【シミュレーター付き】農業のロス率改善効果を試算しよう

農業のロス削減は経営改善に大きなインパクト

目次

ロス率は経営改善の重要指標

製造業では生産性の指標として「ロス率」というものが非常に重視されています。
製造しても売り物にならなければ、売上にならないだけでなく、それを製造するためにかけたコストが無駄になってしまいます。
そうならないように、ロス率を0.1%でも改善するよう、大変な努力がなされています。

ロス率が大事なのは、広い意味でのものづくりをする農業でも同じはずです。
農業でも「ロスを減らしましょう」という話を耳にすることはあります。
しかし、そのために具体的な計算や行動をしている農業経営者は、私が知る限りでは少数派です。

ロスを数字で把握できると、「あれもこれも改善しなければ」という漠然とした感覚から、「この取り組みに集中すれば○円の効果がある」という具体的な効果が見えてきます。
すると、行動が変わります。

この記事では、ロス率あるいはその裏返しである製品率(歩留まり)を改善すると利益がどのくらい変わるか、ざっくりと説明していきます。
計算ツールが埋め込んでありますので、ぜひ、あなたの農園の数字を入力しながら読んでみてください。

農業における「ロス」の種類

ロスを減らすには、まず、どんなロスがあるのかを把握することが大事です。
農業のロスには大きく2つあります。

ロスの種類内容
生産ロス(圃場ロス)生育不良・病虫害・腐敗などで収穫できない量
出荷ロス(調製ロス)規格外・作業時の傷・販路の不足などで出荷できない量

なお、ロス率と関連する言葉として「製品率」というものがあります。
これは、一般的には、生産したもののうち販売できる品質のものがどのくらいの割合あるかを示すものです。
農業でも「製品率」を改善の指標として使うことはできますが、今回は圃場での生産・調製場での調製出荷作業・販売といった複数の段階を分けて考えていきたいので、ロス率のほうを中心に考えることにします。

生産ロス

生産ロスは「単収」という形で現れるので意識しやすいものです。
本来圃場から収穫できるポテンシャルとしての最大収穫量のうち、どのくらいが実際には収穫できなかったかを示すものです。

たとえば、(実際には確認できないものですが)ポテンシャルとして反あたり10tの収穫量が見込めるはずなのだけれど、実際の収穫量が6t/反だったとしたら、4tをロスしていることになります。
そのため、ロス率は40%となります。

農業では台風や洪水で畑が一面駄目になってしまうなど、生産ロスは極端に大きくなってしまうことがあります。
非常にブレが大きい一方で、自然災害は人間の力では何ともしがたいので、コントロールが困難な領域です。

それでも、品種の選定や施肥設計の見直し、防除などの取り組みによって、改善の余地は大いにあるものです。
とくに同じ品目でも周辺の農業者より単収が低い場合は、この改善が急務となるでしょう。

出荷ロス

一方の出荷ロスは、収穫してきた農産物を販売できないことによって生じるものです。
出荷ロスは生産ロスに比べると意識されにくいですが、意外に多くの理由によって発生してしまいます。

廃棄ロス

まず、廃棄ロスがあります。
収穫しても売ることができなければ利益は生まれません。

廃棄の原因はいろいろありますが、分かりやすいのは規格外です。
収穫してきてもそれが規格外で販売できなければ、ロスになってしまいます。
「規格外は生産ロスではないか」と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。
たしかに、圃場での管理の質が向上すれば、規格品の割合が増えて、規格外によるロスは減るでしょう。
この意味では規格外ロスは生産ロスです。

しかし、特定の販路で規格外だったとしても、別の販路であれば問題なく売れる可能性があります。
この場合は、規格外ロスを減らすためには、生産側の努力よりも販売側の努力のほうが効果的です。
生産はどうしても気象や病虫害といったコントロールが困難な要因により影響を受けますが、販路は、一度緩やかな規格を通すことができれば持続するものだからです。

農産物は農協や市場といった販売チャネルがあるので規格さえ満たしていれば販売できることが多いですが、特殊な品目や観光農園など、こうしたチャネルに乗らないビジネスでは、販路がないために廃棄になることもありえます。
人工光型植物工場のような、商品原価が高くなるために市場単価では損失が出てしまう品目も同様です。
そうでなくとも独自の販路があるに越したことはないので、販路開拓にはぜひ取り組んでいただきたいです。

他の廃棄の原因として、調製・出荷作業の過程で傷をつけるなどして販売できなくなることもあります。
こうした傷によるロスは作業方法の改善によって減らせるものなので、ぜひ改善の取り組みをしてください。

計量ロス

出荷ロスの中でもう一つ大きいものとして、計量ロスがあります。

販売時の規格が1袋500gだったとしても、実際には1袋520gとか530gといったように、多めに入れているものです。
もし平均的に525g入っているとしたら、この25g分は売上にならず、ロスをしていることになります。
計量ロス5%(25÷500)です。
袋に入れる量を500gちょうどにするのは蒸散などのリスクがあるので不可能ですが、たとえば510gにできたなら、500gのうちの15g分、つまり3%分のロスを減らせることになります。

このインパクトはかなり大きいです。
仮に、この商品の単価が1,000円だとします。
すると、1袋525gのときの実質的なgあたりの販売単価は

1,000 ÷ 525 ≒ 1.905円/g

1袋510gのときは

1,000 ÷ 510 ≒ 1.961円/g

となります。

1.961 ÷ 1.905 ≒ 1.029

なので、計量ロスを削減することによって実質的に販売単価を3%上げられることになります。

ロス削減のインパクトを計算してみよう

さて、せっかくなので、ご自身の商品についてロス率改善のインパクトを計算してみましょう。

以下のツールでは自動計算されるのであまり細かいことは気にしないでも構いませんが、ここでは、以下の式でシミュレーションをしています。

実際販売量 = 理論収量 × (1 - 生産ロス率) × (1 - 廃棄ロス率) × (規格重量 ÷ 実際重量)

なお、農業の現場では収穫量(販売量ではなく、圃場で収穫した作物の量)を計測していることは稀だと思います。
そこで、生産ロス率は他の数字をもとに計算する形にしています。

以下のツールに数字を入力してください。

  • 販売単価:単位は販売個数の単位と揃えてください。
  • 販売個数:実際に販売した商品の個数を入力してください。
  • 理論収量:生産ロスがまったく発生しなかったと仮定した場合の収量、もしくは同品目の他の農業者が実現している最高の反収にあなたの栽培面積を掛けたものを入力してください。
  • 廃棄ロス率:収穫してきたもののうち、出荷できないものの割合を入力してください。計測していなくても、たとえば、調製作業のとき10個の青果物のうち1-2個くらい廃棄するなら15%、といったように大まかな数字で構いません。
  • 規格重量:商品の規格として定められている重量を入力してください。
  • 実際重量:実際の商品の平均的な重量を入力してください。

入力したら、「現在のロス率」パネルのスライダーを自分の農場の現状に合わせて調整してください。
次に「改善目標」パネルのスライダーを動かして、生産ロス率・廃棄ロス率・実際重量をそれぞれ改善したときに、売上高や利益がどのように変わるかを確認してみてください。

シミュレーター

ロス削減インパクト計算ツール

ロス削減インパクト計算ツール

あなたの農場の数字を入れて、各ロスの改善効果を確認しましょう

1. 商品と収量の基本情報
円 / 個
円 / 個
変動費が販売単価以上です
個 / 年
kg
g / 個
1個あたり限界利益(販売単価 − 変動費) 90 円/個
2. 現在のロス率を確認して改善幅をシミュレーション
現在のロス率
廃棄ロス率(現在) 10%
実際重量(現在) 525 g
販売個数(実績)
売上高
限界利益合計
上の数字から逆算される生産ロス率
改善目標
生産ロス率(目標) 15%
廃棄ロス率(目標) 7%
実際重量(目標) 510 g
改善後 販売個数
売上高
限界利益合計
改善効果(年間)
項目 現在 改善後 差額
販売個数
売上高
変動費合計
限界利益合計
年間限界利益の改善額

計算結果の読み方

ツールの結果パネルには、以下の4つの数字が現在と改善後を比較して表示されます。

項目意味
販売個数販売している(できる)商品の個数
売上高販売個数 × 販売単価
変動費合計販売個数 × 1個あたり変動費
限界利益合計売上高 − 変動費合計

注目すべきは限界利益合計の差額です。
ロスを減らすことで、理論的にはこれだけの利益を増やすことにつながるのです。

どのロスから先に取り組むか

3種類のロスのうち、どれから手をつければいいでしょうか。
改善のしやすさという観点では、計量ロス → 廃棄ロス → 生産ロスの順に着手することをお勧めします。

計量ロスが最もコスパが高い

計量ロスは、設備投資もなく、今日から取り組めるものです。
「商品1個(1梱包)あたりの目標重量」を意識し、できるだけぎりぎりを狙うように制度を高めていけば、それだけでもある程度改善するでしょう。

設備投資も有効です。
作物を設定した重量ごとにまとめてくれる計量機は、人が計測するよりも速くて正確であることがほとんどです。

ツールのスライダーで「実際重量」を数グラム動かしてみてください。
思ったより大きな効果が出ることに気づくはずです。

廃棄ロスは原因の記録から始める

廃棄ロスの改善には、まず「何が原因で廃棄になっているか」の記録が欠かせません。
数日間廃棄品の量と理由を記録すれば、原因が浮かび上がってくると思います。

典型的な原因とその対策としては、以下のようなものがあります。

廃棄の原因主な対策
規格外(形・サイズ・色)規格基準の明文化、研修、別販路の開拓
調製・出荷作業中の傷作業台・コンテナの改善、取り扱い手順の標準化
保管中の腐敗・萎れ保管温度・湿度の管理、在庫回転率の改善
販路不足による売れ残り販路開拓活動、市場等への出荷

このうち、「別販路の開拓」は一度整備すれば長期的に効果が続くので、とくにお勧めです。
農協や市場では規格外として弾かれる品物でも、地元の直売所や飲食店向けであれば問題なく売れることがあります。

生産ロスは効果が大きいが時間がかかる

生産ロスの改善は、3つの中で最も効果が大きくなりえますが、同時に最も難しいものでもあります。
気象・病虫害・土壌・品種・栽培管理など多数の変数が絡み合っており、すぐに改善できるものばかりではないからです。

とはいえ、以下の取り組みは比較的取り組みやすく、効果も出やすいものです。

品種の見直し

収量を高めるためにもっとも効果が大きいのは、品種選定です。
同じ野菜ならどの品種も大して変わらないと思われるかもしれませんが、決してそんなことはありません。
スーパーに行けば大玉もミニもさまざまなトマトが売られていますが、全部同じトマトです。
ピーマンもシシトウもパプリカも、種としては同じものです。

動物で考えるともっと顕著ですが、柴犬もゴールデンレトリーバーもチワワも全部イヌです。

同じ種に属していてもこれだけの違いがあるわけなので、地域の気候や土壌に合った適切な品種を選定することが大事ですし、毎年新しい品種が登場しているので常に新しいものを試すことも有用です。。
試験的に一部の圃場で新品種を導入し、収量を比較してみることから始めましょう。

施肥設計の見直し

土壌分析を行い、過不足を把握することが先決です。
慣行栽培では過剰施肥になっていることも多く、コスト削減と単収改善が同時に達成できることもあります。

施肥の影響がどの程度あるかの分析は、他のさまざまな要素の影響があるため、かなり難しいものです。
それでも、私がこれまで分析してきた経験からは、大まかな相関は見えてくるものだと考えています。

そうした分析をするには重回帰分析などの統計学の技術が必要なので、ハードルが高いかもしれません。
しかし、今ではAIの力を借りることが可能です。
このとき、そもそもの試験設計が正しくできていないと、効果を分析することができません。
どのような試験をすればいいのか、というところからAIに相談してみるとよいです。

防除の最適化

病虫害の発生タイミングを記録し、予防的防除のタイミングを見直すことで、発病後に手遅れになる状況を減らせます。
病害虫は年によって圧が大きく異なるもので、経験が非常に重要になるでしょうから、一朝一夕に改善することは難しかもしれません。
それでも、前年と同じ被害は絶対に割けるという意気込みで取り組むことで、少しずつでも前進することができるはずです。

生産ロスの改善は、即効性よりも持続性を重視した取り組みになります。
上記の取り組みも、時間をかけすぎると持続的ではありません。
年間の改善の取り組みの中に組み込んで、少しずつ、しかし着実に、改善に取り組んでみてください。

シェアはご自由に
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

福井を拠点にオンライン・対面にて全国の農業経営者を支援している、経営コンサルティング会社「一茎」の代表です。
一茎のウェブサイトおよびメールマガジンでは、経営改善や効率化のためのちょっとしたポイントなどを発信しています。

【経歴】
東京大学文学部卒業、東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻修士課程修了(学術修士)。
外資系種苗メーカーの海外営業エリアセールスマネージャー、経営コンサルティング会社のコンサルタント/マネージャーを経て、一茎を設立。
主要な支援領域はファイナンス(経営分析・財務管理)、デジタル、マーケティング。
中小企業診断士。ITコーディネータ。

目次