計画を立てよう③:組織開発

組織づくりは経営発展の第一歩

前のページでは、生産性改善について説明しました。顧客に約束した価値を、できるだけ少ない労力と費用で、安定して届ける。そのために使える、品質管理、問題解決、ECRS、チェックシート、実験といった手法や考えかたを紹介しました。

しかし、生産性改善は、経営者一人の努力だけでは続きません。経営規模が小さいうちは、経営者自身が問題に気づき、記録し、改善することができます。しかし、作付面積が広がり、品目が増え、取引先が増え、スタッフが増えると、経営者がすべてを見て、すべてを判断し、すべてを教えることはできなくなります。

それでも経営が成長するか、それともそこから先へ進めなくなってしまうのかの分かれ目となる実践が、組織開発です。

組織開発とは、経営者以外の人も目的と方針に沿って判断し、顧客価値と利益につながるよう、仕事を進められるようになっていくことです。単に人を増やすことではありません。人を増やしても、誰が何をするのか、どこまで決めてよいのか、何をできるようになればよいのか分からなければ、混乱するばかりです。よい人を採用しても、その人が力を発揮できる仕事と環境がなければ、能力は活かされません。

ページ4で扱ったバランストスコアカード(BSC)で言えば、組織とその構成員の成長を実現するためのものとしての組織開発は、「学習と成長の視点」の中でも大きな位置を占めます。学習と成長によって、生産性が高まり、商品がより魅力的なものになり、顧客の獲得と満足を実現し、財務的にも持続と成長を可能にします。学習と成長の視点の中でも重要な位置を占める組織開発は、経営改善を継続して実行するための重要な土台です。

ページ4では、方針は共有して初めて行動の基準になると説明しました。ページ5では、顧客開拓は商談や顧客管理の流れを決めることで属人的になりにくくなると説明しました。ページ6では、作業の基準やチェックシートは、誰がやっても一定の水準に近づけるための道具だと説明しました。

このページでは、そうした組織としての改善を実現することを念頭に置き、業務、権限、責任、能力、面談、コミュニケーションといった環境を整えるための方法を考えます。


経営の課題は組織の課題

経営が小さいうちは、経営者の頑張りでかなりのことが進みます。栽培も販売も経理も人の管理も、経営者が自分で動けばなんとかなる。家族経営であれば、言葉にしなくても共通認識のもとで仕事が進むこともあるでしょう。

しかし、経営が成長すると、そのやりかたには限界が来ます。

新しい顧客との商談を増やしたいのに、経営者が毎日出荷作業に入っている。作業を任せていきたいのに、現場の判断がすべて経営者に集まっている。スタッフを育てたいのに、忙しすぎて教える時間がない。数字を見たいのに、日々の段取りに追われて月次の確認が後回しになる。

こうした問題は、組織がうまく機能していないことに由来します。顧客開拓も、生産性改善も、財務管理も、組織の誰かが実行してはじめて動き出します。その「誰か」が、何を任され、何を判断でき、何を学べばよいのかが決まっていなければ、どれほどよい計画でも現場は止まります。

組織の課題は、典型的には人間関係の問題として現れます。「言ったのに伝わっていない」「任せたのにできていない」「自分で考えてほしいのに質問ばかりしてくる」といった他者に対する不満は、多くの職場で耳にするものです。しかし、不満を言っても職場がよくなるわけではありません。むしろ、みなの意欲が削がれていくばかりです。本当に職場をよくするためには、何かしらの行動が必要です。

組織が大きくなるにともなって経営者一人の力は弱くなる(べき)

組織が大きくなると、経営者の力は相対的に小さくなります。経営者がひとりで農業をして10の仕事をしているとします。雇用をして2人の組織になり、20の仕事ができるようになるとしたら、経営者の寄与分は全体の半分です。当たり前のことですが、このように、組織が大きくなると経営者の役割の割合は小さくなるはずです。これは事実です。そして、小さくなる「べき」でもあります。2人になったのに相変わらず10の仕事しかできていないなら、意味がありません。経営者がすべてを直接動かす状態から、組織が自分で動ける状態へ移っていくべきです。

小さな経営では、経営者が現場の中心にいることが強みになります。すぐ判断できる。すぐ動ける。細かな変化に気づける。しかし、スタッフが増え、作業が増え、顧客が増えると、経営者が現場の中心にいることが、今度はボトルネックになります。

たとえば、次のような状態はないでしょうか。

  • スタッフが判断に迷うたびに経営者へ電話する
  • 経営者がいないと出荷判断が止まる
  • 取引先とのやり取りを全部経営者がしている
  • 計画づくりや数字の確認が後回しになる
  • スタッフが経験を積んでいるのに毎年同じ仕事を繰り返している

この状態では、経営者が忙しく働いていても、組織の成長が止まります。経営者がすべき仕事は、いまの仕事をもっとも効率よく回すことではありません。長期的な視点に立って、仕事の効率を最大化することです。最大限に働けば、年間10の仕事ができるとします。組織開発とは、たとえ今年の仕事量が8や9になるとしても、翌年に15の仕事量を実現できるようにすることです。もし今年10の仕事をしたとしたら、今年は確かに最大限の効率を実現したかもしれませんが、代わりに、翌年の効率は11くらいにしかならないかもしれません。組織開発は長期的な投資です。

組織が大きくなるほど、経営者は「自分ができること」を減らし、「組織ができること」を増やしていく必要があります。これは経営者が楽をするためではありません。顧客に届ける価値を安定させ、利益を残し、改善を続けるためです。

経営者が現場から完全に離れる必要はありません。むしろ、現場感覚を失うと判断を誤ります。ただし、現場に入る理由は変える必要があります。人手が足りないから入るのか、品質基準を確認するために入るのか、スタッフの成長を見るために入るのか。理由が違えば、見るべきものも違います。組織が育つほど、経営者は「作業者」としてではなく、「観察者」「判断者」「教育者」として現場に関わる比率を高めていくことになります。

組織開発の主な領域

組織開発という言葉は幅広いので、ここでは農業経営にとってとくに重要な領域に絞って考えます。

領域内容代表的な問い
業務整理どんな仕事があるかを見えるようにする誰が何をしているか分かるか
権限・責任誰が決め、誰が結果を引き受けるかを決める判断が止まる場所はどこか
能力開発必要な知識・技術を計画的に身につける誰に何をできるようになってほしいか
情報共有方針、計画、問題、進捗を共有する必要な情報が必要な人に届いているか
対話面談や会議で考えを引き出す現場の声が経営判断に届いているか

この中で最初に取り組むべきなのは、業務整理です。業務の全体像が見えていないと、権限も責任も能力開発も考えられないからです。

経営者であれば、自身の経営のほとんどの業務を把握しているでしょう。しかし、従業員もそうとは限りません。ご自身が、新しい業界で仕事をすると想像してみてください。銀行でも保険会社でもレストランでもいいので、これまでまったく経験がない業界の組織に勤めるとしてみます。新人であるあなたには、どんな仕事が期待されていると思いますか? 見当がつかないと思います。

そうしたときに、「仕事はやりながら覚えて」と言われるのと、「うちにはこんな業務があって、その中で、あなたにはこれを今年担当してもらい、これを来年担当してもらおうと思っています」と業務リストを渡されるのとだと、どちらがいいですか? きっと、後者でしょう。

細かな業務マニュアルまでは必要ありません。ただ業務が一覧になっているだけでも違います。それに、最初からすべての業務を載せる必要もないでしょう。まずは、自分以外のメンバーにもかかわってもらいたいと思っている業務が載っていれば大丈夫です。たとえば、「播種」とか「収穫」といった業務は載せておくべきでしょうが、「税理士対応」や「源泉住民税納付」といった業務は、事務員を雇わない限りは経営者の仕事でしょうから、多くの経営体では載せなくてもよいと思います。

まずは利益を増やして還元できる状態をつくること:人事評価制度は後回し

業務リストの具体的な内容はのちほど説明するので、まずは、大枠から考えていきましょう。

当社が行っている研修で「組織づくりと聞いて何を連想しますか?」と質問すると、多くのかたが人事評価制度を連想するようです。誰がどのくらい頑張っているかを評価し、給料や賞与に反映したい。そう考えるのは自然です。家族以外のスタッフが増えると、「不満が出ない職場にしたい」という感覚は強くなります。

しかし、多くの小規模な農業経営では、書籍などで紹介されているしっかりした人事評価制度を最初から導入しようとしないほうがよいと思います。一般的な人事評価制度の参考書は大企業を想定して書かれているものですし、農業の場合は労働基準法の一部の適用除外など労働条件が他の産業と違うところがあるため、そのまま活用することが難しい場合がほとんどです。

それに、根本的なことを言えば、従業員にとって満足のいく人事評価制度をつくることは困難です。一般企業を対象とした調査でも、人事評価制度に不満をもつ従業員が少なくないことを示す結果があります( https://boxil.jp/mag/a10148/ )。制度があることと、従業員が納得して働けることは別の問題なのです。

人事評価制度をつくるのには時間がかかりますし、それを運用するにはさらに多くの労力が必要です。しかも、評価しても還元できる利益がなければ、給与や賞与に反映することはできません。業務の整理、権限と責任の整理、能力の基準もないまま評価だけを始めても、何を評価しているのかが曖昧になります。そうした状態で制度だけを入れると、納得を得るどころか、かえって不満を増やしてしまう可能性があります。

労働者のモチベーションに関して、「動機づけ要因」と「衛生要因」という有名な区分があります。人のモチベーションを高めるのは、周りの人から頼りにされているとか、上司から評価されているといった、人間関係に由来するものが多いです。そうであれば、制度をいくら入念につくったところで、コミュニケーションなどの問題があれば意味がありません。逆に、しっかりした制度は無くても、コミュニケーションが円滑で互いの信頼関係がある組織であれば、一人ひとりのモチベーションは高くなるでしょう。まずは、基本であるコミュニケーションの改善から取り組むべきです。

コミュニケーションの具体的な手段はのちほど説明するので、ここではその前提である「価値観の共有」について説明します。ここでいう価値観とは、人事評価制度をつくることではなく、「何をよい仕事とみなすのか」を共有することです。評価の軸が共有されていないと、従業員はよかれと思って実行したのに経営者に怒られてしまう、といったことが起こります。すると、全員で一つのことを成し遂げることが難しくなりますし、従業員は積極的な行動を起こすことができなくなっていきます。

何をよい仕事とみなすかを考えるときには、能力主義・役割主義・成果主義という3つの考えかたが参考になります。人事評価制度として細かく設計する必要はありません。まずは、自社ではどの考えかたを重視したいのか、しっくりくるものを選択するとよいです。

能力主義とは、業務としてできることの種類や業務の効率、あるいは人格・人間性といった、その人がもつ資質を評価するものです。役割主義とは、決められている職務や役割をどれだけよく果たせているかという行動を評価するものです。成果主義とは、仕事をした結果どれだけの顧客満足や利益を実現したかという結果を評価するものです。

たとえば、ある従業員が、会社のマニュアルにない管理方法を勝手に実施して、反収を500kgから600kgに引き上げたとします。この場合、能力主義では、そうした新たな管理ができるということは評価するかもしれませんが、勝手に実施したことはいけないこととして、この従業員はあまり評価されないかもしれません。役割主義でも、マニュアルがある以上この従業員の役割は会社のマニュアルに沿って行動することとなるでしょうから、勝手な行動をしたこの従業員は評価されないでしょう。一方、成果主義では、結果として反収を引き上げるという実績をもたらしているので、高く評価されるでしょう。

全員がまったく同じ評価の軸をもつことはできないでしょうが、能力主義・役割主義・成果主義のどれを基本とするのかを決めて共有することはできます。その主義を完全には受け入れられない人がいるとしても、会社のルールとしてどの主義を選んでいるのかということは理解できます。

組織としての動きに統一感をもたせるために、会社としてどの主義をとるのか、決めてみてください。それが決まったら、組織の仕組みをつくる段階です。

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業務・権限・責任・能力を整理する

組織の仕組みづくりの出発点は、「うちの経営にはどんな仕事があるのか」を見えるようにすることです。

頭の中では分かっているつもりでも、書き出してみると抜けや重複が見つかります。誰かがやっていると思っていた仕事を誰もしていなかった。逆に、同じ確認を複数人がしていた。経営者しか知らない作業がたくさんあった。こうしたことは珍しくありません。

業務を書き出すことには、共有のためだけでなく、考えるための効用があります。紙や表にすると、「この仕事は本当に必要か」「この判断は誰がすべきか」「この人に任せるには何を教えればよいか」が見えやすくなります。

役職名や評価制度を先につくるより、まず仕事の輪郭をはっきりさせることです。どんな仕事があるかが分からなければ、誰を育てるべきかも、何を任せるべきかも決まりません。

組織の目的は一人ひとりが強みに集中すること

組織をつくる目的は、人を管理することではありません。一人ひとりが強みに集中し、組織全体として顧客価値を効果的に高めることです。

農業経営には、さまざまな仕事があります。

  • 栽培計画を立てる
  • 播種、育苗、定植、施肥、防除を行う
  • 収穫、調製、選別、出荷を行う
  • 顧客と商談する
  • SNSやウェブサイトで発信する
  • 請求書や会計を処理する
  • スタッフを採用し、育成する
  • 資金繰りを確認する

これらをすべて同じ人が高い水準で行うのは無理がありますし、無駄でもあります。栽培が得意な人、段取りが得意な人、顧客との会話が得意な人、数字を見るのが得意な人、細かな作業を正確に続けられる人。それぞれ強みが違います。組織は、この違いを活かすためにあります。

ただし、強みに集中するためには、弱みを放置してよいわけではありません。最低限できなければ困る仕事はあります。収穫担当者が記録をまったく残せないと、ページ6で説明した生産性改善が進みません。営業担当者が顧客の反応を記録しないと、ページ5で説明したマーケティング改善が進みません。資金繰りを誰も確認しないと、利益が出ていても現金が足りなくなるかもしれません。

大事なのは、全員に同じことを同じ水準で求めるのではなく、「その人の役割に必要な能力」と「組織として補い合う仕組み」を分けて考えることです。

業務の全体像がないと誰が何をやるべきかを考えられない

さて、各人に必要な能力や、その補い合いかたは、どうやって考えればよいでしょうか? 経営者の頭の中で、というわけにはいきません。相手があることなので、みなで見ることのできる状態にすることが必要です。つまり、何かしらの文書にすることが必要です。

そこで、まず全部の業務を書き出すところから始めます。順番や分類は後で考えればいいので、まずは思いつくかぎり書き出し、そのあとで整理します。

おすすめのやりかたとしては、まずは生成AIを使ってみてください。「農業の一般的な業務を網羅的にリストアップしてください」といった指示をすれば、叩き台として十分なものが出てくると思います。そこに、自分の農業独自の業務を足していきます。

すべての業務をリストアップするには、いくつかの切り口から考えるとよいです。おすすめは、頻度で分けることです。たとえば、以下の表のような感じです。

頻度業務の例
年次作付計画、設備投資、決算、採用計画、年間販売計画
月次月次損益確認、資金繰り確認、請求処理、顧客別売上確認
週次作業計画、出荷予定確認、スタッフ配置、顧客連絡
日次収穫、調製、出荷、作業記録、在庫確認、清掃
随時商談、クレーム対応、故障対応、病害虫対応、面談

この表をつくると、経営者の仕事がどこに偏っているかが見えてきます。毎日の現場作業が多すぎるのか。月次の数字確認が抜けているのか。商談や顧客連絡が属人的になっているのか。年次の計画づくりに時間を確保できていないのか。

これは経営者だけがやればいいわけではありません。経営者が「当たり前だ」と思ってリストに加えないようなことが、従業員には重たい業務として認識されているかもしれません。できれば全員に自分が担っている業務をリストアップしてもらいたいところです。

まずはこのように、業務リストを作成します。業務の全体像が分からない状態では、役割分担を進めたいと思っても、何をどう分担していくのか決まりません。業務リストがあれば、考えることが容易になりますし、複数人で考えを共有することができます。

さて、業務分担の本題とは少しずれるのですが、一度業務リストをつくったら、せっかくなので、分担を考える前に業務の見直しをしてみるとよいです。ページ6でECRSを説明しました。これを、業務リストの項目一つひとつに当てはめて考えていくのです。

  • なくす:この業務は無くしてしまえないか?
  • まとめる:この業務は他の業務とまとめてできないか?
  • 順番を変える:この業務は他の業務と入れ替えられないか?
  • 簡単にする:この業務はもっとシンプルにならないか?

業務リストで「権限・責任」と「能力」を整理する

業務リストができたら、次に各業務について、権限・責任、能力を整理します。ここは混同しやすいので、言葉を分けます。

権限とは、何をどこまで決めてよいかという範囲です。たとえば「施肥」を考えてみてください。畑に肥料を撒く作業をするのはもしかしたら農場の作業担当者かもしれませんが、施肥設計や施肥をする日の決定をしているのは、経営者や農場長などの場合が多いと思います。仮に経営者が決めているとしたら、権限をもっているのは経営者です。

なお、施肥設計をするのは経営者だけれど、施肥をする日や人を決定するのは農場長だとします。この場合は、業務を「施肥設計」と「施肥」といったように、2つに分けるとよいです。あまり細かくしすぎると大変ですが、判断を統一するためには、一つの業務につき権限をもっている人は一人にすべきです。

責任とは、結果を引き受ける立場です。判断の結果として問題が起きたときに、誰が確認し、誰が改善するのかということです。

ここまでの話で、権限と責任は一致しているべきだと思われたでしょう。それはその通りです。権限より責任が大きくて、たとえば自分に判断できないことについて責められたとしたら、きっと納得がいかないと思います。反対に責任より権限が大きいと、自分が判断したことについて、うまくいっても評価されないし、失敗しても責任を負わなくてもいいということになります。これも問題でしょう。

そこで、権限と責任は基本的には一致しているべきなのですが、そうなっていないことはよくあります。とくに、従業員からの不満が出てくるときには、誰がその業務に権限と責任をもっているのかについて、共通認識がない場合が多々あります。上司は部下に権限を与えているつもりなのだけれど、部下は自分にそんな権限があるとは思っていない、といった場合です。この場合、従業員からすると、自分は権限をもっていないのに責任だけ負わされている、という認識になってしまいます。責任を問うときには、「相手は自分に権限があると認識しているか?」ということを一度立ち止まって考えてみてください。

最後に能力とは、その業務を実行したり判断したりするために必要な知識や技術です。能力をもっていないと権限や責任を与えられませんが、能力をもっているからと言って権限や責任をもっているとも限りません。たとえば、施肥設計ができる人は組織に複数人いるかもしれませんが、その全員が権限や責任をもっているとしたら、結局誰が決めるのかが分かりません。でも、権限を渡していくためには、まず能力を高めておくことが必要です。そこで、「権限・責任をもっているのが誰か」ということと同時に、「誰が能力をもっているのか」もまとめておくべきなのです。

権限や責任は職務記述書などの形で整理されていることが多いですし、能力に関しては製造業でよく能力マップとか多能工管理表とかいった名称で表にされています。これらは、一つの資料にまとめてしまうことをお勧めしています。当社では以下のような「権限責任・能力マップ」を使って支援をすることが多いです。

権限責任・能力マップ

この表をご覧になって、まだ説明していない列が一つあることに気づかれたかと思います。「所要時間」の列です。ここは、その業務を行うのに年間どのくらいの日数がかかるのか、おおよその数字を入れておきます。ここはのべの人日を単位とするとよいです。たとえば、米の収穫作業を4人・30営業日で実施していて、この期間のこの4人の業務のうち8割は収穫だということなら4×30×0.8=96日、経理作業に1人で0.5日の作業を週に1日、年間50週間の時間をかけているとしたら0.5×50=25日、といった感じです。

このような所要時間つきの権限責任・能力マップをつくってみると、たとえば以下のような分析や判断ができるようになります。

  • あまり負担に感じていなかったけれど時間としては膨大にかかっている業務があるので、改善の余地があるのではないか?
  • 責任者が少数の人に集中しているから、品目ごととかエリアごとなどで分散できないか?
  • 責任者が明確に決まっていない業務があるから、決めて、周知しなくてはいけない。
  • 権限移譲をしようにも、能力をもっている人が限られているから、まずは育成を進めなくてはいけない。

ここまで来たら、権限移譲や人材育成の方針づくりはかなりゴールに近づいてきたと言えるでしょう。


権限移譲と能力開発をプランニングする

業務リストを作成し、権限・責任、能力を整理したら、次は、個々の人材に目を向けます。組織をつくるのは、結局は一人ひとりの人です。いくら仕組みや制度が整っても、一人ひとりがステップアップしていかなければ、組織としての成長はありません。ここから、一人ひとりとしっかり向き合う段階になります。

組織の成長は、重要な形の一つとして、権限移譲に表れます。もちろん、「権限責任・能力マップ」の「能力」のところの数字が増えてくると、業務の効率も高まってくるでしょう。でも、それだけでは組織の仕事自体は変わっていません。大事なことは「権限責任」に出てくる名前が変わってくること、それから、これまでやっていなかった業務をするようになるという形で、新しい業務の行が追加されることです。これは、いま権限をもっている人が、その権限を他の人にパスすることによって実現していくものです。

権限移譲はとても大変なことで、なかなか仕事を任せられない人が多い一方で、「任せたよ」の一言で済ませてしまっている人もいます。理想はこの中間で、ある程度の準備をしたうえで、どこかのタイミングで思い切って任せてみるというステップを踏むことになります。

この段取りをするうえでは、5W1Hの要素に沿って考えるとよいです。

権限移譲を5W1Hで考える

権限移譲の5W1H

What:何を任せるか?

任せるというのは、「誰に」「何を」任せるというように、ヒトとコトがあるはずです。まずは「何を」から考えてみましょう。

権限責任・能力マップを見ながら、任せていくべき仕事を考えます。典型的には、以下のような業務が優先すべき候補になるでしょう。

  • 所要時間が多い業務
  • 負担が集中している人の業務
  • 難度が低い業務(=他の人がすでに一定の能力をもっている業務)

このような観点でマップを上から下まで順番に眺めてみてください。候補となる業務はたくさん見つかると思います。

Who:誰に任せるか?

権限移譲を進めたい業務をリストアップできたら、それぞれを誰に任せていくか、案を決めます。実際に権限移譲を進めるべきかどうかは相手の希望や能力次第なので、この段階ではあくまで案です。そのぶん、気楽に検討してください。

Why:任せるのは何のためか?

ここまでで「誰に」「何を」の案ができました。その案を実行に移すには、任される相手(と、任せる人があなた以外の場合は任せる人)に説明し、納得を得るべきです。「企業に勤めている以上仕事を選ぶことはできない、任された仕事はやるべきだ」とお考えかもしれません。それは間違っているわけではないと思います。しかし、会社や上司が従業員の仕事を一方的に決めることがもっとも効率的かと言えば、そうではないはずです。仕事の質や効率は、それをする人の能力に依存するものですが、どのくらい能力を高められるかは、モチベーションによって大きく左右されます。

人は、意義を感じられない仕事には、全力で打ち込めないものです。だから、その仕事を「なぜ」その人にやってもらいたいのか、任せる側がきちんと説明をして、意義を伝えるべきです。その結果、もしかしたらそれでも意義を感じてもらえないかもしれません。その場合は、他に候補者がいるのであれば、他の人に任せることも視野に、権限移譲を再検討してみてください。

その権限移譲を行う意義としては、「その権限移譲によって組織にどのようなメリットがあるか」という組織にとっての意義だけでなく、任される相手自身にとってのメリット・インセンティブも考えるべきです。

  • 組織にとっての意義:経営規模の拡大につながる。任せた人が別の業務を行うことで全体としての効率が上がる。権限移譲によって適材適所が進む。判断者を増やすことで権限が特定の人に集中しすぎるリスクを緩和する。など
  • 任される相手自身にとっての意義:もともとやりたいと思っていた仕事である。その業務をすることで顧客やチームに貢献し、感謝される。スキルアップにつながる。昇給などの待遇面の改善につながる。など

まずはこの計画の段階で、あなた自身が、その権限移譲の意義を相手に説明できるかどうか、考えてみてください。

When:いつまでに任せるか? Where:どの部分を任せるか?

誰に何を任せるかが決まり、その意義もしっかり説明できるとなったら、権限移譲のスケジュールを考えてみます。まずは「何年までに権限移譲を完了させるか」という期限だけでも構いません。その期限通りに権限移譲を進めるための具体的なステップアップは、相手と一緒に考えたほうがいい場合が多いからです。

ただし、難しい業務については、任せる側のほうで大まかなステップを示したほうが、相手も考えやすくなるかもしれません。たとえば、「露地野菜部門の予算作成」というのは、責任重大で難易度としても高い業務でしょう。これを任せていくうえでは、任せる側も、大まかな流れを考えておくべきです。

仮に「3年後には完全に任せて、経営者はもし質問されたら答える」といったゴール設定をするとします。そうしたら、ここから逆算して、「2年目にはドラフトの作成を任せて、経営者がチェックしフィードバックする」といった目標設定ができるでしょうし、さらに「1年目では経営者が作成するのを見ながら補助を行う」といった目標設定もできるでしょう。このように、大きな役割を任せていく場合は、その業務を分解して、どの部分を任せるのか、時期ごとのステップを設定していきます。

How:どのように任せるか?

大まかなステップが決まったら、任される相手のスキルアップを促すためのサポート策を考えます。最終的なサポート策は、のちほど説明するように、相手との面談の中で決めていくべきです。ここでは、どのようなサポートができるのかという、アイディア出しまででよいです。

任される相手になったつもりで、どんな課題があるかを想像してみてください。このとき、以下の4つの切り口から考えてみると、より相手の立場で考えやすくなります。たとえば露地野菜の予算作成なら、任される相手は以下のような不安を感じるかもしれません。

  • 権限:自分が作業時間の目標などを決めることについて、自分より年上のメンバーは納得してくれるだろうか?
  • 情報:予算をつくろうにも、これまで予算を見たことがないし、何にどのくらいのコストがかかっているかも分からない。
  • 技能:予算づくりのしかたなんて、勉強したことがない。
  • 資源:誰かがサポートしてくれるのだろうか?

「任せたのにやってくれない」と感じるとき、相手にとって、この4つのいずれかが欠けているものです。任せるうえで何が欠けているのかを相手との対話の中で明らかにし、それを適切に補っていくことが、権限移譲の肝です。

一人ひとりの成長計画を立てる

誰に何を任せるかが決まってきたら、一人ひとりの成長計画を立てます。

「職務記述書」あるいは「ジョブディスクリプション」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。いわゆる「ジョブ型雇用」というものが一時期日本でも取りざたされましたが、そのときに広まった言葉です。これは、部長とか課長とか○○担当といった役職・職務が、具体的にどのような業務を担うのかを明確にしたものです。

一人ひとりの成長計画は、これに似ています。一人ひとりについて、どのような業務を担っていってほしいのかを一覧としてまとめ、さらに、そのために必要な能力をどのように習得していくのかをリストにします。当社では、「権限責任・能力プランニング」と呼んでいます。以下のようなものです。

役割権限・責任マップにて、田中さんという従業員に任せていきたい業務が、「育苗」「移植」「水管理」……などと決まったとします。そうしたら、それらの業務を田中さんの権限責任・能力プランニングシートに書き写します。

つづいて、先ほど「When」のところで検討した、その業務についての権限・責任をどのように担っていくのかを書きます。たとえば育苗なら、「現状は社長の指示を受けながら作業をしているけれど、2年後に責任者になってほしいから、来年は自分一人で考えて実行してもらう機会をつくろう」といった感じでステップを考えていきます。

この道筋が描けたら、次に能力のことを考えます。その権限・責任を担うにはどのような知識や技術を習得しなければならないかを、相手の現在の能力を加味したうえで考えます。「田中さんは育苗の水管理のことは分かっているはずだけれど温度管理や病気の判断はできないのではないか」と思ったら、温度管理と病気の判断だけ書いておく、といった感じです。実際に何が分かっていて何が分かっていないのか、本人の話を聴かないと正確な判断はできないので、まずは仮説としてパッと思いつくものだけ書いておけば大丈夫です。

最後に、それらの知識や技術を習得していくためのサポートを考えます。まず、その業務について誰から学ぶのかという相談相手は決めておくべきです。能力開発は、成長する本人だけの問題ではなく、育成をする上司や会社も責任を負うべきことです。本人任せにするのではなく、組織として育成をしていくために、育成の担当者を決めておきましょう。

それから、何を参考に学べばよいのかも明記しておきます。自社の業務マニュアル、教科書・参考書、ウェブサイトなど、分からないことを調べられる情報源があるのとないのとでは、学習効率が大きく異なります。とくに難しい業務ほど、現場での経験だけではスキルの習得には不十分です。

幸い、いまでは生成AIを使って独自の業務マニュアルを簡単につくれるようになりました。まずは一般的な教科書などでもよいと思いますが、ぜひ、自社ならではのノウハウをまとめて、学べるようにしてみてください。

面談で成長計画を完成・実践する

ここまでで、一人ひとりの成長計画が、権限責任・能力プランニングという形でおおよそできあがりました。あとはこれを完成させ、さらに、実際に一人ひとりの成長を後押しするために、面談を行います。

面談というと、人事評価をする場を思い浮かべるかもしれません。たしかに、一般的に面談というと、そのような場だというイメージが強いです。しかし、ここでいう面談は、人材育成のためのものです。面談の結果給与や役職が決まると思うとなかなか緊張するものですし、できること・できないことを正直に言いにくくなるものです。面談はあくまでスキルアップのためだけのものだと位置づけてください。

面談では、権限責任・能力プランニングシートを一緒に見ながら、相手に以下のことを確認していきます。

  • 今後担っていってほしい業務について、希望と一致しているか?
  • 他に挑戦したい業務はあるか?
  • 自分が担うのが適切ではないと思う業務はあるか?
  • 権限移譲のステップに違和感はあるか?
  • それらの業務を担ううえで自分に足りていないと思う知識やスキルは何か?

この対話によって、権限責任・能力プランニングを完成させます。

ただし、面談が思った通りに進むとは限りません。喜んで取り組んでくれると思っていた業務が実は本人の希望と違っていたり、あなたの目から見たらとても合格点はあげられないと思っていたスキルを本人は完全に習得していると思っていたり、といった認識の違いはよくあることです。そうした認識の齟齬があったときにどう対処するかは、組織づくりを進めるうえでたいへん悩ましいことです。

一般的な答えはありませんが、原則としては、少なくとも言葉のうえでは共通認識に至るまで、具体的に話をするべきです。やりたいこと(担いたい権限・責任)についてはのちほどコーチングについて述べるところで扱うので、ここでは能力についての認識の不一致について、少しだけ説明します。

ある業務をする能力をもっているかどうかについての意見が食い違うのは、「できる」という言葉で思い描くものが人によって異なるからです。たとえば、防除作業について、従業員は自分ができると思っているけれども、経営者は従業員にはまだできていないと思っているとします。このとき、おそらく二人の間で「できる」ということの理解が違っています。たとえば、従業員は、病気が発生したときに適切な農薬を選んで散布できることが防除ができるということだと思っているかもしれませんが、経営者は、病気が発生しないように先回りして管理することが防除だと思っているかもしれません。このようにそもそも「できる」という言葉から連想するゴール像が違うのであれば、実りのある対話はできません。認識が違うと思ったら、一つひとつの言葉の意味を丁寧にすり合わせをしていってください。

権限責任・能力プランニングが完成したら、それを今後の面談の基礎資料としても活用します。面談のたびにシートを見て、一つひとつの業務についてスキルアップの進み具合を確認していくのです。

面談はスキルアップのためのものなので、こまめに実施することが大事です。月に1回くらいを目安にするとよいです。そんなに時間を確保するのは難しいと思われるかもしれませんが、人事考課をするわけではないので、30分くらいでも十分のはずです。毎月30分のフィードバックでも、スキルアップを後押ししやすくなります。まずは気軽に始めてみてください。

面談のためにはもっと細かい毎月の計画や記録といった手段も用意したほうがよいかもしれませんが、そうした資料を用意することで面談のハードルが上がってしまうのは避けるべきです。まずは権限責任・能力プランニングという目標だけ用意しておき、面談に慣れてきたら細かい計画や記録をつくるようにしていくとよいです。

計画・記録もあまり手の込んだものにはしないほうがよいです。権限責任・能力プランニングという道しるべがあれば、以下の項目を順番に話し合い、メモを取るだけでも十分に効果のある面談になります。

  • 前回決めたことの進捗
  • うまくいったこと
  • うまくいかなかったことと改善策
  • 次回までに取り組みたいこと

みんなが高めたいコミュニケーションスキル

面談で相手の意欲を高めたり行動を引き出したりするためには、コミュニケーションのスキルが重要です。伝える内容は同じでも、コミュニケーションのとりかたによって、行動に結びつくこともあれば、かえって行動を妨げてしまうこともあります。コミュニケーションは誰にとっても重要なスキルですが、経営者やマネージャーにはとりわけです。

ここではコミュニケーションのスキルとして、一対一で力を発揮するコーチングと、会議などの複数名での場で有益なファシリテーションについてお伝えします。一朝一夕に向上することは難しいかもしれませんが、日々の活動の中で少しずつ意識してみてください。

意欲を引き出すコーチング

コーチングとは、質問や対話を通じて、相手が自分で考え、行動できるように支援する方法です。

スポーツのコーチは具体的な方法を伝えるのが仕事でしょうが、ビジネスの世界で言うコーチの仕事は答えを教えることではありません。相手が自分の力で答えを見つけられるようにするためのサポートをするのが、コーチの仕事です。

農業に限らず、仕事の現場では、経営者がすぐ答えを言いたくなる場面が多いものです。自分で考えさせるよりも、教えたほうが速い。間違えられると困るので、指示したほうが安心。これは確かにそうでしょう。

しかし、いつも答えを教えていると、スタッフは判断する練習ができません。判断する練習ができなければ、いつまでも経営者に確認し続けることになります。結果として、経営者は忙しいままです。

そこで、相手の成長を促す手段としてのコーチングの出番です。

コーチングにはいろいろな技術がありますが、まずは汎用性が高い基本的な質問を使うことから始めるとよいと思います。たとえば次のようなものです。

  • 目的を問う:それは何のためですか?
  • 課題を問う:どういう条件が整えば実現できると思いますか?
  • 問題を問う:その実現が難しいのはなぜですか?
  • 手段を問う:どうやったら壁を超えられると思いますか? どんな手段があると思いますか?
  • 判断を問う:どの手段がよいと思いますか?
  • 行動を問う:まず何からはじめますか?

これらの問いは、ページ6の問題解決ともつながっています。現場で問題が起きたとき、「誰が悪いか」を探すのではなく、「何が起きたか」「なぜ起きたか」「次にどうするか」を考えられる人が増えるほど、生産性改善は組織の力になります。

面談で使うなら、次のような流れが実用的です。

  1. 事実を確認する
  2. 本人の見立てを訊く
  3. 選択肢を出してもらう
  4. 判断理由を確認する
  5. 次の行動を一つ決める

たとえば、出荷前チェックでラベル間違いが起きたとします。このとき、すぐに「気をつけて」と言って終わらせると、改善になりません。

  • 目的:ラベルの間違いを減らすとどんなメリットがありますか?
  • 課題:間違いが起こる典型的な原因はなんですか?
  • 問題:その原因を取り除くのは難しいですか?
  • 手段:原因を取り除く具体的な手段はありますか?
  • 判断:どの手段がよいと思いますか?
  • 行動:何からはじめますか?

このように進めると、本人は「怒られた」ではなく、「問題を解いた」という経験を得やすくなります。小さな問題解決の経験が積み上がると、判断できる範囲が広がります。

コーチング質問フロー

コーチングのテクニックにはいろいろなものがありますが、まずは「傾聴」「承認」「Iメッセージ」といった基本的なものから学び、実践していくとよいでしょう。

参加を促すファシリテーション

ファシリテーションとは、会議や話し合いで、参加者の意見を引き出し、整理し、次の行動につなげる技術です。

会議を開いても、経営者だけが話し、スタッフは黙って聞いている、ということがよくあります。一方通行ならばメッセージなどで済ませればいいので、会議をする意味はありません。参加者が発言し合うからこそ会議の意味があり、発言し合う必要がなければ会議も不要です。

スタッフにも発言してほしいと思っているのに発言が出ないようであれば、会議のやりかたを変えなければなりません。そのときに有益なツールがファシリテーションなのです。ファシリテーションは具体的なやりかたではなく、話し合いを有意義にするためのいろいろなツールの総称です。目的に応じて適切な手段を選べるよう、手段のレパートリーをもっておくことが大事です。

当社が経営支援の中でよく使うファシリテーションのツールのうち、簡単なのに効果が出る手法を一つ紹介します。「ブレインライティング」という手法です。

やりかたは人数やテーマによって調整するとよいですが、代表的なのが「6・3・5法」と呼ばれる方法です。6人の参加者が、一度に3つの案を5分程度で書くことから、この名前がついています。縦6行、横3列の合計18マスに区切ったシートを使います。

ブレインライティング

まず、参加者一人につき1枚のシートを配り、シートの上部に会議のテーマを書きます。シートはA4サイズで十分です。

準備ができたら、最初の5分間で、各自が一番上の3つのマスに一つずつ、テーマに関する意見やアイディアを書きます。

たとえば、「作業中のミスを減らすにはどうすればよいか」というテーマであれば、「作業手順を写真で掲示する」「道具の置き場所を決める」「作業終了時に確認表を使う」といった案を書きます。

最初の5分間のセッションが終わったら、シートを隣の人に渡します。円を描くように座って時計回りに紙を回していくとスムーズです。2回目のセッションでも同様に意見・アイディアを3つ書くのですが、シートにはすでに前の人が意見を書いているので、その意見を読み、できるだけその意見を発展させたり具体的にしたりするように意見を出します。意見は、その下の空いている3つのマスに新しい案を書きます。

たとえば、「作業手順を写真で掲示する」という意見を見て、「動画でも確認できるようにする」「外国人スタッフ向けに多言語化する」「作業場所ごとに手順書を置く」といった案を着想したら、それを空欄に書くわけです。

このように、他の人が書いた意見・アイディアを参考にしつつ発想し、記入することを、シートが一巡するまで続けます。6人で行えば、シートが一周した時点で、1枚のシートの18マスが埋まります。シートは6枚あるため、重複を含みますが、108個の意見を集めることができます。

ブレインライティングのよいところは、声の大きい人や立場の強い人に議論が左右されにくいことです。

経営者や上司が最初に意見を述べると、スタッフは無意識のうちにその意見に合わせようとします。また、人前ですぐに考えをまとめるのが苦手な人は、意見をもっていても発言できないことがあります。ブレインライティングでは、全員に同じ数のマスと考える時間が与えられます。そのため、普段の会議では発言の少ない人からも意見を集めやすくなります。

面白い考えをもっていても、発言をするのが苦手だから黙っているという人もいます。こういう人も、紙に書くことなら心理的ハードルが低く、意見を出しやすいものです。

また、ほかの人の意見を見ながら考えるため、発想を広げやすいことも特徴です。何もないところから一人で案を考えるよりも、すでに書かれた意見を手がかりにしたほうが、新しい案や具体的な改善策を思いつきやすくなります。さらに、最終的にまとめられた意見は参加者の考えが部分的にでも反映されたものになりやすいので、多くの参加者が「意見形成に参加した」という感覚をもちやすく、合意・納得に至りやすいのもメリットです。

実施するときには、極力発言しないことが大切です。書いてある意見を見て「それは難しい」とか「以前やったが失敗した」といった発言をしてしまったら、意見を自由に出しにくくなってしまいます。まずは案を増やすことに集中し、評価や絞り込みは後で行います。

すべての記入が終わったら、書かれた意見を全員で確認し、整理します。これにはKJ法(新QC七つ道具で言うところの親和図法)という優れたやりかたがあります。近い意見を集めてグループにし、見出しをつける方法です。

ファシリテーションにはさまざまな手法が開発されていて、役に立つだけでなく、実施して楽しいものです。組織の雰囲気を高めるためにも、少しずつ試してみるとよいです。

組織づくりは、一度制度をつくって終わるものではありません。これまでできなかったことができるようになるために、改善の努力を楽しみながらつづけることが必要です。組織づくりのために考えるべきことは無数にありますが、このページでは、当社が基本と考え、農家・農業法人の支援の中でよく取り組んでいる内容を紹介しました。

まず、組織として何を大事にするのか、共通認識をもつ。それから、組織の仕事をリストアップして、今後誰が何を担っていくべきなのかを決める。それを実現するために、一人ひとりの成長の計画を立て、面談にてサポートする。これらすべての土台として、コーチングやファシリテーションといったコミュニケーションの改善を行う。このステップを基本として、ぜひ自社に応用してみてください。

次のページでは、組織が動くために必要な情報の整えかたを扱います。栽培や販売だけでなく、会計、書類、予定、タスク、AI、デジタルツールをどう使うか。バックオフィス業務は無味乾燥なものと思われがちですが、情報の扱いかたが高度になるにともなって、組織としての分析や判断の質は高まります。ぜひ、組織づくりと並行して、バックオフィス業務の改善による情報化にも取り組んでみてください。


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