読み書きすることは考えること――社会人の教養の書としての『まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書』

今回は本の紹介です。
阿部幸大の『まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書』

アカデミック・ライティングとは、要は論文やレポートを書くことです。
本書はいかに論文を効率的に書くか、根本的なところから体系的に解説するもので、多くの学生、とくに文系学部の学生にとって、非常に有益です。
私自身も、学生時代に本書があれば、ずいぶん論文作成が楽にまた楽しくなったのではないかと想像します。

さて、ここで書いているからには、学生に向けてではなく、ビジネスパーソンに向けて本書を紹介しようとしています(もちろん学生のみなさんにもお勧めしたいですが)。
論文執筆のノウハウがなぜビジネスにも役立つのか?

それは、論文執筆のスキルは極言すれば読み書きのスキルであり、読み書きのスキルは論理的に考えるためのスキルだからです。

本書が紹介するのは、ごく大雑把に言えば、論文の価値を生むためのアーギュメント(主張)のつくりかたと、そのアーギュメントを論証するためのパラグラフ・ライティングのスキルです。
これはビジネスにおいてもさまざまな場面で役に立ちます。

たとえば、事業戦略をつくるとき。
本書はアーギュメントを他動詞を用いて表現することを推奨しています。
同様に、ビジネスにおいても、事業戦略をあいまいでない仕方で、たとえば以下のようなフォーマットで表現してみます。

「私たちは、Pによって、Zを実現する。」

このようにごく簡潔な仕方で表現をしたら、その構成要素を説明する(論証する)ことがやりやすくなります。

Zを実現するとは、Yという状態のことである。
Yという状態は、WとXという条件が必要である。
Wのためには…

といったように、アーギュメントの構成要素を、より具体的な内容や、検証可能な事実によって、説明していくわけです。
この意味で、論文の執筆と事業戦略作成は極めて似ています。

問題は、こうした論理構造をつくること、論理的な文章を作成することを学ぶ機会が、残念ながら日本では非常に限られているということです。
私は幸いなことに大学の文学部にて日本の最高峰の研究者たちからその指導を受けるという幸運に恵まれましたが、ふつうの学生生活においては、そうした機会はなかなか得られないでしょう。
残念ながら、多くの社会人も、文章を論理的に書くということ、つまり、論理的に考えるということが苦手です。

少し遠回りに思われるかもしれませんが、考えるための基本的なスキルを学びなおすための一冊として、本書はビジネスパーソンにも強くお勧めします。

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この記事を書いた人

福井を拠点にオンライン・対面にて全国の農業経営者を支援している、経営コンサルティング会社「一茎」の代表です。
一茎のウェブサイトおよびメールマガジンでは、経営改善や効率化のためのちょっとしたポイントなどを発信しています。

【経歴】
東京大学文学部卒業、東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻修士課程修了(学術修士)。
外資系種苗メーカーの海外営業エリアセールスマネージャー、経営コンサルティング会社のコンサルタント/マネージャーを経て、一茎を設立。
主要な支援領域はファイナンス(経営分析・財務管理)、デジタル、マーケティング。
中小企業診断士。ITコーディネータ。