『人を助けるとはどういうことか』――コミュニケーションの質を高めるプロセス・コンサルテーション入門

親切のつもりでアドバイスをしたのにかえって相手を怒らせてしまった、という経験をしたことはないでしょうか。
そこまでいかなくとも、相手のためにと思ってしたことに対して、思ったほどに喜んでもらえないのは、日々の生活の中でも仕事においても、よくあることです。

エドガー・シャインの『人を助けるとはどういうことか』(原題『Helping』)は、こうした悩みに対する解決策を提示してくれるものです。
シャインはアメリカの著名な心理学者で、とくに組織開発の分野において多くの業績を残しています。
その研究成果の中には我々コンサルタントにとっての常識となっているような基本的な考え方も多く、とくに「プロセス・コンサルテーション」という被支援者自身の関与を引き出す支援のありかたには、近年あらためて注目が高まっていると感じます。

本書は「助ける」ということ人間同士の基本的な関係として論じます。
実際、「お茶をついで」とか「ペンを貸して」といったようなコミュニケーションは一日の中でも何度も行われます。
こうした簡単な助けならたいして心理的なハードルはないかもしれませんが、たとえばお金を借りる場面や自分を雇ってくれるよう経営者にお願いする場面など、重たい助けの依頼もあります。
このような助けを求めるとき、助ける側と助けられる側には心理的にバランスがとれない状態になります。
つまり、心理的には助ける側(依頼された側)が高い位置に、助けられる側(依頼する側)が低い位置に立つことになります。

「助ける」という関係を成功させるためには、このアンバランスのことを意識しなければいけません。
助けられるという低い位置は、居心地がいいところではありません。
できるだけその居心地の悪さを避けるために、助けられる側は本来の依頼を、意識的にせよ無意識的にせよ、表に出さないことがあります。
たとえば、従業員が定着せず退職してしまうことを問題と思っている経営者が、「人材育成がうまくいかない」という表現で課題を語ることがあります。
従業員の退職よりも人材育成がうまくいかないことのほうが、問題としてはマイルドに思えるので、このような少しずらした形で問題を語るのでしょう。
本当の問題が従業員が定着しないことにあるのなら、スキルなどの研修をしても意味がないでしょう。
相談を受け、何かしら貢献するためには、相手から本当のところを引き出さなければなりません。

社員はそのための方法を詳細に語っていますが、とくに重要なのは、助ける人の態度として3種類がありえるということです。
それは、専門家としての振る舞い方、医者としての振る舞い方、プロセス・コンサルテーションの振る舞い方の3つです。
専門家としての振る舞い方とは、専門的な知識や情報を提供することで相手を助けるもの。
医者としての振る舞い方とは、相手の問題を分析したうえで、適切なアドバイスを提示し相手を助けるもの。
そしてプロセス・コンサルテーションは、大まかにいえば、助ける側と助けられる側が協働して問題の本質を捉え、解決策を見つけようとするものです。

このプロセス・コンサルテーションの考え方が、助ける側と助けられる側の心理的なアンバランスを解消し、いわば同じ目線で問題に取り組むためのものとして推奨されています。
その詳細はここでは語りませんが、重要なのは助ける側が「自分には欠けている情報がある」と考えて「謙虚」に助けられる側に質問をする、ということです。
このプロセス・コンサルテーションのステップを十分に踏んだうえではじめて「専門家」や「医者」の態度によるアドバイスが生きたものになります。
相手のためにと思っているのにうまくいかないことが多ければ、まずはできるだけ「聴く」ことからはじめてみるとよいかもしれません。

本書はコンサルタントや教える立場にある人にかぎらず、日々のコミュニケーションを改善するうえで役に立つヒントにあふれています。
現代の教養書として、ぜひ読んでみてください。

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