最近、岩尾俊兵氏の『世界は経営でできている』という本を読みました。
著者の岩尾俊兵氏は、今最も注目される若手経営学者の一人だと思います。
本書は、ビジネスに限らず人生にも経営を応用することで、人々の幸福に貢献しようとしています。
軽妙な語り口で経営に関する多様な知識を紹介しており、誰にとっても楽しく、しかし真剣に読むことのできる良書だと思いました。
本書が論じている「経営とは何か」について、以下の三つのポイントがとくに印象に残りました。
一点目は、目的を定め、そこに至るための手段を設定することが経営である、ということです。
この経営の定義は非常に広く、あらゆる課題達成や問題解決は経営の枠組みの中に入ると言えます。
そうであれば、経営の知識やスキルを日常生活の中に応用することは有意義ですし、逆に日常生活の中で得た経験や知見を経営に持ち込むことも意味があることになります。
経営をこのように「目的と手段の設定」と捉えることで、経営に関する発想がより広がると感じました。
二点目は、経営が一人ひとりの幸福を目的とすべきだという主張です。
この「一人ひとり」というのが重要で、決して組織や社会の幸福を目的とするのではない、ということを意識しなければなりません。
組織や社会といったものは架空の存在であり、実態をもつわけではありません。
倫理学の議論に慣れている方にはイメージしやすいかと思いますが、幸福や不幸を感じるのはあくまで人格をもつ個々の人間です。
組織や社会といったものは、喜んだり悲しんだり、苦痛を感じたりすることはありません。
もちろん、組織のため、社会のためといった行動が、一人ひとりの幸せにつながることも多々あります。
しかし、もしかしたら組織のための行いが、必ずしも人間にとっての幸福には結びつかないかもしれません。
そのような行為に、果たして意義はあるでしょうか?
「みんなのため」といったスローガンを耳にしたときには、それが本当に人々のためになっているのかをしっかり問い直す必要があります。
三点目は、これが本書の中で最も重要なメッセージだと私は理解したのですが、価値は有限ではなく、経営は価値を生み出すべきであるということです。
経営者として、この点を強く心に刻んでおくべきだと感じました。
価値が有限だと考えると、それを巡って争うという発想になります。
経営においては「戦略」や「戦術」といった言葉がよく使われますが、これらの「戦い」の発想は、顧客や資源が有限であるという考えから生じているのかもしれません。
しかし、もし経営が新しい価値を生み出すことができるならば、限られた顧客やニーズをめぐって争う必要がなくなります。
新しい価値を生み出すことは極めて難しいことかもしれませんが、経営の本来の意義は、価値を新たに生み出し、世の中に存在する価値の総量を増やしていくことにあるのだと思います。
今回は抽象的な点に絞って、本書から私がとくに重要だと感じた部分をまとめました。
経営者はもちろん、悩みを抱えるあらゆる人にとって参考になる本だと思います。
ぜひ手に取ってみてください。