」のブランド化を考えてみます。
        ターゲットとする消費者によって、さまざまなCEPがありえます。

        • 米を研ごうとして残りが少なくなっていることに気づいたとき
        • 地方に旅行して田んぼや収穫の様子を目にしたとき
        • ホームパーティーのメニューを考えるとき

        それぞれのCEPによって、適切な品質や宣伝方法が異なるはずです。

        たとえば、米を研ごうとして残りが少なくなっていることに気づいたときには、ある程度まとまった量の米を買いに行こうと思うでしょう。
        すると、品質としては価格のリーズナブルさ、入手しやすさ、品種、無洗米かどうか、といったことが重要なものになります。
        宣伝の方法としては、消費者がスーパーで買うなら新聞の折り込みチラシなどが有効でしょうし、ネット通販をするならモールなどで広告を出すのがよいでしょう。

        しかし、地方に旅行して田んぼや収穫の様子を目にしたときをCEPとして捉えるなら、栽培方法のこだわり、生産者との直接のコミュニケーション、田んぼに直売可能であることの看板があること、などのほうが重要です。
        CEPを具体的にイメージすることで、どのような品質や宣伝が適切なのかが見えてきます。

        CEP活用のステップ

          (1) 競争の少ない「入口」を探す

          市場の中で、まだ競争が少ないCEPを見つけることが成功のカギとなります。
          既存の商品がカバーしきれていない特定のシチュエーションや、新しいトレンドやライフスタイルを探り、そこに対応した商品を開発することで、競争を回避しながら強みを発揮できます。
          ただし、ニッチすぎるCEPでは市場が小さすぎて十分な売上が立たないかもしれません。
          市場規模が十分に見込めるかは検証しておくべきです。

          (2) 消費者の購買行動をリサーチする

          CEPを活用するためには、消費者がどのような状況で商品を必要とし、どのように探すのかを把握する必要があります。
          具体的には、SNSや検索エンジンでのキーワード分析、既存顧客へのアンケート調査、店舗やECサイトでの購買データの分析などを行うことになります。
          いわゆるペルソナを設定してそのペルソナの行動を想像することも、CEPを見つけるために有益でしょう。

          (3) CEPに合わせたプロモーション戦略を立てる

          競争が激しい市場で生き残るには、単なるブランドの差別化ではなく、「思い出される理由」を作ることが重要です。
          そのためには、CEPに即して宣伝・広告を検討するべきです。
          ターゲットとしている消費者がどのような情報源に触れているかを見極めたうえで、その情報源にてアプローチできるのが理想です。

          なお、商品は特定のCEPの中で上位に来るだけでなく、できるだけ多くのCEPと関連付けて覚えられることが大事です。
          そのため、宣伝は特定の媒体だけでなく、ダブりの少ない複数の媒体を検討しておくとよいです。
          媒体を変えることによって、想定していたターゲットではない層から反響をもらえる可能性もあります。

          何がうまくいくか、事前にはわからないものです。
          いろいろなことを試して、よりうまくいくように改善していくことが大事です。

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