大企業の社長は5年、小規模事業者は動けなくなるまで――事業承継は成長のための新陳代謝

私は科学史の研究者として、またその後はビジネスパーソンとして、長年農業に携わってきました。
こうした経験の中で、日本の農業が抱えるさまざまな問題に触れてきましたし、微力ながら改善に向けた取り組みも続けてきました。
その中でもとくに大きな課題として感じるのが「事業承継」の問題です。
新年を迎えた切り替わりのタイミングに、このテーマについて考えてみてはいかがでしょうか。

最近、残念な出来事がありました。
ある農業者が経営セミナーに登録したにもかかわらず、ほとんど出席できないまま、受講を辞退するとの申し出をしてきたのです。
それだけなら致し方ない事情があったのかと思って終わりなのですが、その理由を聞いて驚きました。

「両親の理解を得られなかったから」。

このかたは30代半ばで、一般企業であればリーダーとして活躍する年齢です。
しかし、そのような年齢になっても、自分の意思で一日業務を離れ、研修に参加することすら叶わないのです。
この問題は決して特異な例ではなく、似たような事態にしばしば遭遇してきました。

大企業では社長の任期は5年から10年程度が一般的です。
社長が変わるという新陳代謝を通じて、組織の成長が図られているのです。
しかし、家族経営では創業者が1世代、あるいは2世代にわたって経営権を持ち続けることも珍しくありません。

それが必ず悪いというわけではありません。
しかし、経営を引き継ぐことを一つのゴールとするならば、後継者の挑戦への気概をはぐくむことも大事なはずです。
高齢の経営者が突然病気や怪我で動けなくなってはじめて、すでに自身も高齢になりかけている後継者が経営を引き継ぎ、途方に暮れる。
こうしたことは実際に起こります。

小規模事業においては、現経営者と承継予定者で経営を分離することも一つの解決策です。
とくに個人事業では、両親と子が同じ事業体として運営するメリットは必ずしも大きくありません。
これ以外にも、現経営者が経営を維持しつつ、承継予定者にも経営判断と挑戦ができるようなやりかたは、たくさんあります。
第三者の助けを借りることで、スムーズな承継が可能になる場合もあります。
事業承継に課題を抱える経営者には、専門家のアドバイスを積極的に活用していただきたいです。
各地に事業承継を支援する公的機関がありますし、民間や士業もさまざまなサービスを提供しています。

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