地図をもたずに山に入りますか?
いまどきはスマートフォンで地図も現在位置も確認できるので、地図をもちあるくということがなくなりました。私は高校のときに山岳部でしたが、山に地形図をもたずに入るということは考えられませんでした。ところが、いまではヤマップがあるので、紙の地形図がなくても(スマートフォンのバッテリーにさえ注意していれば)困ることはない……どころか、自分の現在地がより簡単に分かるようになって便利になりました。
さて、紙の地図は廃れかけていても、「地図」というものの重要性は下がっていません。地図はその土地の全体像を示してくれますし、自分がいる場所を理解する手助けをしてくれます。
何かに挑戦するときにも、全体像を知ること、自分がいる場所を理解することは重要です。
資格試験にさっさと合格する人と、なかなか合格できない人がいます。記憶力などの差ももちろんありますが、合格できない人は勉強の仕方が悪いことが多いようです。よく言われることですが、資格試験に効率よく合格しようと思ったら、参考書を読む前に過去問を解くべきです。過去問を解いて、間違ったところを勉強していくのが効率のよいやりかたです。参考書を最初から順番に全部読んでいっても時間がかかりますし、覚えることは困難です。
過去問を解くと、その試験にどのような問題が出題されるのか、どのような知識が要求されるのかが分かります。つまり、全体像が分かります。そして、どの問題に正答し、どの問題を間違ったかが分かれば、自分のいる場所が分かります。
これは日々の仕事でも同じだと思います。仕事の全体像が分かって、さらにその中でいま自分が取り組んでいることの位置づけが分かっているのと、分かっていないのとだと、効率が変わります。全体像が分からないと、全体最適を意識しながら働くことができません。自分が取り組んでいることの位置づけが分からないと、どのようなアウトプットが求められるのか分かりません。
そこで、仕事における地図として、仕事の全体像を階層構造として明確にしておくとよいです。
仕事の階層構造
組織図は階層構造の典型
物事を抽象度に応じて階層構造で整理することは、ビジネスの世界では一般的です。会社の組織も、一般的には階層構造になっています。
たとえば製造業の場合、大きく調達、製造、販売、総務などの部門に分かれています。さらに製造部の中には、製品の種類ごとにA部門、B部門、C部門というような分類があり、A部門の中でも製品1のチーム、製品2のチーム、製品3のチームなどに細分化されます。ツリー形式で書くと、以下のような感じです(上記以外のところは省略)。
- 調達
- 製造
- A部門
- 製品1
- 製品2
- 製品3
- B部門
- C部門
- A部門
- 販売
- 総務
プロジェクトも全体像を構造的に把握する
より具体的なレベルでは、日々の仕事にも階層構造が見られます。たとえば新製品の開発というプロジェクトがあったとき、そのタスクは以下のような感じに構造化されるでしょう。
- 企画フェーズ
- 目標設定
- 要求条件整理
- 調査フェーズ
- 市場調査
- 技術調査
- コンセプト設計フェーズ
- 製品コンセプト立案
- コンセプト評価
- 設計フェーズ
- 要件定義
- 詳細設計
- コスト見積り
- 試作フェーズ
- 初期試作モデル作成
- 改良試作モデル作成
- 評価・テストフェーズ
- 機能テスト
- 安全性テスト
- ユーザーテスト
- (以下省略)
このような階層構造はさらに分解を進めていくと、「明日の午前中に甲商店に見積もりをもらうためメールをする」といった具体的なタスクにまで落とし込まれます。
情報の置き場所も階層構造に従わせる
さて、このように構造が明確になっていればいいのですが、実際のところは、人によって仕事の階層構造の理解が違っていたり、そもそも全体像を把握していなかったりするのではないでしょうか。一人ひとりが違う地図をもっていると、同じ言葉で話すことが困難になります。
たとえば、人によって頭の中の地図が違うと、ものを置く場所も変わってしまいます。
たとえば、上司が部下に、試作品の開発をするうえで買った部品の領収書を整理してサーバー上に格納するようにお願いされたとします。部下が作業を終えたと言うので上司がそのファイルを探しましたが、見つかりません。上司は経理部のフォルダ内にデータを入れてほしかった(それが会社のルールだった)のに、部下はそうとは知らずに自部門のフォルダ内にデータを入れていたのです。こういうことは、物理的なものについても、情報についても、よくあることです。
そこで、まずは仕事の全体像を明確な構造として上記のようなツリー形式で描き出したうえで、(物理的な管理は現場改善の話になるので今回は脇に置いて)情報もその構造に従って整理していくのがお勧めです。
具体的な例としては、パソコン内のフォルダ構造が挙げられます。現代では多くの企業が自前のサーバーやクラウドサービスを利用していますが、共有スペース内の情報が整理されていないと、上記の例のように、必要なファイルを見つけられなかったり、見つけるのに時間がかかったりしてしまいます。そこで、ある程度の具体的な段階まで組織として業務やタスクの階層構造を定めておき、電子データもそれに従って格納するとスムーズです。
私が情報整理にWorkFlowyというサービスを利用していることはいくつかの記事で紹介しましたが、このようなアプリやサービスについても、階層構造をつくれる場合は会社で設定した業務の枠組みに一致させたツリー構造を採用するとよいです。
また、業務日報を運用している企業であれば、その記入項目も組織の階層構造に合わせて設定しておくとよいです。そうすると、部門ごとやプロジェクトごとにどのくらいの業務時間がかかっているのか、時間生産性はどうかなどの分析が容易になります。
当社の例
当社の業務の階層構造の一部をサンプルとして示します。
- 経済事業(コンサルティング)
- 顧客1
- プロジェクト1-1
- プロジェクト1-2
- 顧客2
- …
- 顧客1
- 文化事業
- 顧客1
- 顧客2
- …
- 農林
- 開発
- 商品開発
- ネットワーキング
- 団体1
- 団体2
- …
- 情報収集
- 情報発信
- ウェブサイト
- メールマガジン
- 管理
- 管理
- 事業計画
- タスク管理
- 業務改善
- システム
- 経理
- 労務
- 管理
(実際の名称や構造とは少し変えて分かりやすくデフォルメしています。)
この枠組みをつくった上で、ファイル、メモ、業務時間の記録、マニュアルなど、できる限りの情報をこの階層構造に沿って整理しています。
たとえば、サーバー上(当社はグーグルドライブを使用しています)の上層階のフォルダは、すべて上記の階層構造と同じ名称(より正確には、検索性の向上のために「Web ウェブサイト」のようにローマ文字をフォルダ名の最初につけていますが)にしています。
WorkFlowyへのメモも、上記と同じ階層構造にしています。マニュアルはすべてWorkFlowyで作成していて、「管理\管理\業務改善」の中に「マニュアル」というノードがありますが、この中のマニュアルは上記の階層構造にて整理しています(なので、入れ子構造になっています)。
業務時間の記録は、あまり細かくすると記録するのが大変なので、上部の3つの階層までにとどめて、グーグルスプレッドシートにて管理しています。業務の分類を示すために3つの列があり、それぞれ「経済」「顧客1」「プロジェクト1-1」のように入力したうえで、具体的な業務内容と開始・終了の時間を記録しています。この意味でも、あまり階層構造を深くしてしまわないためにも、主要な業務やプロジェクトには3階層以内で辿りつけるような構造にしています。
情報を制する
情報を場当たり的に格納していると、やがて散らかってしまいます。電子データなら検索ができるので、紙の資料ほどには厳格な管理は不要かもしれません。しかし、関連する情報が同じ場所になければ、本来検討に入れるべき情報を見逃してしまうなどの問題が生じて、効率が落ちてしまいます。また、他のメンバーへの説明や業務の引き継ぎの際にも、情報が整理整頓されていないと、説明を受ける側にとって理解の妨げになってしまいます。
「情報を制する者が勝負を制す」とはよく言われます。一人がいかに情報をかかえていても、情報がうまく流れなければ組織戦においては無力です。経営者の判断の向上のためにも、新しい人材の育成のためにも、情報の整理は地味ですが重要な課題です。
情報整理に苦戦している方は、ぜひ一度、自身・自社の仕事の全体像を階層構造として見える化してみてはいかがでしょうか。