「限界利益」や「損益分岐点」を知らないで経営判断はできない――コストを変動費と固定費に分けて考えることの意義

これまで変動費にはどのようなものがあるのかその金額が平均的にどのくらいなのかといったことを書いてきました。
そろそろ固定費のことも紹介しようと思いますが、その準備も兼ねて、そもそも変動費や固定費がどのようなものなのか、そのように分解することの意義は何なのか、を解説していきます。
変動費や固定費といった言葉を聞いたことがあるという人は多いでしょうが、自身の経営を考える上でこうした分解を実際に使っているという経営者は少数派かもしれません。
とても便利な考え方なので、経営者の教養として、ぜひ理解しておいてください。

目次

固変分解の意義は「利益のシミュレーション」

損益シミュレーションの方法

そもそも、どうして変動費と固定費を分けて考えるべきなのでしょうか?
ごく端的に言えば、変動費と固定費を分けて考えると、事業で利益が出るかどうかを簡単にシミュレーションできるようになります。

事業で利益が出るかどうかのシミュレーションができれば、売上や販売数量などの目標をロジカルに設定できるようになります。

少し数式を使いながら説明してみます。

費用を変動費と固定費に分解する

「利益の計算式」と質問されて、どのようなものを思い浮かべるでしょうか。
一番シンプルな答えは
 利益=売上-費用
というものです。

このうちの「費用」を少し細分化していきましょう。
固定費と変動費というのは、費用を大まかに分けたものです。
つまり、
 費用=変動費+固定費
です。
これを先ほどの式に代入すると、
 利益=売上-変動費-固定費
となります。

「限界利益」を固定費より高く積み上げる

「限界利益」とは?

ここで、用語をひとつ紹介します。
「限界利益」というものです。
式で表せば
 限界利益=売上-変動費
となり、つまり売上から変動費を引いたものです。

「限界」というのは経済学の用語で、ざっくり言えば「1単位あたりの」といった意味です。
それがどういうことかは、のちのち分かってきますので、あまり気にせずに読み進めてください。

限界利益の式を先ほどの利益の式に代入すると、
 利益=限界利益-固定費
となります。

この式が一つのポイントです。
利益を「売上から費用を引いたもの」ととらえるのが一番普通の考え方ですが、利益は「限界利益から固定費を引いたもの」ととらえることもできるわけです。

「利益を生む」とは「商品あたりの利益」を積み重ねて固定費より大きくすること

これだけではまだその意義が分かりにくいので、もう少しだけ式を変化させます。
限界利益をさらに分解すると、「商品1つあたりの限界利益」を「商品の販売数量」分だけ積み上げたものとなります。

 限界利益=商品あたり限界利益×販売数量

たとえば、100円の商品があって、この商品1つあたりの変動費が80円だとします。
すると、この商品1つの限界利益は100-80=20[円]となります。
もしこの商品を1,000個販売したとしたら、
売上=100×1,000=100,000[円]
限界利益=20×1,000=20,000[円]
です。
文で説明すると、「商品1つあたり20円の限界利益を1,000個分積み上げて、20,000円の限界利益を出した」といった感じです。

先ほどの利益の式に限界利益の式を代入すると、
 利益=商品あたり限界利益×販売数量-固定費
となります。

この式は中学校で習う1次方程式
y=ax+b
と同じ形をしていて、たいへんシンプルで、シミュレーションに用いやすいものです。

費用を変動費と固定費に分けることの意義は、この式に凝縮されています。
利益は、商品ひとつを売るごとに発生する限界利益を固定費よりも高く積み上げることができれば生まれます
この考え方が極めて重要です。
固定費と変動費を分けて、商品ひとつあたりどのくらいの利益(限界利益)が生じるのかが分かれば、それをどのくらい売れば固定費よりも限界利益が大きくなって最終的な利益が生じるのかを計算できるのです。

「損益分岐点」計算の事例

例で示します。
先ほどの単価100円、限界利益20円の商品について、固定費が40,000円だったとします。
すると、先ほどと同じく販売数量が1,000個だったとしたら、
 利益=20×1,000-40,000=20,000-40,000=-20,000
となり、2万円の赤字です。

この商品で黒字を出すためには、(値上げやコスト削減をしない場合は)商品1個あたりの限界利益20円を積み上げて、固定費の40,000円より大きくしなければいけません。
固定費40,000円と同じだけの限界利益を生むために商品を何個売らなけらばいけないかというと、
 40,000[円]÷20[円/個]=2,000[個]
となります。
2,000個販売すれば「限界利益=固定費」となって「利益=0」となり、赤字を脱出できるわけです。
このときの販売量が「損益分岐点」の販売量で、そのときの売上高100×2,000=200,000[円]が損益分岐点売上高です。

この「損益分岐点」という言葉はほとんどのかたが聞いたことがあるかとは思いますが、このように、損益分岐点は固定費・変動費の分解や、限界利益といったことを理解してはじめて計算できるものなのです。

目標設定は「損益分岐点」を知っていることが前提

さて、利益を生むうえで、この損益分岐点を知っているかどうかは死活問題です。

先ほどの例で、もし経営者が自身の商品の限界利益を知らなかったらどうでしょうか?
「昨年の販売数量が1,000個だったから、今年は頑張って10%伸ばし、1,1000個の販売を目指そう」といった目標設定をするかもしれません。

10%増というのは、ふつうに考えれば高い目標でしょう。
しかし、この商品に関していえば、1,100個売ったところで赤字なのです。
したがって、1,100個という目標設定がそもそも正しくないのです。

利益を生める目標を設定するためには損益分岐点を把握することが必要で、損益分岐点を把握するためには費用を変動費と固定費に分解することが必要なのです。

まとめ

「限界利益」や「損益分岐点」といった言葉をはじめてお聞きのかたは、少しややこしいと感じたかもしれません。
まとめると、
 利益=商品あたり限界利益×販売数量-固定費
と考えて、
「利益を生むためには、商品ひとつあたりの利益(限界利益)を積み重ね、固定費より大きくしなければならない」
という利益の捉え方をします。

そして、「固定費」と「限界利益」が分かっていれば、
 損益分岐点の販売数量=固定費÷商品ひとつあたりの限界利益
という計算をして、利益を生むために必要な販売数量が分かります。

これによって、ロジカルかつ実践的な目標設定が可能になります。

ご自身の経営に置き換えてみてください。
商品の限界利益は分かっていますか?
商品の損益分岐点は分かっていますか?

まずは大まかにでも、変動費と固定費を分解してみてください。
最初は少し大変かもしれませんが、その結果、より自信をもった経営判断ができるようになるはずです。

シェアはご自由に
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次