利益って何だろう? --農業経営のために理解しておくべき「費用」と「支出」の違い

PL脳・CF脳からファイナンス思考へ

経営において、単年度の売上高や利益を偏重する姿勢を指して「PL脳」という言葉が使われることがあります。
もちろん、売上高や利益は重要です。
ただ、経営を長期的な視点で考えるなら、それだけを見ていては十分ではありません。

いろいろな経営者さんと話をしていると、実際には「利益を偏重する」というよりも、「手元にいくら現金が残ったか」を重視する人の方が多いように感じます。
言ってみれば、「PL脳」というより「キャッシュフロー(CF)脳」です。

もちろん、キャッシュフローは経営にとってきわめて重要です。
キャッシュフローというのは現金の出入りのことで、とくに、現金の出入りの結果として現金残高(実際のところは預金残高)がゼロにならないようにコントロールしていかなければなりません。
これが資金繰り管理です。
利益が出ていても、現金がなくなれば会社は立ち行かなくなります。

さて、問題は、現金の増減と利益を混同してしまうことです。
これが起こるのは、費用や利益といった概念が意外に難しいもので、正確なところは複式簿記や貸借対照表を理解しなければ捉えられないものだからだと思います。

利益というのは、「現金がいくら入ってきて、いくら出ていったかの差額」、ではありません。
「お金を払うこと」と「費用が発生すること」は別です。

目次

費用って何?

たとえば、10万円分の材料を購入したとします。
このとき、10万円のお金は出ていきます。
しかし、だからといって10万円の費用が発生したわけではありません。

10万円の現金が、10万円分の材料に姿を変えただけです。

会計上は、現金という資産が減って、その代わりに材料という資産が増えたことです。
資産の総額は変わっていません。

その材料を実際に製品の生産などに使ったとき、はじめて材料という資産が消費され、その分が費用になります。

この「お金を払ったとき」と「費用になるとき」が一致しない、という感覚はとても重要です。

費用というのは、あくまで、資産という価値が減ったときに発生するものなのです。
また、利益というのは、資産の増加分です。

減価償却費は特殊な費用?

設備投資も同じです。
たとえば100万円の機械を買ったとします。
100万円の現金は出ていきますが、購入した瞬間に100万円をすべて費用にするわけではありません。
購入の時点では、現金という資産を機械という別の資産に交換しただけだからです。
その機械は、これから何年にもわたって仕事をして、売上や利益を生み出してくれます。

ただし、機械の資産としての価値はだんだんすり減っていきます。
たとえば、300万円の自動車を買い、数年たって売却するとしたら、ふつうは300万円より安い価格でしか売れません。
このように、機械などの資産は、時間とともに価値を減らすものです。

そこで会計では、機械を使うであろう期間にわたって、購入にかかった金額を少しずつ費用にしていきます。
それが減価償却費です。

減価償却費は、特殊な費用だと思われがちです。
しかし、「何年にもわたって使う設備の購入額を、その設備が仕事をする(=価値をもっている)期間に分けて費用にする」と考えれば、むしろ購入と同時に発生することになっている費用よりも、よほど費用らしい費用です。

設備投資をして、
「こんなにお金を払ったのに、減価償却費の分しか利益が減らない。節税にならない」
と不満に思う人もいます。
しかし、設備を買った時点では、単に現金が設備に姿を変えただけです。
購入額の全額分の資産をその年に消費したわけではありません。
ここを理解しないまま、「お金が出ていくものはすべて費用」と考えてしまうと、設備投資の判断も難しくなります。

設備投資も

投資というのは、単に「いくらお金が出ていくか」「いくらのお金を生むか」だけで考えるものではありません。
その資産がどのくらいのキャッシュを生むのかを考えるのと同時に、その資産が会社の資産をどのくらい増やすのかを考える必要があります。

この過程では、その資産自体の価値がどのように変化するのかも考慮することになります。
投資効果の計算問題でよく「購入した資産は○年後に○万円で売却すると仮定する」といった条件が付されているのも、投資による効果はキャッシュフローの増減以外にその資産の価値の増減も踏まえなければならないからです。
仮に、1000万円で設備投資をしたとして、その設備が数年後にもとと同じ1000万円で売却できるとしたら、投資回収は非常に簡単ですよね。

こうしたことを理解していくのが、いわゆるファイナンス思考の入り口です。

財務に関する経営スキルを高めたいのであれば、まずは、
「ものを買うというのは、ものという資産と現金という資産を交換するだけのこと」
というところから捉え直してみてはいかがでしょうか。

こうした交換の発想でつくられている会計のシステムが、複式簿記です。
複式簿記は、単なる経理の技術ではありません。
経営の中で何が起きているのかを、資産や負債、利益といった価値の視点から捉えるための道具です。

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この記事を書いた人

福井を拠点にオンライン・対面にて全国の農業経営者を支援している、経営コンサルティング会社「一茎」の代表です。
一茎のウェブサイトおよびメールマガジンでは、経営改善や効率化のためのちょっとしたポイントなどを発信しています。

【経歴】
東京大学文学部卒業、東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻修士課程修了(学術修士)。
外資系種苗メーカーの海外営業エリアセールスマネージャー、経営コンサルティング会社のコンサルタント/マネージャーを経て、一茎を設立。
主要な支援領域はファイナンス(経営分析・財務管理)、デジタル、マーケティング。
中小企業診断士。ITコーディネータ。

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