ChatGPT時代に求められる外国語能力:外国語の勉強よりChatGPTのスキルが優先

生成AIがこれほど進歩した現代において、英語をはじめとする外国語を習得することの意義は大きく変わってきました。
一昔前までは「読む」「書く」「聞く」「話す」という4つの能力がいずれも求められましたが、今はこれらの能力のいずれにおいても求められるスキルの質が変わってきています。

読む

今も昔も、仕事において外国語を使う上での基本は「読む」ことです。
外国語を書いたり話したりするには相手がいなくてはなりませんが、読むことに関しては情報収集などの形で相手がいなくても能力を発揮すべき場面が多々あります。
英語での情報収集ができると、日本語のWebサイトや文献だけに頼るよりも、はるかに多くの深い情報にアクセスできます。

以前から機械翻訳は存在しましたが、その精度は必ずしも高くはありませんでした。
日本語に機械翻訳して、なんとなく意味はとれるとしても、専門用語は正しく翻訳されないことが多かったです。
そのため、機械翻訳を使うにしてもその文章が扱っているジャンルの専門用語や背景知識をもっていることが、正確な理解のために必要でした。

しかし、GPTのような大規模言語モデル(LLM)の登場によって状況は大きく変わりました。
GPTは膨大な量の文章を学習しており、その中には様々な専門領域の文章も含まれています。
ChatGPTに専門的な文章を読ませて日本語に翻訳する場合は、その背後にある大規模な情報から文脈を適切に判断することで、外国語の専門用語を対応する日本語の専門用語に翻訳することが、かなりの精度で可能になりました。
もちろん、領域によってはGPTの学習に使われていない用語や表現もあるでしょうが、よほどニッチな分野でない限りは、専門家レベルの語彙をAIがもっていると考えてよいでしょう。

書く

ChatGPTの登場によって、読むこと以上に「書く」ことのハードルが下がったと思います。
個人的な話ですが、私がフランスで仕事をしていたとき、上司から「日本の取引先が送ってきた英文メールの意味がまったく分からず困っているので、日本語でやり取りしてコミュニケーションをしてくれないか」と頼まれたことがあります。
そのとき、上司は「たぶんその英文はグーグル翻訳を使って書いたのだろう」とコメントしていました。
このように、一昔前までは、「機械翻訳では意味の通る文章にすることは難しい」というのが一般的な認識でしたし、これは事実だったでしょう(今はグーグル翻訳もかなりの精度をもっていると感じます)。

しかし、GPTの登場によってこの状況も変わりました。
ChatGPTは、平均的な日本人と同等以上のレベルで日本語の文章を作成できます(ときどき文法を間違うことはありますが、人間よりもミスは少ないと思います)。
英語から日本語への翻訳を見ても違和感を感じないことがほとんどです。
GPTは日本語よりも英語のほうがさらに得意なので、自然な日本語が書けるのであれば自然な英語も当然書くことができます。

英語への翻訳はChatGPTにかなり安心して任せることができます。
そして、英語ほどではないかもしれませんが、自然な日本語が書けるように、スペイン語やフランス語やドイツ語やロシア語といった主要な言語への翻訳も、やはり自然なものになっているでしょう。

そのため、英作文をするときに求められるスキルは、「日本語を英語にする能力」よりも「英語を日本語に解釈する能力」の方になったと思います。
ChatGPTに英訳をしてもらったら、「その英語を読解して元の日本語の文章通りに翻訳されていることを確認する」ということが、ChatGPT時代の英作文に求められる能力です。

旅先のホテルや公共交通機関に、よく複数言語で説明や注意書きがされています。
あるいは、外国語の会社や店舗や商品の名前も日常的によく見かけます。
そうした中で使われている英語やフランス語には、結構な確率でおかしなものがあります。
とくにフランス語では、教科書の最初の10ページを読むだけで回避できるような間違いを平気でしているものがたくさんあります(その中にはそれなりに大きな企業の法人名や商品名もあります)。
私は中国語や韓国語は分かりませんが、たぶんこれらの言語でも同じような間違いは多々あるのでしょう。
こうした問題はChatGPTを使うだけで一掃されるはずです(いまだに残っているからには、生成AIの普及はあまり進んでいないのでしょう)。

聞く・話す

「読む」「書く」の能力の必要がChatGPTの登場によって大きく変化したのに対して、「聞く」「話す」能力はまだGPTに置き換えられていない部分が多分にあります。
とくに対面での直接のコミュニケーションにおいては、翻訳ツールを使うことが容易になってはいますが、「同じ言語で直接にコミュニケーションできること」が相手に与える心理的な印象は、機械翻訳では置き換えることができません。

むしろ、機械翻訳の性能向上によって外国語の学習の必要が減ると、外国語で直接にコミュニケーションできることの価値(希少価値)が高まるとも言えます。

ただし、そうした深いコミュニケーションの実現のために外国語が必要とされる場面は限られているでしょう。
たとえば、老舗の旅館のスタッフが英語や中国語でおもてなしをできることには一定の価値があります。
しかし、たとえ観光地であっても、一般的な商店のスタッフに外国語を話すことを求めるのは過剰だと思います。
もちろん、そういう人材がいればインバウンド顧客に対してより大きな価値を提供できるということはありますが、そうでなければ別のところで独自性を出す方が効果的だと思います。

対面でのコミュニケーションにおいては、最低限の意思疎通ができるツールの準備だけしておけばよいでしょう。
いまはさまざまなツールがありますが、グーグル翻訳のアプリでも十分だと思います。
外国語の習得に比べたら、翻訳アプリを使いこなすほうがよほど簡単です。

輸出やインバウンド顧客対応など、外国語を使うべきときに、「英語を学ばなければ」ではなく「どのようなアプリを使おうか」と考えられることが、いま求められています。

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