感情がなければ判断はできない――正しい判断をするために「感情」をうまく使うこと

最近、事業承継についての相談を受けることが多くなってきました。
日々の生活の中でも、ビジネスでも、無数の判断の場面があります。
その中でも、事業承継というのはとりわけ大きな判断です。
事業を承継する相手の候補が一人しかいなければあまり迷うことはないかもしれませんが、候補者が複数名いる場合はとりわけ難しくなります。
現経営者の思い、会社が順調に成長していけるかどうか、後継者候補が必要な資質をもっているか、従業員は納得するか、現経営者の家族や親族は納得するか、相続上の問題は発生しないか……など、多様な条件やステークホルダーが関わり合って、どの選択が最善なのかは人知では計り知れないものです。

事業承継ほどには重大でなくとも、人生において大切な決断の場面は多々あります。
また、自分自身ではなくて、他者に決断を求めなければならない場面もあるでしょう。

そのような判断や決断の場面において覚えておきたいことが一つあります。
それは、人はロジックだけでは判断ができず、感情によって後押しされて初めて判断がなされるということです。

ロジカルな判断と感情の役割

私自身の話をすれば、ロジカルに物事を判断するためのツールを色々ともっています。
とくに重大な決断をする場合には、AHPという手法をほぼ必ず用いています。
これは、機会があればまた紹介しますが、検討している選択肢の中から最善のものを選ぶための手法です。
大まかに言うと、選択肢と判断基準をリストアップし、判断基準の中でどれが重要なのかを重み付けした上で、選択肢を各判断基準に照らして評価して、数学的に最も有力な選択肢を炙り出す、というものです。

AHPは論理的・数学的には大変説得力のある手法で、だからこそ私もここぞという場面で使用しているわけですが、最も得点の高い選択肢と分かっていても、それを選ぶのに抵抗を覚える場面もあります。
理屈の上ではAという選択肢を取るべきだけれども、何かしらの引っ掛かりがあって別のBという選択肢が魅力的に見えてしまう。
そういうときには、結局、感情によって判断をすることになります。

判断をするときには感情を把握する

有名なのは、脳の感情を司る部位を損傷した患者の事例です。
その患者は高い論理的な思考能力を有していた一方で、「何かを決める」ということがほとんどできなくなってしまったそうです。
詳しくは、心理学などの領域では非常に有名な、アントニオ・ダマシオの『デカルトの誤り』という本をご参照ください。

人が感情によって判断するという事実を知っておくことは、自身がより良い判断をする上でも、他者に判断を促したり他者の判断を理解したりする上でも有用だと思います。
論理的に最善だと導き出した選択肢が感情には訴えかけないとしたら、なぜそれが魅力的でないのかを論理的にではなく感情の面から考える必要があります。
他者の判断を後押ししたいのであれば、その相手が論理的にだけではなく感情的にもその選択肢を選びやすくするための、サポートが必要かもしれません。

感情には、正しい判断をより強力に推し進める力もあれば、正しい判断を曇らせる力もあります。
自身の、そして周囲の、感情に敏感でありたいものです。

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