経営改善の出発点は現状分析
経営改善の第一歩は、自分の経営を正しく評価することです。「なんとなく売れている」「忙しいのに儲からない」という状態から抜け出すには、感覚や勘ではなく、数字と事実にもとづいた診断が必要です。
このページでは、農業経営を評価するための基本的な考え方と、実際に使える財務指標を紹介します。
経営分析ってなに?
いい医者と藪医者の違いは処方箋ではなく診断
突然ですが、「病気の診断は正確にできるけれど薬の知識はあまりもっていない医者」と「薬の知識は豊富だけれど病気の診断をよく間違う医者」がいたとしたら、あなたはどちらを受診しますか?
多くのかたは、病気を正確に診断してくれる医者を選ぶと思います。薬という解決手段をたくさんもっていても、そもそもの診断を間違っていたら、治療は博打と一緒です。診断さえ正しければ、多少時間はかかるかもしれませんが、その病気に効く薬を調べて処方することができます。
経営もこれと一緒です。課題や問題、あるいはその原因を突き止めることができれば、何とか対処法を見つけることができます。「いろいろと改善の取り組みをしているけれども改善しない」ということが起こるのは、そもそもの原因を見誤っているからです。
「売上が伸び悩んでいるから販路を増やそう」とか「利益が出ないから節約しよう」という具合に、問題の表面だけを捉えて対策を考えると、的外れになりやすいものです。まずやるべきことは、自分の経営を正しく診断することです。経営分析は、「何が問題か」「なぜうまくいっているか」を根拠をもって把握するための出発点です。
ほんのいくつかの指標で問題は見えてくる
「経営分析」と聞くと、複雑な計算や膨大なデータが必要に思えるかもしれません。しかし、実際には数個の財務指標を押さえるだけで、問題の大枠はほぼつかめます。
数字が多すぎると、かえって判断を誤らせるリスクがあります。経営分析は精緻さより、実行できるシンプルさを優先することが大切です。まず自分が理解できる範囲の指標を計算し、その数字を「過去の自分の数字」や「同じ品目の平均」と比べることで、問題の所在は見えてきます。
もちろん、同じ指標からでも、経験や知識によって異なる解釈をする可能性はあります。だから、本格的な経営診断は、やはりプロに相談していただくことをお勧めします。しかし、「そもそもそうした指標を計算したことがなかった」とか「何から手をつければいいか分からない」という段階にあるなら、このページで紹介する3つの財務指標と損益分岐点の計算から始めてみましょう。もしかしたら、ご自身の経営について、これまで思ってもみなかった問題が見つかるかもしれません。
財務の基本的な言葉を覚える
さて、具体的な指標の紹介に進む前に、最低限の言葉の説明はしておきたいと思います。財務管理について本格的に学ぼうとすると非常に奥が深いもので、終わりはありません。難しい概念は後回しでよいので、まずは以下の3つのポイントだけ、経営者の常識として押さえてください。
利益と所得は何が違う?
経営の話をしていると、「利益」と「所得」という2つの言葉が出てきます。この使い分けは、個人農家か農業法人かによって変わります。
- 利益:農業法人が使う概念。損益計算書に記載される、売上から費用を引いた金額。「営業利益」「経常利益」など、売上からどの費用までを差し引くかによって、いくつかの異なる利益があります。
- 所得:個人事業で使われる概念。農業による収入から経費を引いた金額(農業所得)。確定申告の対象になります。
正確には、法人にも税額を計算する根拠として所得の概念があります。ただ、決算書には登場しないので、ここではいったん無視させてもらいます。
利益も所得も「儲け」を表す概念ですが、使われる文脈が異なります。法人なら利益、個人なら所得です。
法人の「利益」は法人に残るものなので、税引き後の利益は全額を事業のために使うことができます。
しかし、個人の「所得」はそうはいきません。個人の所得は、全額を事業のために使えるものではないのです。というのは、個人の場合、所得の金額に対して所得税などの税金がかかるからです。国民年金なども支払わなくてはなりません。そして、何よりも、自分自身が生きていくための生活費も、所得から捻出する必要があります。このように、個人事業の場合は「事業」と「個人の生活」の両面が影響するため、所得はそのまま事業に使えるものではないのです
これに対し、法人は架空の人格なので、生活費が不要です。税金は支払う必要がありますが、法人の決算書には税引き後の利益が載っています。
経営者としては、このように、「利益」と「所得」という重要単語をしっかりと使い分けられるようにしておいてください。
財務会計 v.s. 管理会計、学ぶならどっち?
毎年多くの農業者さんと出会う中で、「お金の勉強をしたい」と言われるかたが多いです。大変よいことですが、問題は、どこから手をつけたらいいのか分からないこと。まずはこのウェブサイトで核を掴んでもらいたいですが、さらに学びを深めようと思ったら、参考書なりセミナーなりの手段を見つける必要があります。
そのとき、そもそも「会計」にどのようなジャンルがあるのかが分からないと、間違った門をくぐって、「勉強はしたけれど役に立たなかった……」という事態になりかねません。
まず、会計には大きく分けて2種類ある、ということを覚えてください。
- 財務会計:税務申告や融資の際に使うための会計。決算書(損益計算書・貸借対照表)がその代表例。法律でルールが決まっており、外部への説明を目的としています。
- 管理会計:経営判断のための会計。決まったルールはなく、目的に応じて自由に設計・運用します。
ざっくりとたとえると、財務会計は英語、管理会計は方言のようなものです。
投資や融資といった話をするときには、異なる会社をできるだけ公平な基準のもとで評価することが必要です。このとき、関係者がそれぞれ違う言葉で話していたら、意志の疎通は図れません。そこで、共通言語を決めて、その言語で使うことにするわけです。これが会計の世界で言うところの財務会計です。
これに対し、管理会計は、あくまでその会社の経営判断をすることが目的なので、別に英語で議論する必要はありません。日本の会社なら日本語で、フランスの会社ならフランス語で会話をすればいいですし、もっと言えば、方言や隠語(ジャーゴン)を使ったほうが効率よくコミュニケーションできるようであれば、それを使えばいいのです。
さて、会計に以上の2種類があるとして、何をどのように学べばいいでしょうか?
農業者向けのセミナーとしてよく農業簿記が取り上げられます。「簿記」というのは財務会計の領域のものです。財務会計の知識は金融機関などと会話をするときの共通言語なので、一流の経営者には必須です。先ほどのたとえを使えば、英語を使えることは一流の経営者の教養です。
しかし、別に英語のネイティブである必要はありません。身振り手振りを交えながらとにかくビジネスを進めることができれば問題はないので、英語(=財務会計)のプロフェッショナルになろうと努力するよりは、自身の事業の発展のためにもっと有効な時間の使いかたがあるはずです。
ですから、財務会計や簿記を学ぶことは大事ですが、まずは最低限のところまででよいと思います。具体的に言えば、日商簿記の3級にぎりぎり合格するかしないか、といったくらいの知識があれば、最低限はクリアしていると思います。
一方で、管理会計は違います。管理会計はよい経営判断をするための、企業独自の方言です。これがないということは、その企業に財務の言葉がないということ。これは大変まずいことです。
管理会計の主な領域には以下のようなものがあります。
- 経営分析
- 原価管理
- 予実管理
- 資金繰り管理
一部についてはこのページや当社の別の記事でも紹介していますので、入門のためにぜひお読みください。
ここでは、経営分析について紹介します。経営を改善するには、すでに述べたように、問題のありかを見つけられることが大事です。そのためには、自身の経営の良し悪しを測るための指標をもっておきたいもの。ぜひ、このページを最後まで読んで、オリジナルの指標をつくる第一歩として、基本的な指標を理解してください。
変動費と限界利益と固定費
最初に覚えておきたい管理会計の用語として、以下の3つを紹介しておきます。これらは数字をもとに経営を改善するうえで最重要の言葉なので、しっかり使いこなしてください。ただ、すぐには理解できなくても大丈夫。このウェブサイト内で繰り返し登場するので、その都度意味を再確認するとともに、活用方法の理解を深めていってください。
- 変動費:生産規模や販売量や売上高に比例して増減するコスト。生産規模に比例するものとして種苗費・肥料費・農薬費・動力光熱費などが、販売量に比例するものとして梱包資材費・運賃などが、売上高に比例するものとして販売手数料などがあります。
- 固定費:変動費以外のコスト。「固定」費なので、正確には売上高などに比例せず一定の金額がかかるコストなのですが、分類をたくさん設けて複雑にするよりは変動費か固定費かという2択で考えたいので、このサイトでは変動費以外を全部固定費と表現します。そのため、固定費と言いつつ、実際には状況に応じて大きさが増減する可能性があるのでご注意ください。
- 限界利益:売上高から変動費を引いた金額(売上高 − 変動費 = 限界利益)。「限界」というのは「1つあたりの」といった意味なので、より正確には商品1個の売上から商品1個の変動費を限界利益と呼んだほうがよいかもしれません。ただ、ここでは「売上高 − 変動費」で計算するものはすべて限界利益と呼び、区別する必要がある場合は「商品1つあたりの限界利益」とか「限界利益合計」といったように表現します。
これにもう一つ足すとしたら、次の節で説明する「損益分岐点」です。上記3つと損益分岐点という言葉は、管理会計の基本中の基本であり、これらを理解するだけでも経営管理の精度と効率が大幅に向上します。ぜひ、これらの言葉が出てくるたびに、その内容を繰り返し確認して、自分のものにしてください。
指標を計算する
いよいよ、経営分析の実践です。今回は、ある程度の期間経営をしていたら必ずおもちのはずの「決算書」の数字をもとに、財務指標を計算してみます。農業経営でとくに重要な3つの指標と、損益分岐点の計算方法を説明します。
関連動画
農業経営に使える財務指標
財務指標とは、決算書の数字から計算できる、経営状態を端的に示す数値です。指標を「過去の自分」と比べたり、「同じ品目の標準値」と比較したりすることで、コスト構造の問題点が浮かび上がります。
経営指標にはいろいろな種類のものがあり、主なものだけでも30種類くらいはあります。それらを全部理解するのは大変ですし、全部が同じように経営改善に貢献するわけでもありません。そこで、ここでは「売上高に占める各費用の比率(売上高費用率)」という形で計算されるシンプルな指標に限って説明します。いずれも「その費用 ÷ 売上高 × 100(%)」で求められます。まずは以下の3つを計算してみましょう。

売上高材料費率
売上高材料費率 = 材料費 ÷ 売上高 × 100(%)
農業は、農地に何かしらの材料を投入し、それを農産物へと育てることによって付加価値を生む事業です。10万円の材料から20万円の売上をつくるのと、100万円の売上をつくるのとでは、経営効率が大きく違います。前者は材料の価値を2倍にしているのに対し、後者は10倍にも膨らませています。材料をどのくらい効率よく付加価値に転換しているのかは、ものづくりとしての農業の経営指標として本質的に重要なものです。
上の説明では「売上が材料費の何倍になったか」という形で説明しており、これはこれでよい経営指標なので採用されてもよいですが、より一般的なのは、「材料費が売上高の何%か」という、分子と分母を反対にした売上高材料費率のほうです。いくつか理由はありますが、「売上高」を共通の分母にすることで、他の指標と比較したり足し合わせたりしやすくなることが挙げられます。売上高材料費率が20%で、(次に説明する)売上高人件費率が40%だとしたら、足し合わせて60%になる、といった計算ができるわけです。
ちなみに、農業だとこのように材料費と人件費を足し合わせた指標はあまり使うことがありませんが、飲食業だと材料費と(人件費とはちょっと違いますが、その一部の)労務費を足し合わせたFL比率というものが主要な指標として用いられています。
さて、売上高材料費率に話を戻しましょう。農業の材料費は、決算書上、種苗費・肥料費・農薬費・諸材料費の4つに分類されて計上されています。法人の場合は、これらを「材料費」とまとめた合計の数字も表示されているかもしれません。
売上高と材料費の大きさを比較する指標ですが、平均的な値や適正水準は品目や作型によって異なります。そのため、評価をするときには、ご自身の商品に近い品目の平均値などと比較をしてみてください。ただし、多くの品目で、売上高材料費は10%台が平均だと思います。10%未満だと低い、つまり少ない投入で付加価値をつけることができている可能性が高いですし、逆に20%を超えるようだと無駄な投入が多い可能性があります。あくまで目安ですが、無駄や非効率を探すうえでのヒントにしてください。
売上高材料費率が大きい場合、考えられる原因と対策は主に3つです。
- 投入量が多い:肥料や農薬の施用量を減らしたら、収量減による減収よりもコスト削減によるメリットのほうが大きくなるのではないか。
- 調達単価が高い:購入先を専門の業者などに変えることで、同じ資材をより安く仕入れられないか。
- 歩留まりが低い:生産・調製・販売のプロセスを改善することでロスを改善できないか。
こういった観点から、改善の余地がないかを確認していきましょう。収量そのものを科学的に改善するアプローチ(対照試験・実験計画法)については、「計画を立てよう②:生産性改善」ページで取り上げます。
売上高人件費率
売上高人件費率 = 人件費 ÷ 売上高 × 100(%)
これは、農業経営の数ある経営指標の中でも最重要と言っても過言ではありません。私は多くの赤字農家・赤字農業法人の経営相談を受けてきましたが、赤字の理由としてもっとも多かったのが、売上高に対して人件費が大きすぎる、つまり売上高人件費率が大きすぎる、というものです。
ただし、こう言うと「人件費はカットしたくない」という反応を受けることがあります。しかし、売上高人件費率を改善するための方法は、人件費の削減だけではありません。売上高を増やすことでも改善できます。人件費は事業者から見ればコストですが、人が生きていくうえで重要なものです。「付加価値」を計算するときには、人件費も一つの項目として含まれます。人件費を下げるわけにはいかないのでしたら、売上をいかに増やすかを考えるのです。
なお、人件費には、「給与」「賞与」「雇人費(個人事業の場合)」といったもののほか、社会保険料などの「法定福利費」、経営者やその家族の給与である「役員報酬」「専従者給与(個人事業の場合)」も含まれます。また、経営者の給与は法人の場合は決まっていますが、個人事業の場合は決まっていないので、生活費や税金などを支払うために必要な収入を経営者自身の人件費として足してみてください。
この指標の目安は、30〜40%程度が目安です。手作業が多く労働力が大量に必要になるような品目では40%を超えていても利益が残ることもありますが、まずは40%未満(あるいは、逆数をとって、人件費の3倍くらいの売上を実現すること)を目標に据えるとよいと思います。
この割合が高い場合に考えられる原因は2つです。
- 生産規模が人件費に見合っていない:同じ人数のまま売上を増やせれば、率は下がります。規模拡大や販売単価向上、品目転換が改善策になりえます。
- 作業効率が低い:同じ面積・同じ品目でも、作業の標準化や道具の見直しで時間を短縮できる余地がある場合があります。
売上高減価償却費率
売上高減価償却費率 = 減価償却費 ÷ 売上高 × 100(%)
3つ目の指標は、売上高減価償却費率。減価償却費は、農機・ハウス・倉庫などの設備を購入した費用を、耐用年数にわたって毎年少しずつ費用化したものです。そのため、耐用年数を過ぎていない設備が多い投資直後ほど、この割合は高くなります。
この割合が高い場合、「投資した設備に見合う生産規模・売上が実現できていない」ということになります。設備投資は固定費を増やす一方で、作業効率を高めることで生産規模を増やしたり変動費を減らしたり、あるいは人にかかる負荷を小さくしたりして、利益改善と労働環境改善を図るものです。投資と同時に生産規模を十分に拡大できなければ、変動費の削減効果が固定費の増加分より小さくて、利益が減ってしまいかねません。
設備投資は一度したら後戻りができないので、事前によく検討することが必須です。投資によって利益が増えるのかどうか、必ず事前にシミュレーションしましょう。また、設備を選択するときには、複数の業者に見積もりをとり、求める機能がある設備を妥当な価格で購入できるよう、比較検討の材料を確保するべきです。
設備投資をしたなら、一人あたりの売上を高めるよう生産規模を拡大する必要があります。シミュレーションにて計算した損益分岐点(次に説明します)を超えるための生産規模を推測して、それ以上の規模になるように取り組むことが必要です。
決算書からざっくりと損益分岐点を計算する
上記のような経営指標と同時に把握しておきたいのが「損益分岐点」です。詳しくは別の記事で紹介していますが、費用を変動費と固定費に分類したら、損益分岐点を計算することができます。以下の式で計算できます。
損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率
たとえば、固定費が800万円で限界利益率が40%(変動費率60%)の場合、損益分岐点売上高は800万円 ÷ 0.4 = 2,000万円です。
簡単なやりかたとしては、決算書の費用項目を一つずつ、変動費なのか固定費なのか分類していきます。たとえば荷造運賃手数料だったら変動費、農具費だったら固定費、といったように分けていきます。
なお、経営内容や、実施したいシミュレーションの目的によって、同じ費用でも変動費と考えるべきか固定費と考えるべきかが変わります。たとえば種苗費は、水稲や露地野菜のように面積拡大による増産が比較的容易な品目であれば変動費と捉えたほうがいいですが、施設園芸のように面積をすぐには増やせない経営であれば、固定費としてシミュレーションしたほうがいいでしょう。事情に合わせて考えてみてください。
さて、現在もし赤字だったら、損益分岐点以上の売上を実現するために工夫をすることが必須です。設備投資をするときには、その投資によって固定費がいくらくらい増えるか、変動費がいくらくらい減らせるかを推測して、投資後の損益分岐点を計算します。
損益分岐点を計算することで初めて、「今の経営にどの程度の余裕があるか」「利益を出すには最低どれだけ売る必要があるか」が数字で見えてきます。目標設定や改善計画の精度が、一段階上がります。


これまでとこれからを考える
最後に、数字だけでは見えない部分の分析についても触れておきます。経営改善や事業開発を考える上では「強みは何か」といった内部環境の分析と、「これから経営をとりまく環境はどう変わるのか」という外部環境の分析の両方が大事です。財務分析と合わせて、この2つの視点からも自分の経営を評価してみましょう。
強みを知るには過去を振り返ること
今の自分の強みは、突然生まれたものではありません。過去の経験や実績の積み重ねから生まれるものです。自身の強みが分からないという場合は、一度過去を振り返ってみることをお勧めします。
これまでの歩みを振り返り、「どんなことを達成してきたか」「どんな試練を乗り越えてきたか」といったことを整理してみましょう。世界一や日本一である必要はありません。周囲の他の農業者との違いがあれば、それがお客さんに選ばれる理由になります。
活用できる強みは、必ずしも農業に関するものとは限りません。むしろ、農業以外の経験が、他の農業者との違いを生むものです。たとえば他産業で営業を経験したとしたら、それは貴重な財産です。農業従事者の中で営業の経験者は一握りしかいないからです。
また、あなた自身の経験でなくても構いません。代々続いている農家に生まれ、継いだのなら、その歴史は唯一無二のものです。地域が何かしらの品目の産地であったり、何かしらの文化資源や観光資源を有していたりすれば、それも強みに変わるかもしれません。広い視野で、自身と地域の過去を振り返ってみてください。
社会の変化を読む:あなたの農業はこれからも求められる?
農業も、経営である以上、社会の変化と切り離せません。食の安全意識の高まり・環境配慮の要請・人口動態の変化・農業政策——こうした外部環境によって、あなたの農業のあるべき姿は左右されるはずです。
「この品目をつくっていれば安泰」という時代ではなくなっています。「今の事業が5年後・10年後も求められているか」を問い直す視点が、先手を打った経営改善や事業づくりにつながります。
社会の変化を定期的に確認し、自分の経営と照らし合わせる機会を意識的につくりましょう。一般的なフレームワークとして、PEST(Politics・Economics・Society・Technology)というものがあります。世の中の変化を、政策・経済・社会・技術の4つの領域それぞれについて考えてみるというフレームワークです。一度、ご自身の農業を取り巻く環境について、こうしたフレームワークを活用しながら考えてみてください。
地域の将来を見通す:あなたが果たしたい役割は?
外部環境の中でも、地域の将来は、農業を考えるうえで決定的に重要です。農業は本質的に農地という土地と、その土地の自然環境に紐づいたものなので、農業経営者にとって地域はただの生産の場ではありません。自身の地域がこれからどうなるかを見通すことは、自身の農業のありかたを考えるうえで極めて大事なことです。
担い手の高齢化、人口減少、鳥獣害の増加といった変化は、危機であると同時に、先を見据えた農業者にとってのチャンスとなるかもしれません。地域住民・地域経済・地域社会全体の変化を見通し、地域全体の課題を解決する事業にとりくむことで、農業経営は長期的な安定と社会的な意義を両立しやすくなります。
さらに、「自分はこの地域でどんな役割を果たしたいか」という問いに対する答えを用意することが大切です。これは、単なる戦略を超えた、経営の根っこにつながる問いです。この問いへの答えは、次のページ「目標を描こう」で取り組むMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の設定にも直結します。