文化を売るためには顧客と自身の文化を知ること――志賀直邦『民藝の歴史』

9月に、富山県美術館で開催されていた「民藝展」を見ました。
現在は名古屋市美術館で開催されていて、2025年2月からは福岡市博物館にて開催されます。
和紙など自身の関心のある工芸に関しては柳宗悦や寿岳文章らの著作に目を通していたものの、民藝全般に関しては不勉強だったので、その後少しずつ学んでいます。

そうした中で読んだのが、志賀直邦の『民藝の歴史』
ちくま学芸文庫の一冊で、容易に手に入る民藝関連の書籍として、質量ともに大変優れているものと思います。
ちなみに、志賀直邦は志賀直哉の甥です。

その中から、河井寛次郎の言葉を引用します。

「自分で作り、自分で味合う文化が、本当の健康文化なんだ。その意味で個人文化は東北の方がズット高いと思う。要するにだネ、本質的なもの、あるいは本能を喪失してしまうことが、果たして文化といえるかどうか、その点で都会文化は、あまりに神経質で、末梢的に過ぎていかんと思う。日本的な香りの高い健康文化は東北にだけ咲き誇っているのだ」(177ページ)

福井に住む者としては「東北」を「北陸」と置き換えたいですが……これは柳らとともに山形県鮭川村を訪問し、生活の貧しさを語る農民の家の梁に、稲穂がたわわに掛けられているのを見て「何という豊かさだ!」と叫んだあとの言葉のようです。
そうであれば、その鮭川村の農民に対しての発言であり、そうするとこれは必ずしも「東北」ではなくてもよいのだと思います。
実際、民藝のメンバーたちは、日本全国の、また海外の、生活に即した民芸品を高く評価してきました。

生活の中に文化的な豊かさがある。
それはとても幸せなことである一方で、今も昔も、経済的な豊かさとはなかなか両立しがたいようです。

民藝の活動の中でもっとも困難だったのは、販売だったそうです。
だから民藝協会や直営店「たくみ」は展示会などに力を注ぎ、そうして注目された品――たとえば大分県日田市の小鹿田焼――の中には今でも続いているものがあります。
しかし、こうした活動の中で見出されずに消えていったものも多いのでしょう。

文化的なものを届けるには、文化の理解と発信が必要です。
文化とは、作り手の文化以上に、受け手の文化を知ることが求められます。
柳宗悦は東北の民芸の発展のため、作り手を東京に呼び寄せてその作り手側の文化を知るとともに、それ以上に、買い手であるいわゆる文化人が何を求めているのかを作り手たちが理解するための手助けをしました。

当社はコンサルティングの一環として販売の支援をしています。
その方法の一つの理想形が、柳宗悦の手法にあると思います。
作り手とともに、買い手のことを理解し、商品をつくる。
そうしたわくわくする仕事をこれからもしていきたいものです。

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