農業の変動費は「何に比例するか」によって3種類に分けて考えると経営改善の道筋を立てられる
みなさまの農業経営では、利益がしっかり出ていますか?
出ていないとしたら、その原因を突き止めて、適切な対策を打つことが大事。
そのための基本的な手法は、費用を固定費と変動費に分けて損益分岐点を求める手法、いわゆる「固変分析」です。
私が農家・農業法人の経営診断をするときも、決算書を受け取ったら、損益計算書をもとに必ず固変分析を行います。
とはいえ、どのようなものが変動費で、どのようなものが固定費になるのかがわからなければ、分析の仕方を知っていたとしても実際の分析はできません。
そこで今回は、農業における変動費にはどのようなものがあるかを説明します。
また、次の記事では主な変動費について目安となる値や改善のポイントを紹介しているので、あわせてお読みください。
変動費の分類
まず、一口に変動費と言っても、何に対して変動するのかを考えておく必要があります。
一般的な参考書では、変動費について「売上高に比例する」とか「生産量に比例する」といった説明が書いてあります。
これはもちろん正しいのですが、変動費を売上高だけに比例させたり、生産量だけに比例させたりするのは正確ではありません。
変動費には、売上高に比例するものもあれば、生産量に比例するものもあります。
農業の場合は、生産面積に比例するものもあります。
その他の要素に比例することもあるでしょうが、農業経営を分析し、シミュレーションをするうえで私がお勧めしているのが、変動費を「面積」「生産量」「売上高」の3つに比例するものに分けて考える方法です。
以下、この考えかたに沿って解説します。
面積に比例する変動費
面積に比例する材料費
まずは生産の最初の段階である面積に比例する変動費を考えていきましょう。
面積に比例する主な材料費としては、種苗費、肥料費、農薬費、諸材料費があります。
まず、これらが変動費であることを確認しておきましょう。
たとえば、1ヘクタールあたり1万円分の種苗費がかかるとしたら、2ヘクタールの生産をする場合には種苗費は2万円分に、3ヘクタールなら3万円分になるはずです。
このように、種苗費は面積に比例して増えるので、変動費として捉えることができます。
なお、「諸材料費」というのは、農業簿記になじみがないと何のことか分からないかもしれません。
これは、防草などの目的で地面に敷くマルチシートとか、トマトなどの茎を支えるためのポールやクリップといった、それ自体が農産物に変わるわけではないけれど、農産物をつくるのに田畑に投入する材料のことです。
ちなみに、農業簿記の一般的な科目として、「農具費」というものもあります。
これは典型的にはクワとかハサミといったような、農作業をするための道具のことです。
プロの農家さんでも諸材料費と農具費を混同していることがよくありますし、農家の顧客が少ないと税理士さんでもこうした科目のことを知らない場合があります。
農業経営者として実力をつけるために、ぜひ覚えておきましょう。
面積に比例する労務費
労務費については、農業は季節性が大きいので「作業が必要なときに必要なだけの労働力を確保する」ということはかなり困難ですが、これができる場合、労務費は面積に比例することになります。
1ヘクタールあたり1,000時間の作業が発生するとしたら、2ヘクタールあたりの作業時間は単純計算で2,000時間になります。
時給が同じであれば、面積が倍になるとそれに伴って労務費も2倍になりますので、労務費は変動費となります。
最近ではタイミーなどのスポットアルバイトサービスの利用が広がってきていますので、少なくとも作業の一部については変動費的に捉えることができるようになってきました。
ただし、あなたの農業経営にとって仕事のボリュームに応じて労働力を増やしたり減らしたりすることが現実的でないとしたら、労務費は固定費的なものと考えたほうがよいでしょう。
個人的なお勧めは、労務費を変動費と考えるシミュレーションと、固定費と考えるシミュレーションの両方を試してみることです。
そして、利益が小さいほうのシミュレーションをより厳しい見方として採用するとよいです。
理屈の上では、生産規模が大きくなるにつれて、変動費と考えるシミュレーションのほうが利益が出にくくなります。
面積に比例する経費
その他の面積に比例する経費としては、耕作機械や暖房装置にかかる動力光熱費や、農地を借りている場合に発生する賃借料が主なものです。
これら以外にも面積に比例する変動費はあるかもしれませんが、ふつうの農業なら、ここまで述べてきたもので主要なものは網羅されているはずです。
生産量に比例する変動費
つづいて、生産量に比例する変動費を考えてみましょう。
農業では、同じ1haの面積で同じ作物を育てても、10トン収穫できることがあれば、5トンしか収穫できないこともあるでしょう。
こうした場合、面積あたりの変動費は同じ金額でも、生産量に比例する変動費は異なります。
生産量に比例する材料費
生産量に比例する材料費には、厳密には材料ではなく資材と呼びますが、出荷をするときに使う段ボールなどの梱包資材や、商品をつくるための袋などの包装資材のコストがあります。
たとえばニンジンを3本1袋に入れて1つの商品として販売する場合、袋代が1円だとしたら、商品1つで1円、2つで2円、……と、商品を生産する数量に比例して資材費も増えていきます。
なお、こうした包装・梱包の資材費は、勘定科目としては「荷造運賃」とするのが一般的です。
生産量に比例する労務費
労務費にも生産量に比例するものがあります。
おもに、収穫から出荷までの労働時間は、生産量に比例します。
たとえばトマトやレタスのように手で収穫する品目は、同じ面積でも、面積あたりの収穫量が増えればそれに比例して収穫にかかる時間も増えます。
ただし、お米のように機械で一斉に収穫する品目は、面積あたりの収穫量が多かろうが少なかろうが収穫作業の時間にほとんど差がないので、こうした品目の場合は収穫時間も面積比例と考えたほうがよいです。
商品を手で袋詰めするとか、段ボール箱に梱包するとか、軽トラックに積んで出荷するといった場合にも、労働時間が生産量に比例するので、変動費と捉えたほうがいいでしょう。
一方で、機械がこなしてくれて、人間はスイッチを入れたり切ったりといった形で最初と最後だけ管理すればよいようであれば、その作業は固定費とみなすことになります。
生産量に比例する経費
生産量に比例するその他の経費としては、輸送する場合の運賃や、出荷にかかる車両の燃料費といったものがあります。
また、調製作業や梱包作業で水や電気を消費するようでしたら、そのための水道光熱費も変動費として考えます。
ただし、水道光熱費は基本料金と従量料金があってややこしいです。
厳密にシミュレーションする場合は固定費と変動費に分けるべきでしょうが、あまり金額が大きくないようであれば、全額変動費とみなしていいと思います。
売上高に比例する変動費
最後に、売上高に比例する変動費を考えます。
材料費や労務費が売上高に比例するということはあまりないので、該当するのはその他の経費だけです。
売上高に比例する経費として最大のものは、市場や直売所などの販売手数料でしょう。
売上高に比例する変動費は数こそ少ないものの、販売手数料率は売上高の10%以上になることが多いので、変動費の中でもかなり大きな割合を占めます。
まとめ
以上の内容を表にまとめました。
| 材料費 | 労務費 | 経費 | |
| 面積比例 | ・種苗費 ・肥料費 ・農薬費 ・諸材料費 | ・収穫より前の作業 | ・機械や暖房の動力光熱費 ・農地の賃借料 |
| 生産量比例 | ・包装資材 ・梱包資材 | ・収穫作業 ・調製作業 ・梱包作業 ・出荷作業 | ・調製梱包設備の動力光熱費 ・運賃 ・出荷トラックのガソリン代 |
| 売上高比例 | ・販売手数料 |
固変分析は、決算書の情報だけから簡易的に行うことも可能ですが、より精度の高い分析や今後の目標設定をするためには、上記のように変動費を面積比例・生産量比例・売上高比例の3段階に分けたシミュレーションを試してみるとよいです。
なお、以下の記事にて、固変分析のための簡単なやりかたをフォーマット付きで紹介していますので、ぜひ合わせてお読みください。
