前回、農業経営で利益を生むためには、まず売上、人、そして生産規模の三要素のバランスを設定することが重要であると書きました。
このときの具体的なステップを紹介します。
まずはとっかかりとなる数字を設定する必要があります。
売上、人、生産規模のどれから考えるかですが、迷ったら「人」から考えることをおすすめしています。
「人」というのはとくに人数と人件費のことです。
個人事業主として農業をするなら、自分の収入も含めて考えることになります。
経営を続けていくためには、当然、十分な収入がなければなりません。
なので、まずはどのぐらいの収入を得たいか、得なければならないのかということから考え始めると、それ以外の要素から考える場合よりも現実味のある目標になりやすいです。
仮に人件費の目標を1000万円と設定したとします。
経営者である自分自身が収入500万円で、その他パート数名を雇用して500万円、合計の人件費が1000万円、といった値を目標としたと仮置きします。
人件費の目標を設定したら、それをもとに、必要な売上高を計算します。
このとき、前回お伝えしたように、売上高人件費比率の値を用います。
仮に売上高人件費比率の目標が40%だったとしたら、売上の目標は人件費1000万円を売上高人件費比率の40%で割り算して、売上目標は2500万円となります。
この売上高人件費比率の目安については、すでに農業経営をされている方でしたら自分自身の経営の数値の実績があるはずですので、それをもとに考えてみてください。
しかし、これから農業を始める場合、もしくは農業をやっているのだけれども十分な利益が確保できていない場合は、他の経営体の値を参考にするとよいです。
このとき、日本政策金融公庫の「農業経営動向分析結果」という資料が参考になります。
また、都道府県や市町村の中には、品目ごとに農業経営の一般的な売上や経費の値をまとめてくれているところがあるので、そうしたデータを参照してみてください。
なお、私は経験上、売上高人件費率は40%で計算することが多いです。
設備投資をあまりせず、人力の割合が大きい経営体の売上高人件費率はこのくらいの水準でも利益が出ることが多いです。
反対に、設備投資の金額が大きい経営では、目標は30%台にしておくとよいです。
売上高人件費比率の計算によって売上の目標が設定できたら、次は生産規模の目標を設定します。
自身の生産している商品の生産規模あたりの売上を実績から計算してみてください。
これから農業経営を始めるという場合は、売上高の目標を設定したときと同じく、「農業経営動向分析結果」や都道府県や市町村のデータを参考にすると良いです。
10aあたりの目安としては、水稲が10万円、露地野菜が30万円から100万円、施設野菜が設備投資の内容に大きく左右されますが、300万円から1500万円といった感じです。
こうした面積あたり売上の目安を設定したら、売上高を面積あたりの売上の値で割ることで、その売上高を達成するためにどれだけの生産面積が必要なのかが計算できます。
仮に売上目標が2500万円で、10aあたりの売上が50万円だったとしたら、2,500万円の売上を実現するには25,000,000[円]÷500,000[円/10]=500[a]、つまり5haの面積が必要ということになります。
最後に、人と生産規模のバランスも確認しておきましょう。
複数の指標がありえますが、「1人あたり面積」はわかりやすい指標です。
特殊な品目でない限り、面積あたりの労働時間は各種経営指標と同じくネットで調べると都道府県等のデータが見つかると思います。
それをもとに、想定している人数でおおよそどのくらいの面積を管理するのが目安となるのかを計算してみます。
さらに、そこから時間あたりの人件費を計算して受け入れられる水準かどうかを考え、問題があれば検討しなおします。
たとえば、ある品目の10aあたりの労働時間が140時間だったとします。
この品目を5ha(500a)生産するとしたら、140[時間/10a]×50[10a]=7,000時間の労働時間となります。
フルタイムの人が仮に年間2,000時間働くとすると、7000[時間]÷2000[時間/人]=3.5[人]、つまりフルタイム換算で3.5人分の仕事となります。
また、人件費が合計1000万円としたときに時間あたりの人件費を計算してみると、10,000,000[円]÷7,000[時間]≒1,429[円/時間]となります。
これが自経営体の目指す水準を超えていれば良いですが、もし超えていなければ売上を高めるといった形で目標を見直すべきです。
こうして売上、人、生産規模のバランスを微調整して、人件費総額や時間あたりの人件費などの目標をクリアできるような水準を見出します。
もちろん、目標の実現性をより高い精度で評価するには、より細かな費目ごとの数字を設定し、改善を試みていくことが大事です。
しかし、細かな数字を先に考えると大きな骨格を見失って、全然利益の出ない構造になってしまうことがあるので、まずは売上、人、生産規模の三要素が納得のいく水準となるよう検討してみてください。
より具体的なポイントは折に触れて紹介していきますが、気になることがあれば随時お問い合わせください。