お金に限らず、経営のあらゆる価値を管理するのが財務管理
「経営」と聞くと「お金」を連想する人は多いようです。セミナーで質問してみると、経営者でも、結構な割合のかたが経営と聞いてまずお金を連想するようです。
お金は経営の重要な一部です。しかし、全部ではありません。
お金はふたつの意味で重要だと思います。
第一に、お金がなければ経営を持続することはできません。農業をするには何かしらの設備投資をし、材料を仕入れ、雇用している人がいれば給料を払い、さらに経営者自身も生活するのに必要な収入を得なければなりません。経営の持続性を確保するには、どのくらいのコストをかけ、どのくらいの売上を生み、利益をどのように運用するかを適切に判断することが大事です。この意味で、お金は重要です。
第二に、少し抽象的な話になるのですが、お金は価値の「ものさし」です。お金というものを通して、経営が世の中にどのくらい貢献しているのかをある程度客観的に評価できます。
世の中にはいろいろな価値があります。たくさんの収入を得られるのも価値ですが、顧客に喜んでもらうとか、家族と時間をともにするとか、人によってさまざまなものごとに価値を感じます。
より具体的なレベルでは、経営に使う資源一つひとつにも価値があります。種苗にはやがて商品になるという価値がありますし、機械には人間の労働を楽にするという価値があります。人間の労働には、種を蒔き、肥料を撒き、作物を収穫し、販売するといった、生産販売を実現するという価値があります。
種や肥料や機械や労働力は、バラバラに存在していてはとくに価値を増すことはありませんが、農業者がこれらを一か所に集め、適切に運用したなら、プラスアルファの価値、いわゆる付加価値をもった商品となります。農業者は最初からこれらの経営資源をもっているわけではないので、誰かそれらの資源をもっている人と価値の交換を行い、入手します。要は、ふつうはお金を払って資源を買います。また、商品を売ったときには、ふつうはお金を対価としてもらいます。お金が交換のための価値の「ものさし」であるとは、こういうことです。
このように、お金が価値のものさしであれば、お金を集められる経営はたくさんの人に価値を評価されていることになるはずです。
前のページまでで、経営をどのように改善するのか、策を考えてきました。このページでは、お金のことを考えます。経営をお金の観点から評価することは、経営がどのくらい社会に価値を感じてもらっているのかを評価することです。経営をお金の観点から改善することは、経営がより大きな価値を世の中に提供できるようにしていくことです。
財務管理のおすすめステップ
さて、お金のことに取り組もうと思っても、何をどうすればいいのか、最初はよく分からないものです。
財務管理は、難しくしようと思えばいくらでも難しくできます。細かな費目分類をつくったり、エクセルやシステムで複雑な表をつくったり、いくつもの指標を計測したり、数理モデルをつくって予測をしたりと、高度化しようと思えば専門的な知識が求められます。
しかし、このサイトでまず目指すのは、実際に使える財務管理です。経営者が日々の判断に使える財務管理を行うために、以下の順番で取り組むことをお勧めします。
| 順番 | つくるもの | 見るもの | 主な目的 |
|---|---|---|---|
| 1 | 損益モデル | 変動費・限界利益・固定費・利益 | どのような条件を実現できれば経営が成り立つのかを確かめる |
| 2 | 損益計画 | 売上と利益の推移 | 目標とする損益モデルを実現するまでの道筋を描く |
| 3 | 収支計画 | 年ごとの現金預金残高の推移 | 投資や借入の見通しを立てる |
| 4 | 資金繰り計画 | 月ごとの現金預金残高の推移 | 事業を運営するための現金を確保する |
損益モデルで目標と現状を分析する
まずは損益モデルを作成しますが、これについてはページ1とページ3で説明しているので、まだお読みでない場合は、まずそちらをご覧ください。
損益モデルがしっかりできていて、現状どの程度の利益が出ているか、目標としてはどのくらいの規模・売上・利益がよいかといったことが見えているのであれば、すぐにでも次の損益計画のステップに入れます。
ただし、損益モデルは十分だというかたも、念のため、少しだけそのモデルが計画をつくったり進捗と比べたりするために適切かどうか、確認してみてください。
まず、損益モデルは、計画とするにはかえって細かすぎることがよくあります。もちろん、見通しを正確にするうえでは細かいほうがいいのですが、農業の場合は年によって収穫量が大きく変動する可能性がありますし、市場出荷等の場合は単価も変わります。あまり細かくしていてもいずれにせよ差異は発生するので、計画を立てることと同等以上に、実情に合わせて計画を修正していくことが大切です。このとき、細かすぎないほうが計画の修正が簡単かもしれません。
たとえば、肥料費を品目別、圃場別、作期別に分け、作業時間も人別・作業別に集計し、販路別の利益も出そうとする。たしかにこれは理想の状態です。しかし、入力が大変すぎてつづかないなら意味がありません。つづけるためには、1回だけ精密な表をつくるより、毎月見られる簡単な表のほうが役立ちます。
どのくらい細かく分解するかは、経営の課題によって変わります。たとえば、大規模化・機械化により原価を抑えて生産し、市場出荷にて流通させるモデルなら、販路ごとの利益分析は不要でしょう。しかし、市場出荷と小売店への販売の両方をしているのなら、それぞれどのくらい利益に貢献しているのか知りたいところです。
このように、管理会計の適切な方法は経営の内容によって変わります。自身の経営にとってどのような切り口で分析・比較したらよりよい判断を実現できそうかを想像しながら、分けかたを決めてください。
以下、基本的な切り口を紹介します。
- 商品の切り口:品目別/品種別/商品別
- 生産の切り口:地区別/圃場別/作型・管理方法別
- 販路の切り口:販路種類別/顧客別
損益モデルは「顧客別」×「商品別」といった細かいレベルで作成したかもしれませんが、その組み合わせが仮に50種類あるとしたら、50個の計画を作成し、それを合算して全体を求める、という取り組みをするのは現実的ではありません。たとえば、「A社」「B社」「C社」と顧客ごとにしていた損益モデルを「仲卸」「小売」といったかたちでまとめたり、あるいは「100g袋20袋入り」「100g袋40袋入り」「200g袋20袋入り」「10kg箱入りバラ」「20kg箱入りバラ」といった商品規格ごとの損益モデルを「袋入り」「バラ」といったかたちでまとめたりするような感じです。
こうして、事業全体で多くとも10種類を目安に分類を見直すと、損益計画等が作成しやすく、また、実績との比較がしやすくなります。
計画づくりは順番が肝心
さて、損益モデルについて復習し、どのくらいの細かさで計画を立てるかを決めたら、いよいよ計画作成に進みます。先述したように、財務計画は、損益計画、収支計画、資金繰り計画の順でつくるのがお勧めです。
| 計画 | 時間軸 | 見る対象 | 主な問い |
|---|---|---|---|
| 損益計画 | 年次・中長期 | 売上、費用、利益 | 目標利益に届くか |
| 収支計画 | 年次・中長期 | 現金の増減 | 投資や借入をしても現金が残るか |
| 資金繰り計画 | 月次 | 入金、出金、月末残高 | 支払いに困る月がないか |
損益計画は、「この経営は利益を生む構造になっているか」を見るものです。収支計画は、「その利益や投資や借入を含めて、現金が増えるのか減るのか」を見るものです。資金繰り計画は、「年単位では問題がなくても、特定の月に支払いに困らないか」を見るものです。
ここで、「損益」と「収支」の違いを説明しておきます。慣れるのに少し時間がかかるところですが、経営をするうえで非常に大事なことです。ゆっくりでよいので、理解を進めてください。

まず、「損益」は「収益」と「費用」を計算するもので、企業がもつ「純資産」の増減を捉えるものです(純資産は出資や配当によっても増減しますが、ここでは話を簡単にするため出資等は考えないことにします)。これに対し、「収支」は「収入」と「支出」を計算するもので、資産の一部である「現金・預金」を捉えるものです。
例を挙げながら説明します。種子・肥料・農薬などの材料を20万円分資材店で購入し、その場で現金で支払ったとします。
おそらく「収支」のほうが理解しやすいものだと思いますが、収支というのは、お金(現金・預金)がいくら経営から出ていったか/入ってきたか、を示すものです。この例の場合、資材店に20万円を支払っている(「支出」が発生している)ので、20万円の支出となります。現金・預金は20万円減っています。
これを「損益」の観点から見てみます。材料20万円分の購入で、何かしら「収益」や「費用」が発生しているでしょうか? 「費用」が発生していると思われるかもしれませんが、そうではありません。「費用」というのは、企業の純資産を減らすようなことに対して発生するものです。材料の購入で起こっているのは、20万円の現金と、20万円分の材料を交換する、ということです。同じ価値を交換しているだけなので、純資産は増えも減りもしていません。費用は発生していないのです。
つづいて、種を畑に蒔いたり、肥料・農薬を散布したりといったかたちで、この20万円分の材料を消費したとします。このとき、収支と損益は、それぞれどうなるでしょうか。
まず、収支は何も変わりません。収支はあくまで現金・預金の出入りを捉えるものです。購入済みの材料を使うとき、現金・預金は増えも減りもしません。
一方で、損益は変化します。一度使った材料は、ふつうはもうもとに戻りません。だから、20万円分の資産が減ったことになります。そこで、20万円分の費用が発生したと考えます(より正確には材料が農産物という別の資産に変わるわけですが、ここでは話を簡単にするため省略します)。
いまは「費用」と「支出」のタイミングの違いを見ましたが、損益と収支の違いは「収益」と「収入」の違いとしても現れます。仮に、先ほどの20万円分の材料や、その他の費用をかけて生産した農産物を、100万円で9月に販売し、その代金は10月末に支払われるとします。
この場合、売上高という「収益」は9月に発生しますが、入金という「収入」は10月です。
損益と収支の違いに関して、最後に「減価償却費」を取り上げておきます。
仮に、700万円の新品のトラクターを購入したとします。損益(費用)と収支(支出)がどのようになるか、考えながらお読みください。
まず、購入した時点では、費用は発生しません。先ほどの材料費と同じ理屈で、ただ700万円という現金・預金と700万円の価値のあるトラクターを交換しただけなので、資産は減っていないからです。一方で、700万円という現金・預金は企業から出ていくので、支出としては700万円となります。
さて、トラクターにはその後も費用が発生しないかというと、そうではありません。トラクターの資産価値は、時間とともに、またトラクターを使用するのとともに、減っていくからです。700万円で買ったトラクターを数年後に下取りに出したとして、700万円の値がつくことはふつうはありません。その差額の分だけ、資産が減ることになります。
さて、トラクターの価値がすり減った分だけ費用が生じるわけですが、それはどのくらいの金額になるでしょうか?
査定してその時点での実際の価値(時価)を求めればどれだけ価値が下がったか分かります。が、決算のたびにすべての資産の査定をするのは現実的ではありません。そこで、「こういう種類の資産なら、このくらいの期間にわたって使用できるだろう」といった期間を法律で定めて、その期間に徐々に資産価値を減らしていき、減った分だけその年の費用とすることになっています。これが減価償却費です。また、この期間を法定耐用年数といいます。
トラクターの法定耐用年数は7年なので、ふつうは、トラクターの購入代金700万円分の価値を、7年にわたって費用にしていくことになります。定額法という方法では700万円を7で割って、毎年100万円分ずつ価値を減らしていきます。定率法の場合は、1年目は約200万円、2年目は約143万円といったように、最初のころのほうがより資産価値が大きく下がるように計算します。
このように、「損益」は「純資産」の増減、「収支」は「現金・預金」の増減、と捉えてください。すると、損益計画と収支計画それぞれの意味がよりはっきりと分かります。
損益計画は、今後数年間について、各年いくらくらいの利益を生むのかを計画するものです。これは資産(純資産)の観点を捉えるものなので、経営全体の評価をするには損益計画のほうがふさわしいです。
しかし、経営・事業の全体として利益を残し資産を増やしていける見通しが立ったとしても、もしその道の途中で現金・預金が底をついてしまったら、経営は続けられません。「黒字倒産」という言葉があるように、利益が出ていても、現金・預金がなくなれば会社は倒産します。そうならないように、資産全体を管理するのと同時に、現金・預金の推移を見通しておき、現金・預金が底をつきそうなら金融機関からの借り入れなどの資金調達を行わなければなりません。
そこで、まず損益計画という形で、中長期の年次の計画を立てます。つづいて、その計画の中で現金・預金がどのように推移するかを確認するための収支計画をつくります。
ここからさらに、資金繰り計画を作成します。資金繰り計画も収支(現金・預金の出入り)を捉えるものですが、収支計画が1年単位の大きなものであるのに対し、資金繰り計画は月次で半年から1年分くらいの現金・預金を捉えます。
一年単位では現金が増えていても、月によっては預金残高がマイナスになることはありえます。農業は収入が一時期にまとまって入ってくることが多いので、とくにその直前の時期は現金・預金が少なくなりがちで、注意が必要です。この見通しを立てて、必要があれば借り入れなどの運転資金の調達ができるように準備をするのが資金繰り計画の役割です。
なお、「月次の損益の計画は不要なのか」という鋭い疑問をおもちのかたもいらっしゃるかと思います。これは一般的には「予算」と言われるものです。予算も、とくに年度の初めには、ぜひ作成してもらいたいものです。
しかし、毎月収支も損益も管理するのは負担が大きい場合が多いので、まずどちらか一方からはじめるとしたら、収支の管理=資金繰り管理のほうをお勧めします。現金・預金が足りなくなるのは経営上致命的な問題になるからです。そして余裕があれば予算の管理まで、といったステップで取り組んでみてください。
損益計画を立てる
それでは、損益計画の作成に入りましょう。
ページ2で所得・利益の目標を決めました。ページ3で損益モデルをつくりました。ページ4で方針を決めました。ページ5からページ8で、顧客開拓、生産性改善、組織開発、バックオフィス業務改善の計画を立てました。損益計画作成は、これらを数字でつなぐ作業です。
理想とする損益モデルをいつ実現するか?
最初に決めるのは、理想とする損益モデルをいつ実現するかです。
以下では、現状を示す年度を基準年度とし、その翌年度を1年目とします。たとえば、現在の税引前利益が0円で、損益モデルの目標は3年目に実現するとし、そのときの目標とする税引前利益が300万円だとします。そうしたら、まずは基準年度と3年目の2列分だけ、数字を入れます。実際には売上も変動費・固定費も内訳の数字があるでしょうが、ここでは概要さえつかんでもらえればよいので、簡略化した表を示します。以下は法人の例で、法人税等を税引前利益の30%と仮定します。表を分かりやすくするため、法人税等は万円未満を四捨五入します。税引前利益から法人税等を差し引いたものが、税引後利益です。
| 項目 | 基準年度 | 1年目 | 2年目 | 3年目 |
|---|---|---|---|---|
| 売上 | 1,500万円 | 2,200万円 | ||
| 変動費 | 900万円 | 1,210万円 | ||
| 限界利益 | 600万円 | 990万円 | ||
| 限界利益率 | 40% | 45% | ||
| 固定費 | 600万円 | 690万円 | ||
| 税引前利益 | 0万円 | 300万円 | ||
| 法人税等 | 0万円 | 90万円 | ||
| 税引後利益 | 0万円 | 210万円 |
この例では、売上を700万円増やし、限界利益率も40%から45%へ改善し、固定費は90万円増える計画です。3年目の税引前利益は300万円ですが、法人税等90万円を差し引くと、税引後利益は210万円になります。
今回は目標年を3年目としていますが、これはご自身の事情に応じて適宜調整してください。果樹のように生産を開始しても売上が立つまで何年もかかるものであれば10年くらいの計画がよいかもしれませんが、赤字だからできるだけ早く改善したいということであれば翌年か翌々年には黒字化するような計画にしたほうがよいでしょう。
なお、長期的な計画、たとえば5年間の計画を立てたとして、5年間その計画に従って行動するというわけではありません。5年間の計画を立てても、1年経てば状況が変わっている可能性は大いにありますし、1年目の実績によっては大きな方向転換などする必要があるかもしれません。毎年見直すという前提で、目標年を設定してください。
目標には一気に近づく
現状と目標を設定したら、その間の数字を埋めていきます。
このとき、毎年同じくらいの金額もしくは割合で成長していくような計画を立てるかたが多いと思います。基準年度の売上高が1,500万円で、3年目の目標が2,200万円なら、3年で700万円増えているので、たとえば1年目に1,700万円、2年目に1,950万円、3年目に2,200万円、といった具合にです。
これが絶対によくないというわけではないのですが、もしあなたの計画が何かしらの投資、たとえば設備投資や人の雇用といった投資を伴う計画であれば、考え直したほうがいいかもしれません。農業に限らず、「経営資源はフル活用する」のが事業の効率を高めるための鉄則です。たとえば、機械や人材は10ha分の作付けができるほどあるのに、実際に作付けしているのが7ha分だけだとしたら、3ha分は経営資源を活用できていないことになります。これはもったいないことです。
もちろん、農地がすぐに集まるとは限りませんし、販路を必ず獲得できるとも限りません。それでも、何かしらの投資を行うなら、その投資によって可能になる経営規模には、極力早く到達するべきです。
よく、思い切った設備投資をした事業者が、「せっかく設備投資をしたのにすぐにキャパシティの限界まで達してしまったから、また次の設備投資を考えなくてはいけない」と言うのを耳にします。こういう発言を聞くと「先読みができていなかったのだな」と思うかたがいるかもしれませんが、そうではありません。設備投資をしたらそのキャパシティまでは経営規模をできるだけ早く拡大するべきなので、すぐに限界に達し利益も残せているなら、正しい判断と取り組みをしてきたということです。もちろん、設備のトラブルなどに備えて多少の余裕をもっておくことは大事です。しかし、キャパシティの2割も3割も活用していないような場合は、本当にその余裕は必要なのかと疑ってみてください。
なお、現状が慢性的に赤字のようであれば、現状として投資に見合った経営規模を確保できていないか、もしくは、投資先が偏っていて大きなボトルネックが存在している可能性が高いです。後者は、たとえば、人材もトラクターも田植え機も乾燥機も50haを作付けできるほどの投資をしているのに、コンバインは20ha分くらいの能力のものしかない、といった感じです。この場合は、コンバインのリースとか作業委託とかをしない限り、経営規模は20haまでしか増やせません。こうした投資のアンバランスさがないか、生産・販売の各工程のキャパシティを大まかに見積もって、評価してみてください。
この意味で、もしかしたら、最初に「○年目」と設定した目標達成の年度を前倒ししたほうがよいかもしれません。一度目標年までの計画を描いたら、あらためて、投資が無駄になっていないかを検証してみてください。
収支計画を立てる
損益計画で利益の見通しをつくったら、次に収支計画を立てます。
仮に、損益計画が以下のようになっているとします。
| 項目 | 基準年度 | 1年目 | 2年目 | 3年目 |
|---|---|---|---|---|
| 売上 | 1,500万円 | 1,900万円 | 2,100万円 | 2,200万円 |
| 変動費 | 900万円 | 1,045万円 | 1,155万円 | 1,210万円 |
| 限界利益 | 600万円 | 855万円 | 945万円 | 990万円 |
| 限界利益率 | 40% | 45% | 45% | 45% |
| 固定費 | 600万円 | 690万円 | 690万円 | 690万円 |
| 税引前利益 | 0万円 | 165万円 | 255万円 | 300万円 |
| 法人税等 | 0万円 | 50万円 | 77万円 | 90万円 |
| 税引後利益 | 0万円 | 115万円 | 178万円 | 210万円 |
近いうちに投資をして固定費が膨らむ代わりに限界利益率が改善し、1年目でできるだけ経営規模を拡大して、その後、設備・人員のキャパシティに3年目までに到達する、といった感じです。なお、「法人税等」は、仮に税引前利益の30%程度の額を入れています。
これをもとに、収支計画を作成します。収支計画は、上述したように、現金・預金の出入りの計画です。損益(利益および損失)は事業活動による純資産の増減を示すものなので、収支とは一致しません。しかし、一致しないけれども近いものではあります。たいていの収益には収入が伴いますし、たいていの費用には支出が伴います。そこで、正確な収支ではないのですが、損益計画を簡易的な収支計画に変身させてみます。
そこで、損益計画に少し操作を加えます。
まず、損益計画に以下のように行を足します。
| 項目 | 基準年度 | 1年目 | 2年目 | 3年目 |
|---|---|---|---|---|
| 売上 | 1,500万円 | 1,900万円 | 2,100万円 | 2,200万円 |
| 変動費 | 900万円 | 1,045万円 | 1,155万円 | 1,210万円 |
| 限界利益 | 600万円 | 855万円 | 945万円 | 990万円 |
| 限界利益率 | 40% | 45% | 45% | 45% |
| 固定費 | 600万円 | 690万円 | 690万円 | 690万円 |
| うち減価償却費 | 200万円 | 290万円 | 290万円 | 290万円 |
| 税引前利益 | 0万円 | 165万円 | 255万円 | 300万円 |
| 法人税等 | 0万円 | 50万円 | 77万円 | 90万円 |
| 税引後利益 | 0万円 | 115万円 | 178万円 | 210万円 |
| 営業CF | ||||
| 投資CF | ||||
| うち資産売却 | ||||
| うち資産購入 | ||||
| 財務CF | ||||
| うち新規借入 | ||||
| うち返済 | ||||
| CF合計 | ||||
| 期首現預金残高 | ||||
| 期末現預金残高 |
ここで、CFというのはキャッシュフローのことで、収支=現金・預金の出入りと同じものと思ってもらってよいのですが、現金・預金の出入りを3種類に分けて営業CF、投資CF、財務CFと呼ぶことが多いので、ここでもキャッシュフローという言葉を使います。
キャッシュフローは、大きく3種類に分けます。
| 種類 | 内容 | 農業での例 |
|---|---|---|
| 営業キャッシュフロー | 本業から生まれる現金の増減 | 農産物売上高の入金、材料費・人件費など各種コストの支払い |
| 投資キャッシュフロー | 設備や資産への投資による現金の増減 | 農機や設備の代金の支払い、設備の売却による入金 |
| 財務キャッシュフロー | 借入や返済による現金の増減 | 新規借入、元金返済 |
損益計画を収支計画に変身させるときには、上記の営業CF、投資CF、財務CFの順番で考えます。
営業キャッシュフローを計算する
営業キャッシュフローは、厳密に計算しようとするとちょっと大変なのですが、簡易的には以下の式で計算します。
営業CF = 税引後純利益 + 減価償却費
営業キャッシュフローとは、事業活動の中でどのくらいお金が増えた/減ったのか、です。税引後純利益は、その年に企業がどれだけ純資産を増やしたかを示す数字です。お金というのは価値のものさしであり、純資産という価値が増えたからには、事業活動はそれと同じ分だけ現金を増やしているはずだ、と近似できます。
もちろん、年度末に売上が立った場合にはその入金が翌年度になるなど、損益と収支のタイミングは一致しません。一定の規模の経営を続けていて年初の入金額と年度末の売上高がだいたい一致するような場合にはこのタイミングのズレが結局相殺されますが、経営規模を拡大している場合などはズレが大きくなります。ご自身の農業にこのような事情が当てはまる場合は、上記の簡易計算では、実態と大きくズレてしまう可能性がありますので、本ページの最後の節で紹介している資金繰り計画と同じ発想で、収益/費用と収入/支出のタイミングを項目ごとに個別に考えてください。
さて、仮にたいていの項目の損益と収支が同じ年度内に収まるとした場合でも、性格上どうしてもこれが当てはまらない費用があります。減価償却費です。
減価償却費は資産が価値をすり減らした分を費用にしたものです。購入のための支出は一度になされる一方で、減価償却は数年にわたるので、損益と収支に大きな隔たりが生まれます。
そこで、キャッシュフローをより考えやすくするために、次の投資キャッシュフローの出番です。設備投資のような減価償却を伴う大きな支出は、投資キャッシュフローの枠組みの中で考えることにして、営業キャッシュフローには含めません。上述の式で簡易的に営業キャッシュフローを求めるときには、利益の計算をするときに引かれている減価償却費の金額を足し戻すことで、現金の出入りが発生していない費用である減価償却費をキャッシュフローから除外しているわけです。
さて、ここまでは法人の場合で考えてきましたが、個人ではもう少しややこしくなります。
個人の損益計算書の最後の項目は「所得」です。これは法人の損益計算書の税引後純利益とは違います。法人の税引後純利益はそのまま純資産の増加分ですが、個人の所得は主に以下の2つの点で純資産の増加分とは異なります。
第一に、税金が引かれていません。損益計算書上の所得に対して税金がかかるので、その分は事業主の手取りから引かれます。また、国民年金・国民健康保険も支払わなければなりません。
第二に、個人には生活費が必要です。法人は、生存(維持)に必要なもろもろのコストが税引後純利益を計算する過程ですでに利益から差し引かれていますが、個人の場合は、生きていくための衣食住などは経費になりません。
これらの点を反映して、個人事業の場合の営業キャッシュフローは以下のように近似してみてください。
個人の営業CF = 控除前所得 - 税・年金・健康保険等の支払い - 生活費の支払い + 減価償却費
法人の例に戻り、先ほどの表で営業キャッシュフローの行まで進めると、以下のようになります。ここでは計算を簡単にするため、法人税等は発生した年度内に同額を支払うものと仮定します。実際の納付時期によるズレは、最後の節で説明する資金繰り計画で確認します。
| 項目 | 基準年度 | 1年目 | 2年目 | 3年目 |
|---|---|---|---|---|
| 売上 | 1,500万円 | 1,900万円 | 2,100万円 | 2,200万円 |
| 変動費 | 900万円 | 1,045万円 | 1,155万円 | 1,210万円 |
| 限界利益 | 600万円 | 855万円 | 945万円 | 990万円 |
| 限界利益率 | 40% | 45% | 45% | 45% |
| 固定費 | 600万円 | 690万円 | 690万円 | 690万円 |
| うち減価償却費 | 200万円 | 290万円 | 290万円 | 290万円 |
| 税引前利益 | 0万円 | 165万円 | 255万円 | 300万円 |
| 法人税等 | 0万円 | 50万円 | 77万円 | 90万円 |
| 税引後利益 | 0万円 | 115万円 | 178万円 | 210万円 |
| 営業CF | 200万円 | 405万円 | 468万円 | 500万円 |
| 投資CF | ||||
| うち資産売却 | ||||
| うち資産購入 | ||||
| 財務CF | ||||
| うち新規借入 | ||||
| うち返済 | ||||
| CF合計 | ||||
| 期首現預金残高 | ||||
| 期末現預金残高 |
投資キャッシュフロー
営業キャッシュフローの次に、投資キャッシュフローを考えます。投資キャッシュフローは、農機や設備のほか、株式など、価値を生み出す源泉になるさまざまな資産が、現金と交換されるときに生じる現金の動きです。
たとえば、700万円の農機を購入したら、700万円の現金が出ていきます。キャッシュフローは現金の増減なので、700万円を支払う場合は、-700万円となります。そのトラクターを数年後に300万円で売却したとします。するとトラクターと引き換えに300万円が入ってくるので、キャッシュフローは+300万円です。
仮に1年目の最初に700万円の投資をして、それ以外の資産の購入や売却は予定していないとしたら、投資キャッシュフローは以下のようになります。なお、この投資に伴って減価償却費が増えるはずなので、損益計画を作成した段階で減価償却費の増額をしていなければ、このタイミングで修正をしてみてください(以下のサンプルではすでに減価償却費の調整はしていたものとします)。
| 項目 | 基準年度 | 1年目 | 2年目 | 3年目 |
|---|---|---|---|---|
| 売上 | 1,500万円 | 1,900万円 | 2,100万円 | 2,200万円 |
| 変動費 | 900万円 | 1,045万円 | 1,155万円 | 1,210万円 |
| 限界利益 | 600万円 | 855万円 | 945万円 | 990万円 |
| 限界利益率 | 40% | 45% | 45% | 45% |
| 固定費 | 600万円 | 690万円 | 690万円 | 690万円 |
| うち減価償却費 | 200万円 | 290万円 | 290万円 | 290万円 |
| 税引前利益 | 0万円 | 165万円 | 255万円 | 300万円 |
| 法人税等 | 0万円 | 50万円 | 77万円 | 90万円 |
| 税引後利益 | 0万円 | 115万円 | 178万円 | 210万円 |
| 営業CF | 200万円 | 405万円 | 468万円 | 500万円 |
| 投資CF | 0万円 | -700万円 | 0万円 | 0万円 |
| うち資産売却 | 0万円 | 0万円 | 0万円 | 0万円 |
| うち資産購入 | 0万円 | -700万円 | 0万円 | 0万円 |
| 財務CF | ||||
| うち新規借入 | ||||
| うち返済 | ||||
| CF合計 | ||||
| 期首現預金残高 | ||||
| 期末現預金残高 |
財務キャッシュフローと現預金残高
つづいて財務キャッシュフローです。財務キャッシュフローというのは資金調達や返済など、金融機関・資本家等とのやり取りによって生じる現金の増減です。たとえば、金融機関から500万円お金を借りれば現金が増えるので+500万円ですし、100万円返済すればお金が出ていくので-100万円となります。
財務キャッシュフローは、現金・預金がなくならないようにするための調整の役割を果たします。そこで、財務キャッシュフローの計画を立てる前に、資金調達無しで現金・預金がどう推移するのか、見通しを立ててみましょう。
まず、数字の見通しが立っているところを埋めていきましょう。仮に、基準年度の期初残高が500万円で、既存の借入の元金返済は毎年100万円あるとします。
| 項目 | 基準年度 | 1年目 | 2年目 | 3年目 |
|---|---|---|---|---|
| 売上 | 1,500万円 | 1,900万円 | 2,100万円 | 2,200万円 |
| 変動費 | 900万円 | 1,045万円 | 1,155万円 | 1,210万円 |
| 限界利益 | 600万円 | 855万円 | 945万円 | 990万円 |
| 限界利益率 | 40% | 45% | 45% | 45% |
| 固定費 | 600万円 | 690万円 | 690万円 | 690万円 |
| うち減価償却費 | 200万円 | 290万円 | 290万円 | 290万円 |
| 税引前利益 | 0万円 | 165万円 | 255万円 | 300万円 |
| 法人税等 | 0万円 | 50万円 | 77万円 | 90万円 |
| 税引後利益 | 0万円 | 115万円 | 178万円 | 210万円 |
| 営業CF | 200万円 | 405万円 | 468万円 | 500万円 |
| 投資CF | 0万円 | -700万円 | 0万円 | 0万円 |
| うち資産売却 | 0万円 | 0万円 | 0万円 | 0万円 |
| うち資産購入 | 0万円 | -700万円 | 0万円 | 0万円 |
| 財務CF | -100万円 | -100万円 | -100万円 | -100万円 |
| うち新規借入 | 0万円 | |||
| うち返済 | -100万円 | -100万円 | -100万円 | -100万円 |
| CF合計 | 100万円 | -395万円 | 368万円 | 400万円 |
| 期首現預金残高 | 500万円 | 600万円 | 205万円 | 573万円 |
| 期末現預金残高 | 600万円 | 205万円 | 573万円 | 973万円 |
新規借入に数字を入れずに考えてみると、上記のように、設備投資を行う1年目の期末残高が205万円と少なくなっています。
まず、もし期末残高がマイナスになっている場合は、経営が立ち行かなくなっているので、借入をして手元に現金を確保するか、計画を見直す必要があります。
また、マイナスになっていなくとも、今回の例のように残高が小さくなる場合も要注意です。ここに表示されているのは、あくまで期末時点の現金・預金残高の見通しです。期末にはお金がある見通しだとしても、期の途中では現金・預金が底をつくタイミングがあるかもしれません。このリスクを避けるため、現金・預金の残高はもう少し短いスパンで確認し行動することが大事です。それが、このページの最後に紹介する資金繰り計画です。
今回の例では、仮に、購入する資産の額と同じ700万円を借り入れて、毎年100万円ずつ返済するとしてみます。また、支払利息も発生するので、簡易的に、固定費が年間10万円増えるとします。
| 項目 | 基準年度 | 1年目 | 2年目 | 3年目 |
|---|---|---|---|---|
| 売上 | 1,500万円 | 1,900万円 | 2,100万円 | 2,200万円 |
| 変動費 | 900万円 | 1,045万円 | 1,155万円 | 1,210万円 |
| 限界利益 | 600万円 | 855万円 | 945万円 | 990万円 |
| 限界利益率 | 40% | 45% | 45% | 45% |
| 固定費 | 600万円 | 700万円 | 700万円 | 700万円 |
| うち減価償却費 | 200万円 | 290万円 | 290万円 | 290万円 |
| 税引前利益 | 0万円 | 155万円 | 245万円 | 290万円 |
| 法人税等 | 0万円 | 47万円 | 74万円 | 87万円 |
| 税引後利益 | 0万円 | 108万円 | 171万円 | 203万円 |
| 営業CF | 200万円 | 398万円 | 461万円 | 493万円 |
| 投資CF | 0万円 | -700万円 | 0万円 | 0万円 |
| うち資産売却 | 0万円 | 0万円 | 0万円 | 0万円 |
| うち資産購入 | 0万円 | -700万円 | 0万円 | 0万円 |
| 財務CF | -100万円 | 500万円 | -200万円 | -200万円 |
| うち新規借入 | 0万円 | 700万円 | 0万円 | 0万円 |
| うち返済 | -100万円 | -200万円 | -200万円 | -200万円 |
| CF合計 | 100万円 | 198万円 | 261万円 | 293万円 |
| 期首現預金残高 | 500万円 | 600万円 | 798万円 | 1,059万円 |
| 期末現預金残高 | 600万円 | 798万円 | 1,059万円 | 1,352万円 |
さきほどの表と見比べてみると、借入の返済や支払利息によって2年目以降のキャッシュフローは小さくなりますが、手元の現金・預金残高は大きくなることが分かります。経営の規模を拡大したり、設備投資をしたりする場合には、このように財務キャッシュフローまで見据えた収支計画を作成することが重要です。借入をするのは怖いと思うかたもいるでしょうが、借入をせず、そのため設備投資もできないまま非効率な経営を続けていくよりは、しっかりと利益が増え、現金を確保できる計画を立てたうえで投資を実行するほうがよいと思います。
今後の経営を、収支計画をつくって判断してみてください。
資金繰り計画を立てる
最後に、資金繰り計画です。収支計画を作成した人にとって、資金繰り計画は決して難しいものではありません。収支計画では年ごとの現金の流れの見通しを立てましたが、これと同じことを月単位の表で行うのが、資金繰り計画です。1列ごとのスパンが違うだけで、表の形としては同じものです。
ただし、大きな注意点があります。収支計画は1年単位なので、多くの場合、損益と収支のタイミングのズレがあまり問題になりませんでした。しかし、月次の資金繰り計画では、大きなズレが発生します。
たとえば、税金の支払いは、特定の月にまとまった金額が出ていきます。しかも、支払うのはふつうは前年度の損益から計算された税額です。この支払額を手元に用意しておかねばなりません。
また、収支計画のレベルでは、変動費を売上高や販売数量と紐づけて計算してよかったかもしれませんが、月次の資金繰り計画では、これもズレる可能性が大きくなります。
たとえば、ある商品の年間の売上高が100万円、変動費が60万円だとします。変動費の中には材料費や労務費など、いろいろなものが入っています。これらに紐づく支出・収入が年度内に収まっているようであれば、年単位の収支計画としては変動費を売上高の60%として自動計算するような関数を組みこんだ計画にするのが簡単です。
しかし、月の単位になると、そうはいきません。たとえば、3月から9月まで各種経費の支払いをしながら、9月に売上が立ってその入金が10月にある、という場合、売上が立つ9月や、入金のある10月に、同時にその60%の変動費の支出が発生する、という関数にすると、実態と大きくズレてしまいます。
こうした事情があるため、資金繰り計画は、売上高やその入金との紐づけで支出を計算する部分は本当にそれが当てはまる最小限のものにとどめて、基本的には各支出と収入をその見込みの月に入力しておくことが大事です。
ここまでの、損益モデル、損益計画、収支計画、資金繰り計画という一連のステップを踏んでいけば、数字をもとに経営判断をするうえでの土台ができあがります。大変だと思うかもしれません。しかし、一度作成すれば、「なんで最初からやっておかなかったのか」と思うほど、経営の内容がクリアに見えて、事業を客観的に評価できるようになります。それに、土台を作成してしまえば、次からはそれをもとに修正・更新していけばよいので、財務管理の負担が大きく減ります。ぜひ、チャレンジしてください。
次のページが、いよいよ本シリーズの最後です。ここまでつくってきた一連の計画を、具体的な行動に落とし込んでいきます。
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