前年度とのコストの「差分」をざっくり計算すれば、価格交渉への道が開ける
「肥料費が上がりました」だけでは、値上げは通らない
近年、肥料・農薬・燃料などの生産資材が大幅に値上がりしています。
「コストが上がっているのに販売単価が変わらない」という悩みを抱える農業経営者は多いはずです。
しかし、いざ取引先に値上げを申し入れると、こんな言葉が返ってくるかもしれません。
「それは分かりますが、具体的にどのくらい影響しているのですか?」
この質問に答えられないと、値上げの交渉はそこで止まってしまいます。
原価計算ができていれば、この問いに答えることは簡単です。
答えることができれば、値上げの実現はぐっと近づきます。
「価格交渉をしたいけれどできていない」という段階のかたも多いかもしれません。
スタート地点に立つためにも、ぜひ原価計算に取り組んでみていただきたいです。
原価計算については、以下のページをご参照ください。

より詳しく説明した電子書籍もあります(Kindle Unlimited を利用されているかたは無料で読めます)。
『農業のざっくり原価計算入門』
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さて。
原価計算をしようと思っても、ちょっとハードルが高いと感じるかもしれません。
上記のページで紹介している方法はかなり簡易的なものなので、30分もあればざっくりと数字が見えてきますし、一度やってみると「もっと早くやっておくべきだった!」と思われるでしょう。
それでも最初の一歩が踏み出し難ければ、とりあえず、値上げ交渉のための以下のステップだけ、取り組んでみてください。
原価計算で値上交渉が変わる:具体例
ニンジンを生産して出荷しているケースで考えてみましょう。
肥料の価格が1袋あたり1,000円値上がりしたとします。
このとき、交渉の場で「肥料が1袋1,000円上がりました」と言っても、相手は「それが商品の価格にどのくらい影響しているか」がつかめません。
そこで、この影響を推計してみます。
- この肥料は10aあたり5袋まく → 10aあたり5,000円のコスト増(1,000 × 5)
- 10aからの平均販売量は4,000kg
- 1kgあたり1.25円のコスト増(5,000 ÷ 4,000)
このように、
- 10aあたりどのくらいコストが増えるのか?…①
- 10aあたりどのくらいの数量を販売するのか?…②
- 商品1単位あたりどのくらいコストが増えるのか?…①÷②
というステップで見積もります。
種苗費、農薬費、諸材料費など、他の材料費も同様です。
こうして品目ごとの単価への影響を数字で示すと、取引先も「それは確かに影響がある」と納得せざるをえません。
あっけないくらい簡単な計算ですが、当社が知る農家さんたちは、この計算(と、必要に応じて材料費の値上がりの根拠となる資料の準備)だけでしっかり値上げを実現しています。
ポイントは、「値上交渉のためには原価の「上昇分」だけ示せたらいい」ということです。
原価上昇を計算する手順
ステップ1:値上がりした資材の使用量を把握する
まず、値上がりした資材を「10aあたり何袋(何リットル)使っているか」を確認します。
| 資材 | 単位あたり値上げ幅 | 10aあたり使用量 | 10aあたりコスト増 |
|---|---|---|---|
| 肥料A | +1,000円/袋 | 5袋 | +5,000円 |
| 燃料 | +30円/L | 100L | +3,000円 |
| 農薬B | +500円/本 | 2本 | +1,000円 |
| 合計 | +9,000円/10a |
ステップ2:収量で割って、商品1単位あたりの影響を出す
10aあたりの収量が4,000kgなら:
9,000円 ÷ 4,000kg = 2.25円/kg のコスト増
これが「販売単価に転嫁すべき金額の根拠」になります。
ステップ3:交渉に持ち込む
「2.25円/kgのコスト増が生じているため、単価を3円引き上げたい」と数字で提示します。
数字があれば、交渉はそれを軸に議論できます。
人件費の場合
材料費や燃料費と同様に上昇しているのが人件費です。
もし雇用をしていないとしても、物価が上昇している以上、経営者のみなさんも所得を増やしていく必要があります。
最低賃金の全国平均は2024年の1,055円から2025年の1,121円へと、6.3%上昇しました。
参考:全国加重平均の最低賃金の推移データ(1977年~2025年) | バイト求人ネット
そこで、人件費の上昇分も値上げ交渉の根拠として提示するべきです。
計算のステップは材料費と同じですが、10aあたりのコストを出すうえでは「労働時間」の情報が必要です。
細かい労働時間は集計できていないかもしれませんが、「このくらいの時間を費やしているはず」という数字をざっくりと出してみてください。
あるいは、一般的な面積あたり労働時間の資料をもとに計算してもいいです。
都道府県などが作成している資料であれば、それなりに説得力があるはずです。
さて、仮に時間あたりの人件費が1,200円から1,296円へと96円分(8%)上昇したとします。
すると、先ほどの材料費の場合と同様に、
- 労働時間は10aあたり20時間 → 10aあたり1,920円のコスト増(96 × 20)
- 10aからの平均販売量は4,000kg
- 1kgあたり0.48円のコスト増(1,920 ÷ 4,000)
とコスト増加の影響を試算できます。
差分だけでも値上げ交渉には使える
上記の計算は、単価が上昇した部分だけその影響を試算するわけなので、商品の原価全体が分かっていなくてもできるものです。
原価計算をしておくほうがより広範な経営改善のための対策を検討できるため、当社としては原価計算を強くお勧めしていますが、値上げ交渉の場では原価を細かく教えるようにと求められることはないでしょうから、差分の計算でも十分です。
さらに、材料の単価が分かる資材店などからの請求書・領収書を示せば、根拠として説得力が増します(人件費については最低賃金の具体的な金額は公知なので根拠を用意する必要はありません)。
価格交渉をする予定がないとしても、差分の計算をしておけば、前年度と比べて利益が向上しそうかどうか、大勢がつかめるでしょう。
思ったより影響が大きいようなら、販路開拓なり値上げ交渉なりに取り組むことが大事です。
そして、差分の計算をしたなら、ぜひ原価全体の計算にも取り組んで、根本的な経営改善の対策を考えてみてください。