農業の利益や組織づくりで困ったら――農業経営診断チェックリスト

経営改善って何をすること? そう思った農業経営者のための、自己診断チェックリスト

私は毎年たくさんの農業経営者と出会います。
一対一の経営相談でしたらこちらからいろいろと質問ができるので、経営の概要を時間をかけて理解することができるのですが、セミナーなどの機会ではそうはいきません。
そういう場面では、「経営チェックリスト」というものをお渡しすることがあります。
投資判断や事業承継など何種類かのテーマのチェックリストを用意していますが、今回は、その中でも一番基本となる、経営診断のチェックリストを紹介します。

目次

チェックリストの使いかた

セミナーで以下のチェックリストを配布し、回答してもらっても、「すべての項目をやっている」という農業者には出会ったことがありません。
売上10億円を超えるような農業法人であればすべて実践しているかもしれませんが、そうでもない限り、全部実行するのは至難の業です。
しかし、実施することが高い確率で経営改善に結びつくものばかりを厳選しているので、チェックが多くつくほどよい経営である可能性は高いと思っています。

たまに、1つもチェックがつかず、「こんなのできっこない」と不満を口にするかたもいます。
その気持ちは分からないでもないですが、ここに挙げているのは経営者として当たり前のことばかりです。
それを「できない」と諦めるのであれば、少し強い言いかたをしてしまうと、農業「経営」者としてはきっとうまくいかないと思います。

ぜひ、ご自身で一つひとつ実施の有無をチェックしてみてください。
そして、その結果がよりよい経営を実現するためのヒントになれば幸いです。

実施するのが大変だと思う項目もあると思いますが、もしかしたら効率的な方法を知らないだけかもしれません。
「やったほうがいいのは分かる、でもそんな余裕はない」という項目があれば、「どうやったらそれを簡単に実行できるか」という発想をもって、情報を収集するなり、当社に問い合わせるなりしてみてください。

農業経営診断チェックリスト

1.月次の予算を作成している

経営管理をするうえで、予算は不可欠。
黒字にするための予算がなければ、数字の裏付けがないまま経営をすることになってしまいます。
今後一年間にどのくらいの経費がかかり、いくらくらいの売上が立つのか、月ごとの見通しを立てましょう。

2.商品原価を計算している

原価計算は改善の第一歩。
商品1つを生産・販売するのにいくらのコストがかかっているのか、商品をいくつ売れば利益が生まれるのか(損益分岐点)を把握し、適切な販売単価と事業規模を設定します。

3.資金繰り管理を実施している

損益と収支の違いを理解できていますか?
利益を生むのと同時に、現金・預金が底をつかず増やせるように、お金の出入りを計画しましょう。

4.価格交渉ができる販路がある

販売数量を増やすよりも価格を上げるほうが、利益に大きく貢献します。
とくに、物価が上昇する昨今の経営環境では、販売価格をコントロールできないと、経営を安定させるのは至難の業。独自の販路を確保しておきましょう。

5.販売先ごとの利益を計算している

販売単価と数量が違えば、利益も変わるはず。
顧客ごとの利益を知ることで、どの事業領域に力を入れるべきなのか、自信をもって判断できるようになります。

6.主力作物のボトルネック工程を把握している

効率がよい工程をいくら改善しても、工程全体の改善にはあまり貢献しません。
効率が悪くて全体の効率の足かせになっている工程(ボトルネック)を見つけ、それを改善することが、業務改善の基本です。

7.主要作業の標準時間を設定している

主要な各作業について「どのくらいの時間で完了させるべきなのか」という標準時間を設定しておくと、日々の作業の目標設定と振り返り・改善ができるようになります。

8.毎年新しい資材・農法の対照実験を行っている

新しいことを試しても、その効果を評価するための仕組みが整っていなければ、本当にそれを導入するべきなのかどうかを適切に判断することができません。
試験・実験の基本を押さえ、毎年実践することが大事です。

9.後継者もしくは経営の右腕となる人物がいる

経営の持続・発展のためには、組織づくりが欠かせません。
経営者以外に判断ができる人材がいなければ、今後のために育てていきましょう。

10.経営について毎月10時間以上考えている

農業を単なる生産活動から経営活動にするためには、経営の基本と実践をよくよく学ぶことが大事です。
読書や研修などの多様な選択肢の中から自身に合ったものを見つけ、継続的に学んでいきましょう。

どこから手をつけるか?

いかがだったでしょうか?
半分実施できていたら、農業経営者として上位数パーセントくらいの経営を実践していると思います。

あまりチェックがつかない場合は、ぜひ、ご自身に必要なものを見定めたうえで、一つずつターゲットを決めて取り組んでみてください。

以下、経営の状態ごとに、大まかな目安をお伝えします。

どのような農業経営者も

前提として、10の「経営について毎月10時間以上は考える」ということは、経営者として必ず実践してください。
「そんな時間は確保できない」と思うかもしれませんが、月に10時間も捻出できないようであれば、経営の先行きは暗いです。

たとえば、食事中にノートやメモアプリを開いておく。
一日の仕事の終わりに翌日の仕事の優先順位を考える。
毎月末に翌月の計画を立てる。
こういったことの積み重ねが、長期的に大きな差になります。

利益・所得が残っていない場合

利益や所得が残らない場合は、2の原価計算に最優先に取り組んでください。
どの商品がどのくらいの利益を生んでいるのか、逆にどの商品の利益が薄いのかといったことが分からなければ、適切な経営改善策を打つことができません。

原価計算については本ブログでもたびたび書いてきましたが、たとえば以下の記事を参考にしてください。

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原価計算をしたら、将来的な損益の目標を立てたうえで、1の予算作成や、3の資金繰り管理を行って、財務管理を強化するべきです。

なお、もし原価計算をしたところ「利益を生むことが難しい」という結果になった場合は、根本的な事業の見直しが必要です。
この場合には販路を確保できるかどうかが勝負になるので、4の販路開拓・価格交渉や、5の顧客関係管理を優先してください。

経営規模を拡大していきたい

今のところは経営は順調だけれど、もっと規模を大きくすると不安だという場合は、利益を残す仕組みをしっかり構築することが大事です。
前提として、1から3までの財務面についての事項は実施してください。
売上2億円くらいまでは、すべてできる必要はないかもしれませんが、少なくとも2の原価計算は必須です。

そのうえで、生産性を維持・改善していくための6から8の項目を優先してください。
規模を拡大すると、人が増えますし、設備投資も必要となるでしょう。
そうすると、これまで通りの生産方法が通用しなくなることが多いです。
入社した人がすぐに業務を一定の水準でこなせるようになるために、生産体制を強化することが急務です。

少し専門的な分析は必要になるかもしれませんが、6のボトルネックの把握は、適切な設備投資や人材配置を実現するために必須です。
エリヤフ・ゴールドラットの『ザ・ゴール』という本が参考になります。
また、品質管理検定など、QCと言われる分野の知識・スキルが役立ちます。

QCの分野について知見を深めると、7の標準時間や8の対照実験(実験計画法)についてのスキルも高まります。
ただし、これらを本格的に実施しようとすると、統計学など、大学の教養課程レベルの数学等を理解しておくことが望ましくなります。
もしくは、難易度が高いところも生成AIの活用がうまければ何とか解決できるかもしれません。
少しだけ専門家の力を借りるか、いずれにせよ必須のスキルとなる生成AIについて学びを深めるかが現実的な解決策になることが多そうです。

実験については以下の記事を参考にしてみてください。

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組織力を高めたい

経営が大きくなってくると、農業は頭脳戦・団体戦の様相が強くなってきます。
すでに正規雇用が数名いたり、売上が1億円を超えたりしているようでしたら、9の後継者・右腕人材育成が重要です。
もしまだ経営者が若いとしても、雇用をしているなら、いまのうちから後継者を育成するつもりで施策を打つことが理想です。

組織開発にはさまざまな要素があり、「これだけやっておけばいい」といったものはありません。
ただ、基本的な考えかたとして、以下の記事は参考にしていただければと思います。

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この記事を書いた人

福井を拠点にオンライン・対面にて全国の農業経営者を支援している、経営コンサルティング会社「一茎」の代表です。
一茎のウェブサイトおよびメールマガジンでは、経営改善や効率化のためのちょっとしたポイントなどを発信しています。

【経歴】
東京大学文学部卒業、東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻修士課程修了(学術修士)。
外資系種苗メーカーの海外営業エリアセールスマネージャー、経営コンサルティング会社のコンサルタント/マネージャーを経て、一茎を設立。
主要な支援領域はファイナンス(経営分析・財務管理)、デジタル、マーケティング。
中小企業診断士。ITコーディネータ。

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