以前、評価によって給与に差をつけることが組織にとっての足かせになりえることを書きました。
これは心理学的な議論である、ハーズバーグの「動機づけ要因」と「衛生要因」という概念からも説明できます
動機づけ要因とは
動機づけ要因は、従業員が積極的に働く動機を与える要因です。
ゼロをプラスにするもの、というイメージです。
これらの要因は仕事に対する満足をもたらし、従業員のモチベーションを高めます。
主な動機づけ要因には以下のようなものがあります。
- 達成感: 目標を達成したり、仕事の成果が見えることで得られる満足感。
- 認知と評価: 業績や努力が上司や同僚から認められ、評価されること。
- 仕事そのものの魅力: 自分のスキルや知識を活かせる仕事であること。
- 責任の付与: 重要な業務を任されることによる責任感とそれに伴う信頼感。
- 昇進と成長の機会: キャリアの発展やスキルアップのチャンスがあること。
これらの要因は、従業員が仕事に対して情熱を持ち、積極的に取り組む理由となります。
衛生要因とは
一方、衛生要因は、職場環境における不満を減少させるための要因です。
つまり、マイナスをゼロに引き上げるためのものです。
これらの要因が整っていないと、従業員は不満を感じ、モチベーションが低下します。
しかし、衛生要因が整っているだけでは、必ずしも高いモチベーションを引き出すことはできません。
主な衛生要因には以下のようなものがあります。
- 給与と報酬: 適正な給与やボーナス、福利厚生の提供。
- 労働条件: 安全で快適な労働環境の整備。
- 職場の人間関係: 同僚や上司との良好な関係。
- 企業の方針と管理: 公平で透明な管理体制と企業方針。
- 仕事の安定性: 雇用の安定や将来の不安の軽減。
衛生要因が適切に管理されていないと、従業員のやる気がなくなったり不満が高まったりして、効率の低下や離職率の上昇につながる可能性があります。
給与でモチベーションを高めようとしても失敗する
さて、上述したように、給与は衛生要因であって動機づけ要因ではありません。
つまり、給与が低ければ不満につながりますが、給与が非常に大きくなっても、モチベーションの向上には貢献しにくいのです。
ということは、高い業績を上げた人の給与をより多くしても、それに伴って好業績者のモチベーションが上がるわけではありません。
一方で成績がよくなかった人は、給与が増えないと、不満を感じてモチベーションを下げてしまいます。
そうすると、組織全体のパフォーマンスが下がって利益が減り、昇給原資の全体額が小さくなって従業員に払える給与の金額を対して増やせない……といった悪循環になりかねません。
むしろ給与に差をつけないほうが、従業員同士の悪い意味での競争意識や、給与が低いことに対する不満が減って、全体としての業績が上がり、かえって給与水準を高められる見込みが大きくなるかもしれません。
給与でモチベーションを高めようとしても、逆効果になるリスクが大きいです。
モチベーションを高めるためには、給与以外の、「達成感」や「認知と評価」といった動機づけ要因を検討してください。
ただし、衛生要因が最低限の水準を満たしていることが前提です。
上記のリストをもとに、一つひとつチェックしてみてください。