農業経営を成功させるためには、主な固定費とその相場を知ることから
私は農業経営コンサルタントとして毎年100名を超える農業経営者と交流しています。
その中には、大変残念ながら、利益が出なかったり、農業参入をして失敗したりする農家・農業法人も多々あります。
その典型的な原因は、「そもそも利益が生まれるビジネスモデルを描けていない」ことです。
利益を生むビジネスモデルを描くには、その事業の「変動費」と「固定費」を適切に見極め、「損益分岐点」を明らかにし、それを超える事業規模を実現することです。
前回の記事で農業の変動費にはどのようなものがあるのか、その金額はおおよそどのくらいの大きさなのかを紹介しました。
今回は固定費のほうを取り上げたいと思います。
この記事では固定費(と変動費)をリストアップしたうえで、主要なものについての注意点を解説しています。
リストを見ながらご自身の事業にかかるコストを一つひとつ検証していけば、計画の精度がぐっと高まりますし、実際に事業をやってみて「思わぬ出費が生じてしまった」という事態を予防できます。
ぜひ、時間をかけてチェックしていってください。
変動費・固定費とは?
「変動費」と「固定費」がそれぞれどういうものかという知識が前提となるので、ざっと説明しておきましょう。
変動費というのは生産規模や売上高が大きくなるに伴って比例して大きくなるような費用であり、固定費は売上が多かろうが少なかろうが一定の金額がかかるものです。
変動費としてわかりやすいものには、種や肥料などの材料費といったものがあるということもお伝えしました。
それでは固定費はどのようなものかと言えば、分析をする上では「変動費以外の費用はすべて固定費」として考えます。
損益計画や収支計画をつくるときには準固定費や準変動費といった概念を使う場合もありますが、実務上は変動費とそれ以外に分ければ十分です。
損益計画・収支計画作成時には、結局は各固定費(変動費以外の費用)がそれぞれどのくらいの金額になるかを個別に考えなければならず、準固定費や準変動費といった分類をすることにはあまり意味がないからです。
農業の費用の全体像
以前の記事で主な変動費を紹介しましたが、一旦はそれ以外の費用をすべて固定費として捉えてみてください。
とはいえ、そもそも農業にはどのような費用がかかるのかということを理解していなければ、費用を変動費とそれ以外に分けることはできません。
そこでおすすめするのが、農業簿記検定の参考資料です。
一般社団法人日本ビジネス技能検定協会の以下のURLに、農業簿記検定1級で取り扱う勘定科目の一覧があります。
http://www.jab-kentei.or.jp/agri-boki/pdf/agri_1kyu_kan.pdf
分析や収支計画作成のときには、この一覧を見ながら、販売費及び一般管理費や製造原価にはどのようなものがあるのかを確認してみてください。
各費用の変動費・固定費への分類
各科目が変動費となるか固定費となるかは、仕訳の仕方によって例外はありえますが、おおよそ以下のように分類できるでしょう。
変動費
販売費および一般管理費
- 荷造運賃
- 販売手数料
- 貸倒損失
- 貸倒引当金繰入額
- 土地改良費
- 特許使用料
製造原価
- 種苗費
- 素畜費
- 肥料費
- 飼料費
- 農薬費
- 敷料費
- 燃油費
- 諸材料費
- 材料仕入高
- 賃金手当
- 雑給
- 賞与
- 法定福利費
- 作業委託費
- 診療衛生費
- 預託費
- ヘルパー利用料
- 圃場管理費
- 委託加工費
- 動力光熱費
- 農地賃借料
固定費(変動費以外の費用)
販売費及び一般管理費
- 役員報酬
- 給料手当
- 雑給
- 賞与
- 退職金
- 退職給付費用
- 法定福利費
- 福利厚生費
- 賞与引当金繰入額
- 広告宣伝費
- 交際費
- 会議費
- 旅費交通費
- 事務通信費
- 車両費
- 店舗経費
- 図書研修費
- 支払報酬
- 修繕費
- 減価償却費
- 暖簾償却額
- 開発費償却
- 地代家賃
- 支払保険料
- 租税公課
- 諸会費
- 寄付金
- 雑費
製造原価
- 福利厚生費
- 作業用衣料費
- 農具日
- 工場消耗品費
- 修繕費
- 共済掛金
- 減価償却費
- 地代賃借料
- 租税公課
よく検討すべき固定費
この中でも特に金額が大きくなりやすい固定費をピックアップして紹介してみます。
販売費及び一般管理費明細の科目
役員報酬・給料手当・賞与・法定福利費
いわゆる人件費です。
農業は作業が多く、製造原価報告書の中の変動費としての労務費が非常に大きくなりやすいですが、販売事務の担当者の給与も、自社で営業活動を行っている場合は大きくなりがちです。
その人件費の水準が適切かどうかは、一概には言いにくいです。
ただし、販売に人件費をかけていることが利益をもたらしているかどうかは、ざっくりと評価することができます。
市場単価を調べてそれに販売数量をかけ、仮に全量市場出荷したとした場合の売上高を計算します。
こうして計算した「仮に全量市場出荷した場合の売上高」と「実際の売上高から販売員の人件費を引いたもの」を比較してみましょう。
①市場出荷の場合の売上高(= 市場単価 × 販売量)
↑
どちらが大きい?
↓
②実際の売上高 - 販売担当者の人件費
もしこの②のほうが大きければ、営業コストをかけて販路を開拓していることにはメリットがあるということになります。
広告宣伝費
どのようなスタイルの経営をしているのかにもよりますが、自社で販売をしている場合は広告宣伝費にそれなりの金額がかかる場合があります。
費用ではなく資産となることもありますが、Webサイトの作成や運営を外部に委託する場合には年間数十万円の支出が発生する可能性があります。
チラシを作成・印刷・配布したり、Webでの広告を出稿したりしても金額が大きくなるでしょう。
これから販路を拡大していこうという場合は、どのくらいの顧客ターゲットにリーチしたいのかによって、ある程度まとまった金額を広告宣伝費として予算立てしておくのがよいです。
車両費
営業用車両の燃料代や車検費用などです(なお、自動車税は「租税公課」となります)。
多くの場合は生産活動で使うトラックなどを営業用車両としても使用しているかと思いますが、経営者が自身の車を社用車とする場合など、車検費なども含めるとそれなりの金額になります。
忘れずに予算に組み込んでおいてください。
製造原価報告書の科目
修繕費
とくにこれから農業に参入するという人が注意しなければならないのが、修繕費です。
農業用機械は頑丈につくられていますが、負荷のかかる作業をすることが多いため、故障することもしばしばあります。
農業法人によっては、減価償却費と同じくらい修繕費がかかっていることもあります。
予算をつくる上では、減価償却費の2〜3割くらいの修繕費がかかるかもしれないと想定しておくとよいです。
減価償却費
農業では自前で直売所をもっていたりするのでなければ、販売費及び一般管理費の減価償却費が大きくなることはあまりありません。
その一方で、製造原価としての減価償却費は大きくなります。
大面積を耕作する場合にほぼ必須となるトラクターなど、高額な機械の単価を、見積もりを取るなり、中古ならオークションサイトで検索するなどして、確認しておく必要があります。
利益を生んでいる農業経営体の減価償却費がどのくらいの大きさになるかですが、私の経験では、露地野菜のような比較的設備投資の少ない品目では売上高の5%くらい、米や施設園芸のような大規模な設備投資をして経営する品目であれば売上高の10-15%くらいになることが多いです。
売上高に対する減価償却費の金額がこれ以上になっている場合は、設備を有効に活用できていない可能性が高いため、生産規模を増やすなり、場合によっては使用頻度の少ない設備を使って他の農業経営体などから作業を受託するといった形で、売上の拡大と施設の有効活用を試みてください。
予算づくりのために
固定費になる費用は数が多いので、予算や損益計画を作成するのはなかなか大変です。
しかし、上記の主要なものを除いたら、金額が大きくなるものは少ないはずです。
まずは大きなものから順に、自信をもって予算がつくれるように調査・確認してください。
そのうえで、細かな固定費については、おおよその金額を出したうえで、バッファーとして多少上乗せした金額を予算にするとよいでしょう。