立派なオフィスを持つことは、多くの経営者にとって憧れの一つです。
お客さまから「素晴らしいオフィスですね」と言われ、その結果として仕事をもらえるような状態は、多くの経営者が目標にしています。
しかし、立派なオフィスを構えることが正しい選択かどうかは、事業領域や提供する商品の性質によって異なります。
立派なオフィスを構えると、あたりまえですが費用がかかります。
会社としてはその費用を回収するために売上を増やさなければなりません。
売上を増やす方法は、販売数量を増やすか、単価を上げるかのどちらかです。
販売数量を増やす場合は、売上が増える一方で、材料費や労務費などの変動費も増加します。
たとえば、変動比率が50%の場合、売上を100万円増やしても利益の増加分は50万円です。
これに対し、販売単価を上げる場合は、売上が増えても変動費は増えないため、売上の増加がそのまま利益の増加につながります。
販売単価の上昇によって売上が100万円増えた場合、利益も100万円増えます。
立派なオフィスを構えて売上を増やすためには、単価の向上に注力するべきです。
オフィスにコストをかけて固定費が増加する一方で、単価が上がらずに利益率(限界利益率)が変わらないのであれば、その投資の意義は小さいです。
オフィスへの投資は、顧客の信頼を高め、よりよい単価で契約を結ぶことが基本的な戦略となります。
それでは、オフィスへの投資が得策ではない事業とはどのようなものでしょうか。
第一に、安さで勝負するビジネスです。
低価格で顧客に商品を提供することを価値とする事業では、オフィスにコストをかけると、上記の理由で単価を上げないと投資回収が難しくなってしまうため、商品が価格競争力を失ってしまう可能性があります。
第二に、小規模な事業です。
小規模な事業の場合、固定費が少ないため、大きな会社よりも低いコストで商品を提供できます。
スケールメリットが生まれる製造業だと話は別ですが、規模を大きくしても効率が変わらない事業であれば、大企業よりも小さな企業のほうが低単価で商品を提供できるはずです。
たとえば、経営コンサルタント。
コンサルタントはホームオフィスで少人数で運営していれば、人件費以外の固定費は極めて小さいです。
事業が成長し、大きな事務所を構えるようになると、その分社会的な信用も高まって高単価で仕事を受けられるかもしれませんが、その分固定費が増加しているので、サービスを安価に提供することは難しくなります。
一方、小さなコンサルティング会社であれば、固定費が少ないため、大きなコンサルティング会社と同じ質のサービスを提供するとしても、価格を抑えることができます。
しかし小規模な事業なのにオフィスにコストをかけてしまうと、その分単価を上げざるをえなくなり、小規模事業者の価格競争力という強みを失ってしまいます。
コンサルタントというのは一例で、小規模な事業者がオフィスやその他の固定費にコストをかけるということは、可能な戦略の幅を狭めてしまう判断だということは覚えておきたいです。
オフィスに対する投資を検討する際は、自身の経営規模と戦略を加味して、その投資が適切かどうかよくよく考えてみてください。