理想の農業経営をビジネスモデルと損益モデルでデザインしよう
前のページでは、MVVという経営の羅針盤と、所得・利益の数値目標を描きました。「なぜ経営するのか」「誰にどんな価値を届けるのか」という問いに、あなたなりの答えを用意できたでしょうか。
その答えを土台に、次のステップへ進む準備ができました。MVVと目標が定まったら、次に問うべきことがあります。「その目標を実現できる仕組みが、自分の経営に備わっているか」です。建築に例えると、どんな家に住みたいかを描いたあとに、それを実際に建てる設計図を引くステップにあたります。目標を描くことと、その目標を実現する仕組みがあることは、別のことです。このページで取りくむのは、その「設計図」を描くことです。
その設計図にあたるものが、ビジネスモデルです。このページでは、ビジネスモデルのつくりかたと、その収益性を数字で確かめる損益モデルの組み立てかたを説明します。
ビジネスモデルってなに?
「ビジネスモデル」という言葉は、どこかIT企業やスタートアップの話のように聞こえるかもしれません。しかし実際には、農業経営者はすでに何らかのビジネスモデルをもっています。ビジネスモデルというのは、ごく簡単に言えば「どのように収益を得ているか」ということであり、それはつまり「誰に・何を・どのように届けるか」ということです。ミッションをより具体的にしたものと捉えるといいでしょう。
農協に出荷するか、直売所に並べるか、飲食店に直接届けるか——そうした選択の一つひとつが、ビジネスモデルの違いです。同じミッションから導き出したビジネスモデルでも、筋がいいものと悪いもの――つまり、よく顧客に貢献し、収益を生むものと、顧客に求められずに収益を生めないもの――があります。「ビジネス」としての持続性を実現するために、筋のいいモデルをつくりたいものです。
「誰に・何を・どのように届けるか」の設計図
ビジネスモデルは、大きく3つの問いで成り立っています。「誰に届けるか(ターゲット顧客)」「何を届けるか(提供価値・商品)」「どのように届けるか(チャネル・価格)」——この3つへの答えを組み合わせることで、農業経営の骨格ができあがります。
ターゲット顧客とは、あなたの商品を必要としている人たちのことです。ターゲットとは「的」のこと。的は絞らなければいけません。「みんな」をターゲットにしてはいけません。なぜでしょうか?
それは、顧客が一人ひとり異なるからです。人はみなそれぞれに異なる課題を抱え、異なる価値を求めています。経済的な余裕も住んでいる場所も生活スタイルも違います。それなのに「みんな」という一言でまとめることはできません。
人は、自分の目的にとって一番いいと思えるものだけを選びます。スーパーにトマトを買いに行って、棚に並んでいる10種類を全部買う、という人はいません。安くすませたいなら一番安いものを、栄養を取りたいなら「高リコピン」などの表示があるものを、彩を求めているならオレンジなどの赤以外のものを、子どもの弁当のおかずにするならミニトマトを、選ぶでしょう。こんなに違う目的に適うトマトがありえるでしょうか?
無理に「みんな」を狙うと、どの目的に対しても中途半端になり、誰かの課題を深く解決することができなくなります。すると誰にも選ばれません。だから、ターゲットを絞って、その人がよりよく目的を達成できるような価値を提供するべきなのです。「みんな」には選ばれなくとも「誰か」には確実に選ばれるように、顧客の目的と課題に寄り添うのです。
ビジネスモデルが収益を決める
「いい農産物をつくれば売れる」という考えかたは、陥りやすい落とし穴のひとつです。品質は必要条件ですが、求める品質は人によって違うもの。あなたの視点での「いい農産物」とあなたの顧客にとっての「いい農産物」は違うかもしれません。違うとしたら、せっかくコストをかけて「いい農産物」をつくっても、そのコストに見合う価格で買ってもらえないでしょう。反対に、安さを重視して低コストで生産したとしたら、品質や珍しさを重視する顧客に選んでもらえなくなります。「誰に届けるか」という顧客の設定によって、商品設計・価格帯・届けかたのすべてが決まり、結果としてコスト構造と利益率が大きく変わります。
たとえば、同じキャベツを1kg生産したとして、農協の共販ルートで出荷するのか、直売所で袋詰めして販売するのか、飲食店に定期宅配するのかでは、手元に残る金額はまったく異なります。直販はコストも手間もかかりますが、価格決定権が農業者側にあるため、利益率を高めやすい構造があります。一方で、流通コストや包材費が増えるため、規模を大きくするほどコスト管理が重要になります。
こうした収益性の違いを、ビジネスモデルを設計する段階で検討することが、利益確保の第一歩です。「農産物はできるだけ高く売る」というだけでなく、「この届けかたで、固定費と変動費をまかなえるか。利益が残る構造になっているか」を問い直すことが必要です。よい農産物をつくる努力と同じくらい、ビジネスモデルの設計は経営の根幹に関わるものだと思います。
マーケティング:誰の課題をどう解決するか?
ビジネスモデルと切っても切り離せないのがマーケティングです。マーケティングと聞くと人によっては広告宣伝をイメージするかもしれませんし、人によっては市場調査をイメージするかもしれません。
これらはマーケティングの一部にすぎません。マーケティングの本質は、「顧客のどんな課題を、どんな方法で解決するかを設計し、それを必要としている人に届ける仕組みをつくること」です。世の中のニーズを知り、そのニーズに適った商品をつくり、その商品を潜在的な顧客に知ってもらう、という活動は、一連のものです。バラバラに実施しても意味がありません。この全体を扱うのがマーケティングなのです。
農業経営においても、マーケティングの視点をもつことで、「どうすれば自分の農産物を選んでもらえるか」を考えられます。これまでマーケティングというものを意識したことがなかったというかたは、ぜひ、このページの内容に加え、入門書などでより深く学んでみてください。
マーケティングの2つの柱:顧客価値創出と顧客認知獲得
マーケティングは大きく2つの柱で構成されています。ひとつは「顧客価値創出」つまり「選んでもらえる商品をつくること」、もうひとつは「顧客認知獲得」つまり「顧客に知ってもらうこと」です。どちらが欠けても事業はうまくいきません。
選んでもらえる商品をつくるには、繰り返しになりますが、「誰のどんな課題を、どんな商品や体験で解決するか」を設計することです。ここで大切なのは、出発点を「つくりたいもの」「得意なもの」ではなく、徹底して「顧客が何に困っているか・何を求めているか」に置くことです。顧客の課題から設計を始めることで、初めて「必要とされる商品」が生まれます。
顧客に知ってもらうには、その価値を必要としている人の日常の中にその商品についての情報を置かなければなりません。この点でもターゲット設定は重要です。人によって情報源は違います。SNSや雑誌や対面での口コミなど、「どのようなメディアを使っているか」というレベルでも、「そうしたメディアを通してどのような情報に触れているか」というレベルでも、人によって大きな違いがあります。SNS・ウェブサイト・口コミ・イベント出展——手段はいろいろありますが、大事なのは「届けたい相手にどのように知ってもらえるか」を中心に考えることです。
「選んでもらえる商品をつくること」と「顧客に知ってもらうこと」、この両方を高いレベルで実践することがマーケティングの肝です。そのための土台は、すでに触れていることですが、ターゲティングです。
課題は必ず人にひもづく:ターゲティング
ターゲティングとは、数ある顧客の可能性のなかから、「自分はどの人に向けて商品を届けるか」を意識的に選ぶことです。ターゲットが定まっていないと、商品設計も、価格も、販売する場所も、伝えかたも、すべてが曖昧になります。逆に、ターゲットが明確になると、これらすべてが一貫した方向を向きます。
ターゲティングの核心は、具体的な一人を想像することです。「どんな人が・どんな状況で・どんな目的をもち・何に困っているか」を描いてみましょう。たとえば「日々の食事の質を保ちたいが、買い物や調理に時間を割けない共働き世帯」や「地元の食材を使って料理に物語を加えたいと考えている飲食店のシェフ」というように、その人の生活やビジネスの状況と課題にまで踏み込んで描写します。この想像が具体的であるほど、商品設計・価格・届けかたも具体的になります。
ターゲットを絞ると顧客が減るように感じるかもしれません。しかし、実際に起きることは逆です。100人全員に届けようとして設計したマーケティングで3人にしか届かないより、「この10人に届けよう」と絞って設計したマーケティングで5人に届くほうが、少ないコストで多くの顧客に価値を届けられることになります。ターゲットが明確なほど、「この農産物はまさに私/わが社のためにある」と感じ、問い合わせ・購買といった行動に移してくれる顧客が増えます。
顧客はどうなれば満足か?:MVP
ターゲットと課題が見えてきたら、「本当にそのニーズがあるか」を確認したいところ。ここで役立つのが、MVP(Minimum Viable Product)という考えかたです。
MVPとは「必要最低限のかたちで市場の反応を確かめる」という姿勢です。農業では、一つの品目を本格的に生産するまでに、苗の確保・栽培設備・作業体制の整備と、多くの時間とお金がかかります。「つくってから売れなかった」という事態を防ぐために、できるだけ早い段階・低いコストで「本当に売れるか」を確かめることが、MVPの意義です。
MVPと書くとちょっと仰々しく感じるかもしれませんが、要は「サンプル」です。それも、実際の農産物でなくても構いません。チラシをつくって「こんな商品をこの価格で届けようと思いますが、予約してくれませんか?」と質問するだけでも十分な検証になります。
顧客の声を聴く前に「きっと売れるはず」と思い込んで大量に生産を始めてしまうのは、大きなリスクです。小さく試し、顧客の反応を確かめながら設計を磨いていく姿勢が、農業経営のマーケティングでも重要です。
なお、このとき「どう思いますか?」と質問すると、たいていの場合は「いいと思います」といった肯定的な回答が返ってきます。否定して相手の機嫌を損ねるのは億劫だし申し訳なく感じるものです。そこで、上記のように、サンプルだけれども具体的な商談として話をもちかけましょう。
4P・4Cでビジネスの大枠を決める
ターゲットと提供価値が決まったら、ビジネスの大枠を整理するフレームワークとして「4P」と「4C」が使えます。この2つは枠組みとしては同じものなのですが、一つの視点を二つの異なる視点から見るものなので、両方使うことをお勧めしています。
4Cは顧客視点のフレームワークで、以下の4つのことです。
- Customer Value(顧客が受け取る価値)
- Cost(顧客が払うコスト・時間・労力)
- Convenience(購入・入手のしやすさ)
- Communication(顧客との対話・情報伝達)
これに対し4Pは売り手視点で、以下の4つです。
- Product(商品)
- Price(価格)
- Place(流通・チャネル)
- Promotion(販促活動)
各項目がこの順番で対応しています。4Cで顧客の立場から考えた後に4Pで具体化すると、「顧客にとって価値ある商品をつくり、顧客が支払える価格で、顧客が買いやすい場所で、顧客に伝わる方法で届ける」という整合性のとれた設計をしやすいです。
たとえば、有機野菜の産直販売を考えるときに4C→4Pで整理してみましょう。
- Customer Value:安心・おいしさ・農家との関係性
→ Product:農薬不使用・週ごとの詰め合わせセット - Cost:お金だけでなく注文の手間
→ Price:普通のスーパーより割高でも払えるゾーンを確認 - Convenience:受け取りやすさ
→ Place:自宅配送か、最寄りの産直所か - Communication:どこで知るか・誰が推薦するか
→ Promotion:SNSでの発信・既存顧客の口コミ
こう整理することで、「自分たちがどうするか」という4Pの各要素が、「顧客はどのようなニーズをもっているか」という4Cに根差したものになります。
損益モデル:収益と費用の仕組みを数字で確かめる
ビジネスモデルの設計は、「誰に・何を・どのように届けるか」を言葉で描く作業です。しかし、その言葉がどれだけ魅力的に響いても、それが「利益の出る構造」になっているかは、数字を使って確かめなければ分かりません。マーケティングの設計と財務の検証は、両輪として回さなければなりません。設計した商品が、設計した顧客に、設計した方法で届いたとして、それで利益が生まれるかを確認するのが、損益モデルの役割です。
損益モデルとは、売上・変動費・固定費・利益の関係を整理した骨格のことです。このモデルを組み立てることで、「このビジネスモデルで事業が成り立つか」「黒字になるためには最低いくら売る必要があるか」といった利益が生まれる条件を確認できます。逆に、損益モデルを組み立てて初めて、「このビジネスモデルには無理がある」ということが判明することも珍しくありません。設計した事業を数字で検証することは、経営の安全確認のようなものです。
損益モデルを組み立てる手順は、大きく3つのステップです。
- 費用を固定費と変動費に分けて把握する
- 販売単価を設定する
- 売上が費用を上回る損益分岐点を計算する
どのステップも、精密な計算よりも「大枠をつかむこと」が出発点です。まずは全体を荒削りに把握し、徐々に精度を高めていく姿勢でとりくんでください。
固定費と変動費を漏れなくざっくりと
損益モデルを組み立てる出発点は、費用の洗い出しです。商品をつくり届ける一連のプロセスで必要になるコストをできる限り漏れなくリストアップします。このとき、各コストをページ1で紹介した変動費と固定費に分類していきます。
変動費とは、生産規模・販売数量・販売金額といったものに比例して増減する費用のことです。たとえば種苗費・肥料費・農薬費は、生産面積が2倍になれば2倍になります。荷造運賃手数料や包材費も、販売数量に応じて増えます。農協や市場への手数料も変動費の代表例です。大まかな目安として、「商品を1個多く売ったとき、追加で発生するコスト」が変動費です。
固定費とは、販売量に関わらず発生する費用のことです。ここではコストを変動費と固定費の2種類に分類しているので、変動費以外はすべて固定費としてください。雇用している従業員の給与は、売れ行きがどうあれ毎月支払います。トラクターや農業施設の減価償却費も、使おうが使うまいが毎年計上します。水道光熱費や通信費や交際費など、売上に比例するわけではないコストはいろいろあります。こうしたコストを固定費と分類しておきます。
すでに行っている事業についての計画を立てる場合は、実績があるので取り組みやすいでしょう。ページ1で紹介したように、決算書をもとに科目を一つひとつ変動費か固定費かと分類していけばよいです。
問題は、これから新しく取り組む場合です。この場合は、農業の決算書(損益計算書)の項目を参考に、一つひとつどのようなコストがかかりそうかを考えていきます。網羅性を高めるために、生成AIにリストアップしてもらってもいいでしょう。
仮に、年間の費用の見通しが以下のように立ったとします。
| 分類 | 費用 | 金額 |
|---|---|---|
| 変動費 | 種苗費 | 120万円 |
| 肥料費 | 90万円 | |
| 農薬費 | 60万円 | |
| 荷造運賃手数料 | 180万円 | |
| 合計 | 450万円 | |
| 固定費 | 減価償却費 | 300万円 |
| 人件費 | 600万円 | |
| その他固定費 | 390万円 | |
| 合計 | 1,290万円 |

値決め:顧客はいくらの価値を感じてくれるか?
費用の次は、収益の設計です。「いくらで売るか」という値決めは、利益を非常に大きく左右するものです。
商品1つあたりの変動費よりも高い金額にしなければならないのは当然ですが、「コストがこれだけかかるから、この価格にしよう」という考えかただと、実際はもっと高く売れるのに安く売ってしまう、ということが起こりえます。顧客の視点をもって、「顧客がこの商品にいくらの価値を感じるか」をもとに考えることがポイントです。
では、顧客の価値認識はどうやって把握すればよいのでしょうか。一つの方法は、実際に顧客に訊くことです。サンプルの商品を準備して「この商品をいくらなら買いますか?」と問いかけてみるのです。
ただし、顧客が適正な価格を知っているとは限りません。とくに、よく知らないものについては、価格は付けられないものです。たとえば、来日したてのアメリカ人に自然薯を売ろうとしたとします。あなたとしては3000円くらいで売りたいかもしれませんが、相手は自然薯など知りません。「300円くらいなら買うかもしれない」という答えが返ってくるかもしれません。この答えを受けて「アメリカ人向けに自然薯は売れない」という結論を出すのは、性急でしょう。
相手に適正な価格を答えてもらうには、どれだけ珍しいものなのかとか、収穫にどのくらいの手間と時間がかかるのかとか、歴史・文化的な意義であるといったような、商品の特徴を適切に伝えなければいけません。そうしてはじめて、相手はその商品が自分にとってどのような意味をもつかを考えることができ、価値を評価できるようになるのです。
こうした努力を行っても、自分が期待しているほどの価格、変動費を十分に上回るような価格では売れそうにないとします。そのときは、コストを削減して採算ラインに合わせる方法を探すか、商品の設計を見直して顧客にとっての価値を高めるかしなければなりません。「この価格では採算が合わないが、顧客はそれ以上払ってくれない」という場合は、残念ながらその商品は生産しないという判断が合理的です。農業経営では、つくれるものを全部つくるのではなく、採算の合う商品に資源を集中させることが重要です。
損益分岐点を計算する
適正な価格を検討するうえでも、損益分岐点を計算しておくことが大事です。ページ1で紹介した計算式がここでも活きます。
損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率
たとえば、固定費が1,300万円で限界利益率が50%であれば、損益分岐点売上高は1,300万円 ÷ 0.5 = 2,600万円です。販売単価を上げずにこの事業を黒字にしようとすれば、年間2,600万円の売上が必要だということになります。
ただし、損益モデルを商品1つあたりの変動費のレベルで分解できていれば、損益分岐点を求めるために、上記の計算式よりも分かりやすい「損益分岐点販売数量」から計算するという方法が使えます。これについては、以下、事例で計算するときに紹介します。
この「最低限いくら売ればよいか」という数字が明確になることで、経営の安全ラインが見えてきます。さらに、目標利益を加えることで、達成すべき売上目標も逆算できます。たとえば年間200万円の利益を目指す場合、必要な売上は(1,300万円 + 200万円)÷ 0.5 = 3,000万円です。目標が売上という数字に変換されると、「1か月あたりいくら売る必要があるか」「何人の顧客に何回買ってもらえばよいか」という具体的な計画へと落とし込めます。
先ほどの例について、売上のほうも仮の数字を設定してみましょう。仮に、この経営体の売上高が1,800万円だとします。また、商品単価は400円/kg、販売数量は18,000,000÷400=45,000kgだとしてみます。このとき、変動費合計は450万円だったので、45,000kgで割ると、商品1kgあたりの変動費は4,500,000÷45,000=100円/kgとなります。すると、上の表と合わせて、損益モデルは以下のようになります。
| 項目 | 値 | 単位 |
|---|---|---|
| 販売単価 | 400 | 円/kg |
| 商品あたりの変動費 | 100 | 円/kg |
| 商品あたりの限界利益 | 300 | 円/kg |
| 限界利益率 | 75 | % |
| 販売数量 | 45,000 | kg |
| 売上高 | 18,000,000 | 円 |
| 変動費合計 | 4,500,000 | 円 |
| 限界利益合計 | 13,500,000 | 円 |
| 固定費 | 12,900,000 | 円 |
| 利益 | 600,000 | 円 |
| 損益分岐点販売数量 | 43,000 | kg |
| 損益分岐点売上高 | 17,200,000 | 円 |
ここで、この表に出てきた「損益分岐点販売数量」について説明しておきます。これは、固定費1,290万円を商品1つあたりの限界利益300円で割ったものです。商品1つあたり300円の利益が残るので、それを積み重ねて固定費である1,290万円分にできれば、固定費をカバーできることになります。だから、1,290万円を300で割って、「固定費1,290万円は商品あたりの利益の何個分なのか」と計算しているわけです。こうして、商品を43,000kg(43トン)売れたら利益が残る、ということが分かりました。
さらに、販売単価に損益分岐点販売数量をかければ、損益分岐点の売上高が計算できます。今回は400×43,000=17,200,000円です。先ほど紹介した損益分岐点売上高=固定費÷限界利益率の計算結果がこれと一致することも確認しておきましょう。12,900,000÷0.75=17,200,000円となります。
上記の表が、損益モデルのシンプルな形です。変動費や固定費を合計だけでなくその内訳まで表示すればより精緻なモデルになるので、ご自身の経営で試してみてください。
数字を変化させて成功の要件をシミュレーションする
損益モデルができたら、数字を動かしてシミュレーションをしてみましょう。
シミュレーションでは、上記のように、売上を「販売単価×販売数量」に分解して実施するのがポイントです。価格と数量を個別に動かすことで「価格を変えたらどう変わるか」「数量を変えたらどう変わるか」が明確に見えます。
たとえば、もともと400円/kgだった販売単価を5%値上げし、420円/kgで販売するとします。この場合、以下のように数字が変化します。
| 項目 | 現状 | 値上げ | 単位 |
|---|---|---|---|
| 販売単価 | 400 | 420 | 円/kg |
| 商品あたりの変動費 | 100 | 100 | 円/kg |
| 商品あたりの限界利益 | 300 | 320 | 円/kg |
| 限界利益率 | 75 | 76 | % |
| 販売数量 | 45,000 | 45,000 | kg |
| 売上高 | 18,000,000 | 18,900,000 | 円 |
| 変動費合計 | 4,500,000 | 4,500,000 | 円 |
| 限界利益合計 | 13,500,000 | 14,400,000 | 円 |
| 固定費 | 12,900,000 | 12,900,000 | 円 |
| 利益 | 600,000 | 1,500,000 | 円 |
| 損益分岐点販売数量 | 43,000 | 40,313 | kg |
| 損益分岐点売上高 | 17,200,000 | 16,931,250 | 円 |
この例では、値上げによって売上高が90万円増えたのに対し、変動費・固定費の金額は同じなので、この90万円はそのまま利益となります。
一方で、販売数量を5%増やした場合、売上高は同じく90万円増えますが、変動費も22.5万円ふえるので、利益の増分は67.5万円です(計算はぜひご自身で試してみてください)。
もっと本格的なシミュレーションでは、たとえば、「設備投資により固定費が○円増えるが、代わりに変動費が○円下がり、生産規模を○%増やせるので、利益は○円増える」といったことを計算できます。このように、簡単な損益モデルを作成し、それをもとにシミュレーションをすることが、事業性のあるビジネスモデルを構想するために有益です。
悲観的なシミュレーションも必ずつくる
さて、こうしたシミュレーションをするときに注意したいのは、仮定する数字が楽観的になりすぎることです。売上に関しては、とくにこれまでと違う販路にチャレンジする場合、大きく外れることがあります。「うまくいけばこれだけ売れるはず」という計画は、だいたいうまくいかないと思ったほうがよいです。
費用に関しては、材料費・資材費・燃料費などが年々上昇しているとは言え、支出の金額はだいたい見通すことができるでしょう。しかし、病害虫や気象の影響によって反収が大きく下がるといった問題が生じると、商品あたりの原価は大きくなってしまいます。シミュレーションをするときには「これ以上悪くなることはないだろう」と思えるくらいに厳しい数字を仮定した、悲観的なシナリオも必ず用意してください。
悲観的なシナリオをつくるとは、たとえば「売上が計画の7割しかとれなかった場合はどうなるか」「病気の発生で収量が半減した場合はどうなるか」といったことを確認することです。悲観的な数字を見て「それでも許容できる損失だ」と判断できれば、腹を決めて事業にとりくめます。逆に「悲観的シナリオでは資金が底をつく」と分かったなら、事業の設計を見直す必要があります。固定費を削減できないか、変動費を下げる方法はないか、別の商品や販路を組み合わせることで収益の安定性を高められないか、あるいはリスクを保険などでカバーできないか、代替案を検討しましょう。
また、数字の現実性を評価するうえでは、第三者の意見は貴重です。経験豊富な先輩農家や、いま取り組もうとしているのに近い事業を行ったことがある経営者、技術・金融・マーケティングといった各分野の専門家など、頼れる相手がいるなら、相談するといいです。シミュレーションを第三者に見てもらうことで、自分が思ってもみなかった視点を得られるかもしれません。
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