どんな失敗でもよいわけではない――『Right Kind of Wrong』に学ぶ失敗の分類

「失敗から学ぶ」ということはよく言われますし、実際に、成長のためには極めて大事なことです。
成長のためには挑戦が必須で、挑戦するからには失敗は必ず起こります。
失敗からいかに学ぶかによって、成功の確率が大きく変わります。

ところで、「失敗から学ぶ」というスローガンを掲げるときに、注意したいことがあります。
すべての失敗を歓迎するべきではない、ということです。
失敗にはよい失敗と悪い失敗があります。

フィナンシャルタイムズが選ぶ2023年最高のビジネス書

その違いを説いて、いかに失敗からよりよく学ぶかを論じてFinancial Timesから2023年のベストビジネス書(Business Book of the Year)として選出されたのが、Amy Edmondsonの『Right Kind of Wrong』という本です。
本書は2023年9月に出版されて、2024年8月現在では邦訳されていないようですが、Financial Timesに選ばれたからには遠からず翻訳されることになるでしょう。
英語ができるかたはぜひ原著をお読みいただければと思いますし、そうでなければ翻訳をお待ちいただければと思います。

失敗を3種類に分けて考える

ここでは、失敗にどのような種類があるのか、簡単に紹介します。

Edmondsonは失敗を以下の3つに分けます。

  1. 単純な失敗(Basic Failure)
  2. 複雑な失敗(Complex Failure)
  3. 賢い失敗(Intelligent Failure)

単純な失敗というのは、注意不足や経験不足によって引き起こされる失敗のことです。
たとえば顧客から受け取った小銭を数え間違うとか、ブレーキを踏むつもりでアクセルを踏んでしまうといったようなものです。

複雑な失敗とは、たとえばパソコンのエラーのうち、原因が特定しにくいものです。
新しいプログラムをインストールしたけれどもうまく起動しない、という経験をしたことのあるかたは多いのではないでしょうか。
パソコンというのは極めて複雑なシステムですから、うまく動作しない原因がハードにあるのかソフトにあるのか、ソフトにあるとしてもそのプログラム自体にあるのか他のプログラムとの相性によるのかそれともOSにあるのかなど、さまざまな可能性がありえて、システムにかなり詳しい人でも原因の特定に時間がかかることはよくあります。

賢い失敗というのは、挑戦や実験の結果として生じる失敗です。
たとえば、バックオフィス業務を効率化するためにクラウド会計システムを導入したけれど、もともとの経理のプロセスから新しいプロセスに移行することがうまくできずにかえって業務が増えてしまう、といったことです。

推奨すべきは「賢い失敗」だけ

「失敗から学ぶ」と言うときの失敗は、このうちどれでしょうか?
それは、理想としては、すべて「賢い失敗」であるべきです。

単純な失敗は、研修や仕組みによって、そもそも発生しないように予防されるべきです。
単純な失敗が発生してそれを修正したとしても、それはマイナスをゼロに戻しただけで、プラスに進むものではありません。

複雑な失敗も極力予防すべきものですが、複雑なシステムを完全にコントロールすることは極めて難しく、まったく起こらないようにするのは現実的ではありません。
どのような問題が生じえるのかを予測し対策を打つとともに、問題が発生したらその根本的な原因を発見して対処することが重要です。

最後の賢い失敗が、推奨すべきものです。
敢えて失敗するというわけではありませんが、賢い失敗は歓迎されるものだという環境をつくることによって、挑戦が促されます。

単に「失敗から学ぶ」ということを伝えるだけでは、どのような失敗でもそこから学べばよいのだという風に思われかねません(そのようなつもりで「失敗から学べ」と言っている経営者もいらっしゃるかもしれませんが)。
単純な失敗や複雑な失敗をいくら繰り返しても、世間に期待される水準に至るのがやっとで、世間が想像しないような新たな価値には結び付きません。

「失敗から学ぶ」ことを推奨するときには、必ず、「どのような失敗から学ぶべきか」という失敗の質の違いについても併せて説明してください。

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